第97話 サムジャ、メイシルと屋敷に突入
「何か嫌な予感がします。皆さん気をつけてください」
屋敷に向かう途中、セイラが俺たちに警告してきた。セイラには聖なる導きというスキルがあるらしく、危険な場所に近づくと妙な胸騒ぎを覚えるようだ。
「わかった気をつけるとしよう」
「魔物でも飼ってるのかな? でも、そのときはパピィだっているしへっちゃらね!」
「ワンワン!」
ルンとパピィも張り切っているな。
「ま、油断はせぬことだ。昨晩のこともある。相手が何かしら仕掛けてきても不思議ではない」
マスカも忠告してくれた。あの般若の仮面をつけてるから表情はわからないが、きっと真面目な顔をしていることだろう。
「だがマスカ、そっちじゃなくてこっちだ」
「わ、わかっている!」
イマイチ決まらないマスカを正しいルートに引き戻し、そしていよいよ屋敷にたどり着いたわけだが。
「メイドのメイシルだな!」
「マルキエル伯爵の毒殺を謀った罪で貴様を捕らえる!」
「メイシルに協力した貴様らも全員だ大人しくしろ!」
「逆らったら容赦はせぬぞ!」
「な!? 一体何の話ですか!」
やれやれどうやらセイラの嫌な予感が当たったようだ。しかしこれは困ったな。メイシルと証拠を持ち屋敷に戻ったのだが、突然騎士と兵士に囲まれてしまった。
メイシルもかなり動揺している。
「ちょ、これどういうこと?」
「ワンワン!」
ルンも唇を噛み締め、取り囲んできた兵たちの様子を探っている。パピィも警戒しているが、とりあえずすぐには手を出さないよう抑えている。
「俺達はメイシルの護衛だ。領主に関して言えば寧ろ助けるために来たんだがな」
「そうです! 私は聖女のセイラです。どうか、伯爵様に引き合わせてください!」
セイラも兵たちに事情を説明しようとする。だが、聞く耳を持ってはくれなさそうだ。
「ダミール様の指示だ! あの方がお前たちが犯人だと言っているのだから間違いない!」
「そうだ。ダミール様こそが我が領主に相応しい!」
兵たちが口々にダミールを褒め称え始める。正直言って不気味だ。さっきから思っていたが、目の焦点もどことなく定まっていない。
「マスカ。こいつらおかしくないか?」
「ふん。どうやらそれぐらいは判ったようだな。おそらくだがこいつらは何らかの洗脳を受けている。これまでの話から推測するとダミールという愚か者が何かしたのだろう」
やはりそうか。洗脳と言うと何かしらのスキルか? だが、以前見たダミールからはそんな優れたスキルを持っている気配は感じなかった。
それにそんなスキルがあるなら、これまでも色々とやりようが会ったと思うし、これは何らかの道具に頼った可能性が高いと見るべきか。
「セイラ、洗脳だとして解けるか?」
「ごめんなさい。そういった魔法は覚えてなくて……こっちではあまり勉強する時間もとれなかったんです」
セイラが申し訳無さそうに言ったが、謝るようなことではないな。ただ、勉強する時間がとれなかったか。それすらもあいつの策略なんじゃないかって気になるな。
「仕方ない。洗脳なら派手には出来ない。傷つけないよう逃れよう」
「貴様何を言っている! 大人しくしろ!」
「居合忍法・水霧の術――」
居合省略で忍法を発動した。途端に周囲が霧に包まれる。
「な、何だ?」
「見えないぞ!」
「居合忍法・影鎖の術!」
「え? うわ! 鎖が!」
「こっちだ皆!」
霧で視界を防ぎ更に影の鎖で何人かの身動きを封じたことで生まれた隙間を使って囲いから抜け出した。
そのまま屋敷の中に侵入するが――
「ガウガウガウガウガウ!」
「番犬か……」
「一難去ってまた一難ね」
「ワオォオオオォオォオォオォオォオオン!」
かなりの数の番犬が襲ってきたが、パピィが遠吠えを奏でると、一様に動きが止まった。パピィの強さを察したのだろう。まだ子犬とは言え忍犬としての力は上がっているからな。下手な番犬では手も足も出ないってことか。
「やったわねパピィ!」
「凄いですパピィちゃん」
「アンッ!」
パピィも得意げだ。何も無ければなでてあげたいところだが、今はそんな余裕はないか。
ただ、マスカがムズムズしているのがわかったが。
さて番犬の間も余裕で抜けた俺たちだったが。
「止まれ! 此処から先はいかせんぞ!」
「あ、た、大変です。その御方はブラッハ。ここの騎士と兵を束ねる長。かなり強いです!」
庭を抜けると今度は騎士たちの長とやらが出てきたぞ。
「メイシル。残念だ。君がこのような悪事に手を染めるとは」
「聞いてくださいブラッハ! 貴方は騙されているのです。寧ろ旦那様の弟であるダミールこそが犯人です。証拠も持ってきてます!」
「黙れ! この期に及んでまだそのような戯言を! とにかく私の目の黒いうちはここから一歩も!」
「居合忍法・堅牢石の術!」
何か色々と語っているが、面倒なので忍法を発動。ブラッハを含めて兵たちを岩の牢屋に閉じ込めた。
「な、何だこれは!」
「で、出れない!」
「くそ! 卑怯だぞ!」
「なんとでも言ってくれ。さ、行こう」
「……お前、結構ドライだな」
呆れたようにマスカが言った。でも、こんなの構ってる時間が惜しいしな――
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