第91話 パピィの冒険② 其の二

 シャドウマンティスはやらしい攻撃をしてくる相手だった。シャドウマンティスは鎌状の手を飛ばすことが出来た。


 しかも飛ばしてすぐ鎌の手つまり鎌が再生する。更に本体だけではなく影に当てることでも本体にダメージを与えることが可能なようなのだ。


 これはすなわちたとえ影に潜っていてもパピィにダメージが通るということでもある。


 最初にシャドウマンティスから嫌な予感を覚えたが間違いではなかった。


 しかし、この影から本体へのダメージというのはパピィにとって相性が悪いとも言える。


 迂闊に影操作で攻撃出来ないからだ。影操作もパピィから伸びている影で出来ている以上、操作している影を切られたらダメージが通ってしまう。


 そこに注意しながら戦う必要がある以上、迂闊に影操作は使えないのである。


 だが、それでも――


(これなら、何とか対応出来るよ! 僕は忍犬だからね!)


 シャドウマンティスの動きは、対応出来ないほど鋭いものではなかった。数は二匹だがこれならまだ対応出来る。


 そして、ここだ! と一匹に狙いを定めたパピィだったが。


「闇の裁き!」


 ハデルが杖を振り上げると同時に黒い光がパピィの真上から降ってきた。シャドウマンティスの攻撃もある、パピィは完璧には避けられず被弾してしまう。


「はは、犬ころ風情が我らに勝てるわけなかろう。その魔法はダメージが持続する! 大したことがないように見えても徐々に貴様は疲弊していくことになるのだ!」


 ハデルの言うように傷の痛みは全く引かなかった。ダメージそのものは大したことはないが非常に鬱陶しく思える。


 厄介なのはハデルの魔法と魔物の鎌の連携だ。見切れると思っていたシャドウマンティス二匹の攻撃にハデルの魔法が加わったことで避けにくくなってしまった。


 やはり数の差もある。影操作が使えないのが痛い。何とかならないかと考えるパピィだったが。


(待てよ。僕のはあくまで影操作だ。何となくこれまで自分の影だけで見ていたけど――)


 パピィは試しにシャドウマンティスの一匹の影に干渉できるか試してみた。するとシャドウマンティスの影が伸び意趣返しとばかりに鎌に変化させもう片方のシャドウマンティスに切りかかった。


 だが切られた側のシャドウマンティスが鎌を振り上げそれをガードし、更に影に攻撃を加えた。緊張するパピィだがダメージを受けたのはもう一匹のシャドウマンティスだった。


(やっぱりこれはあくまで影の持ち主にダメージが通るスキルなんだね。なら!)


 距離を縮め今度はハデルの影を伸ばしシャドウマンティスがその影にも反撃した。ハデルの影が切り飛ばされ、悲鳴を上げたのはハデルだった。


「く、くそ! 何が起きたんだ。何故私に痛みが!?」


 ハデルが慌てている。その隙に旋風爪牙でシャドウマンティスの一匹を撃退した。


「くっ、ダークヒール!」


 ハデルの受けた傷が塞がっていく。邪教徒といっても回復魔法は使えるようだ。


 だが、一匹倒したことでハデルとの間に射線が開いた。影操作で影を伸ばしハデルを切りつける。


「くっ! フッ――」


 パピィの攻撃にハデルは苦悶の表情を浮かべ、直後不敵な笑みをこぼす。


「!?」


 パピィの体に傷が出来た。反撃を受けたのか? と周囲に集中するが何か攻撃が来ていた様子はない。

 

 かと思えばシャドウマンティスの残りの一匹が鎌を伸ばして切りつけてきた。伏せて避け攻撃際にカウンターで影操作を行使。だが、ほぼ同時に黒い光が降り注ぐ。


 パピィはそれを避け、下がりながらシャドウマンティスの影を操作しようとしたが出来なかった。


 どうやら範囲から外れたようだ。他の影を操る場合は範囲内にその影がある必要がある。その範囲も決してそこまで広くはない。だからこそハデルの影を操るためにパピィは距離を詰めたのである。


 さて、問題は今度は何故自分にダメージが来たかだ。ハデルからすれば意趣返しのような思いだろう。


「チッ、回復魔法がなければやってられんな」


 ハデルが魔法で自分の傷を回復していた。つまり攻撃によるダメージは与えている。だが同時にパピィも傷を負った。


 ここでパピィは考えた。ハデルは装備もしくはスキルの影響で受けたダメージの幾つかが跳ね返る状態なのではないかと。


 だとしてもハデルの方がダメージが多いわけだが、しかし回復魔法がある。結果的にパピィのダメージが蓄積されていくことになる。


 だがダメージを回復するには魔力が必要だ。魔力さえ尽きればパピィの方が有利になる。


 ただ、現状だとその前にパピィの体力が尽きる可能性もある。シャドウマンティスの攻撃も続いているからだ。


 シャドウマンティスが今度は巨大化した鎌を投げつけてきた。室内で投げられた鎌は部屋の幅一杯に広がって回転しながら飛んできた。


 しかも今度は低めの弾道であり、伏せではやり過ごせない。パピィは飛んで避けるしか道がなかった。


 しかし待っていましたと言わんばかりにハデルの闇の裁きが降り注ぐ。


 直撃する、そう思えたがパピィは空中で旋風爪牙を行使。空中から錐揉み回転しながらの急降下に軌道を変更。先ずシャドウマンティスを切り裂き、そのままハデルへと突っ込んだ。


「ぐはぁぁああ!」


 ハデルが吹き飛ばされる。一方パピィもそのまま床に叩きつけられた。ダメージの一部が跳ね返ったのだ。旋風爪牙の威力は高く一部とは言え跳ね返った後にパピィ自身に来るダメージも高い。


「グルゥ――」


 傷つきながらもパピィが立ち上がる。パピィは意地を見せた。見るとシャドウマンティスも動く気配がない。


 ハデルの召喚した魔物は倒すことが出来た。後はハデルだけ、と考えたその時、そのハデル自身の両手がパピィに掴みかかった。


「――ッ!?」


 そして気がついた。両手で触れられた途端、生命力と魔力が吸い込まれていく感覚に。


「マナドレインとエナジードレインだ! 魔力は大したことなさそうだが、それでも両方同時に失えば生きてはいられんさ!」


 パピィは何とか振りほどこうとしたが、既に蓄積されたダメージでそれも叶わない。


「はは! 死ね! 死、なにぃ!」


 だがしかし、スキルを行使するハデルの目の前からパピィが霧のように消えていなくなってしまった。


「そんな馬鹿な――」

 

 その光景に呆然と立ちすくむこととなったハデルなのであった――

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