第58話勘違い

マリーとシリルを連れてトーマスが部屋を出ると、私は目の前で真っ青な顔で立つ女を見つめた。


「それで?なにか言いたいことはあるかな?」


怒りを抑えるが思いの外冷たい声が出た。


目の前の女は肩をビクッと揺らすと縋るような目でこちらを見つめる。


「ち、違うのです…なにかの間違え…私はちゃんとやりました…悪いのは…」


「私の可愛い子供達とでも言う気かい?」


「そ、その…」


女の目が泳ぐ…


「はぁ…テオドールが何も言わないから成長したのかと思っていたが期待はずれもいいとこだ。君の親からどうしてもと頭を下げられてテオドールの教師と迎えてみれば…そこでお互いに成長出来ればと見守っていたが成長していたのはテオドールだけだったようだね」


「お父様に…頼まれて?嘘ですよね?私の才を認めてくださったからですよね?」


「才?そう呼べるものが君にはあったかな?まぁ人並みに読み書きが出来るから子供の勉学程度は見れるかとはおもっていたが…」


ジェラートのガッカリした顔にラクターの顔が青を通り越し白くなった。


「そんな…ジェラート様は私の事を認めてくださっていると…そしていつか私も迎えてくれると思ってたのに…」


「迎える!?君を?まさか!」


ジェラートはラクターの発言に驚いた!


「君の視線にはいつも嫌悪感があったがそういう事を考えていたからか…悪いが私はフローラ以外この先妻を持つつもりはないよ」


「そ、そんな…な、なら愛人でも!」


ラクターはジェラートのそばに行くとその手をそっと触ろうとした…


「やめてくれ!」


ジェラートは全身に鳥肌が立った!


「君は私に雇われているに過ぎなかった人だ…しかしこの行為は許されない…このまま大人しく帰ると言うなら法的措置は取らないでおこう」


「ほ、法?何を…」


「はぁ…子供を教える立場の癖にそんな事もわからないのか…もういい。誰か!」


ジェラートが声をあげると扉で待機していた従者が飛んできた。


「ジェラート様!大丈夫ですか!?」


「ああ問題ないよ。すまないがそこの呆然としてるラクターさんを屋敷に連れ返してくれ。そしてビルド伯爵にこの手紙を…」


「父に?」


ラクターが父親の名前に反応した。


従者はそれを受けるとラクターの腕を掴んで立たせて歩かせる。


「ではラクターさん、今日までお勤めご苦労様…もう明日から来なくていいですからね」


ジェラートが最後にスッキリとした顔で微笑んで挨拶をした。


ラクターはその笑顔に見つめながら部屋から引きずられるように出ていった。

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