第36話

「『話し』は―――“彼女”から聞いているよ。」

「は・あ―――……(彼女?)」

「いや、それにしても大した胆力だねぇ、ひ弱なイメージしかないあんた達エルフが単独で鬼の郷スオウを訪ねるだなんてね。」

「(……)あ―――そうだった……あなた宛て―――だと思うんですけど、ギルドマスター様から『手紙コレ』を渡すように……と。」

しかし―――オーガの“カシラ”と見られた女性は、提示された手紙に目を通さないばかりか……

「(え?)なんで―――目を通さない……」

「“そいつ”は―――『白紙』だからだよ。 なにも書かれていない手紙に目を通す―――だなんて、滑稽だろう?」

「(!)それじゃ―――私……」

「だけど、私が“信じる友”の真意は汲み取っている……。」

「(『信じる友』……)それじゃ―――やはり、あなたが……」

「私の名は『リリア』―――かつてノエルと同じPTにいたことのある“仲間”さ。」

「(?!)でもっ……ノエル様は【韋駄天ストライダー】―――だとしたら……あなたは??」

「(フ……)さといもんだ―――ああそうさ、この私こそが【清廉の騎士】って呼ばれていた存在さ。」


すると―――今まで断片的だったモノが一つになり始めてきた……


この人が―――【清廉の騎士】……って、ことは?


「あのっ―――それじゃ、私の所属しているクランにいる【赫キ衣の剣士】……」

「ああ、私の息子だね。 あの子は……ね、私が“こんな”にならなけりゃ真っ当まっとうヒト族……だったものを、さ。」

「私―――知ってます……あなたともう一方ひとかた……魔王軍との闘いで瀕死の重傷を負ってしまったものの、PTのリーダーだったヴァーミリオン様のオーガとしての血を受け入れた……って。」

「ほお~そこまで知ってるんなら話しは早い。」

「けど、あなた達がその後に受けた“仕打ち”は間違っていると思います!」

「そいつは、“同情相憐どうじょうあいあわれむ”―――って処から来ているのかい?」

「え……ええ―――だって、そうじゃないですか!その生命を賭してこの魔界せかいを救ったと言うのに……!」

「あのね……エルフのお嬢ちゃん―――私はヴァーミリオンが施してくれたことに何ら異論を差し挟むつもりは毛頭ないんだよ、逆に元私達の種属だったヒト族の“弱さ”てのが見れて良かったとさえ思っている、そりゃね……皆、誰しもがそうなんだ―――苦境に立たされた時、救いを求める手と―――そして差し伸べる手と―――けれど『咽喉元のどもと過ぎればなんとやら』、実際は怖いもんなんだろうさ―――他の種属と比べると見劣りがちなヒト族、そんな連中から見た“英雄”って、一体なんなんだろうねぇ……」


その時―――初めて“思い”“知る”事となる……

一人の英雄の、迫害の歴史を―――


“化け物”強さ――――――

その比喩たとえ通り、“化け物”として見られる日々―――

だから【清廉の騎士】は逃げるようにしてスオウへと転がり込んだ……

その時分じぶんにはまだPTのリーダーだったヴァーミリオンも健在であり、どうにか落ち着ける場所は見つけられたのです。


        * * * * * * * * * *


閑話休題それはそれとして―――

ならば?ギルドマスターであるノエルは、一体何の目的で自分をノエル自身の信友リリアに会わせたかったか―――


「ん~~じゃ、そろそろ向かうとしますか。」

「はい?……どこへ―――」

「怖ぁ~い鬼さんが、いるト・コ・ロ♪」


その瞬間、凍り付くシェラザード……しかし、同時に思ったりもするのです。


あるぇ?てか……この人がオーガの“カシラ”じゃなかったっけえ~?

でも……この人をしても『怖ぁ~い』人―――って……誰なの?


“今”でさえも、他のオーガからのプレッシャーにけそうになっていると言うのに……それが例え、側にオーガの“カシラ”たる人物がいたとしてもどこか言葉の“魔力”に怯える自分がいる……


そして、連れてこられた―――『祠』と思われる場所に……

入口までは陽光が当たってはいるものの、ほんの数歩進んだだけで闇が浸食してくる場所―――『祠』……

そんな場所に“カシラ”の良くとおる声に反応したものか、最奥にあると思われる『祭壇』から一人の人物が現れてきました。


しかし―――……


えっ……この人―――よく似ている……

この私の……一番の“悪友”良き理解者と―――


その人物は、上に『絹白けんぱく』を―――下に『唐紅からくれない』を着付けた『巫女』でありました……しかし、そう―――その人物は余りによく似ていたのです。


その目鼻顔立ちから、雰囲気まで―――


「お待たせを致しました―――それで、こちらが―――?」

「ノエルから連絡があった子だよ。」


その人は、神妙にして清楚―――と言った表現が良く似合う女性ひとでした。

それはまた【清廉の騎士】と呼ばれ、自分も惚れかけている【赫キ衣の剣士】の母と呼ばれている女性ひともさながらにして―――

しかして―――


「私が、この郷にまつらるる、『八幡神社はちまんじんじゃ』の巫女―――『ホホヅキ』と申し上げます。」

「(!)では―――あなたが【神威】!?」

「へえ……私の事、打ち明けた時もあんまり驚かなかったけど……ひょっとしてお嬢ちゃんあの創作話つくりばなしの愛読者?」

「はい―――!あの『緋鮮の記憶おはなし』は何度となく読み返してて……」

「なら、話しは早い―――」

「(は?)『話し』―――って??」


すると―――“ぱさり”と自分の髪が、一房ひとふさ落ちた……?

いやしかし“それ”は余りに不自然……髪が一房ひとふさ単位で落ちる事など、まず―――有り得ない……と、するならば?



#36;(手荒い)歓迎



「精々泣かぬよう―――気を張りなさい。」


           え?  え??  え???

「ちょちょちょちょっ――――い……今、何をしたんです?」

「へえ~~この子、“視え”てるよ……あんたの『剣の間合い』が……」

「フ……そうでなくては―――」

「(ゴク~リ……)あ……あのぅ~~―――ひとつ聞いてよろしいでしゅ?」

「何でしょう―――」

「『クシナダ』って人―――……」

「それは、私の娘になります。」


やぁっぱしい~? え?てことはナニか?? 娘いぢめてるから、これを機会に“お仕置き”しよう……ってえ?

いや……けどなあ―――いぢめてる感覚、ないのになあ~~?

だったらなんで―――こんなことになっちゃってるワケぇ~?


『自分の髪が一房ひとふさ落ちた』―――と言う不可解な現象は、その原因はすぐに分かってしまいました。

その人は『巫女』でありなからも『刀』と言う武器を手に取り、攻撃を可能と出来る職に就いていた……しかもその“抜刀術”たるや既に神妙の域にまで達しており、シェラザードの髪が、“一房ひとふさ”―――と言うのも、明らかに【神威】が放った剣閃がそうさせたから……

しかもその元を手繰たぐってみれば、いつも何かしらで熱い火花を散らし合っている“悪友よきとも”の母親だった―――と、言う事に。






つづく

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