第58話 サムジャ、犯人をパピィと倒す

「やったわねシノ! それにパピィも!」

「はい! あ、怪我はありませんか?」

「これでパピィの仇も討てたのね」

「ワンワンッ!」


 俺がジャックを倒した後、離れた場所で待機していた三人がやってきて俺とパピィを労ってくれた。


 当初は俺とパピィだけでやると言っておいたし実際そのとおりで進んだのだが、せめて何かあったときのために近くで見守りたいと三人が言ってくれた。


 セイラに関しては教会のこともあったので大丈夫か? と確認したが、そもそも今日は教会に戻らないつもりだったらしい。


 色々とセイラも鬱憤がたまることも多かったようだ。かといって危険な目にあわせるわけにはいかないと思っていたが、ルンやシエロも一緒にいてくれるということになり、そして女子の連携パワーに俺もそれ以上何も言えず、とにかく相手に見つからない場所に留まるなら仕方がないって話になった。


 ま、セイラに関しては囮の為とは言え、あんな格好を見せてもらったというのもある。あの民族衣装、結構露出が激しいからな……


 しかも見せるだけじゃなく、その後俺がその姿に変化して夜の街を歩くのだから、うん、何だこのプレイ。

 

 いい作戦だと思っていたからかついつい深く考えずやってしまったが、急に申し訳なく思えてきた。


「セイラ、正直済まなかった」

「えぇええ! ど、どうしたのですか急に!」

「いや、よく考えたらとんでもない格好をさせたというかさせてもらったと言うか、そんな気がしてな」

「き、気にしてませんよそんなこと!」


 そういいつつもセイラの顔がかなり赤い。やっぱり恥ずかしくなったかもしれない。


「ふぅ、これがもしセイラじゃなくてルンだったら、親父さんに殺されたかもな」


 俺はなんとなくオルサの顔を思い出した。ルンを溺愛しているからな。


「そ、それは流石にないわよ」


 ルンはそれを否定したが、若干不安そうだ。ありえるという思いもあるのかもな。


「そうね。それにルンだと胸が強調されないからそこまでのことにはならないと思うわよ」

「ちょっとシエロ! どういう意味よそれ!」

「はは、ご、ごめんねつい思ったことを」

「余計わるい~!」


 ルンが腕を振り回して怒った。まぁじゃれてるっぽくもあるけど。


 とは言え比べるのも悪いが確かセイラとはかなりの違いがある。自分で変化してその重量感に圧倒されたものだ。あの状態じゃ戦闘になったら確実に影響出るな。刀振れないかも。


「パピィ、それにしても顔が血で、ほら拭いてあげる」

「ワフッ、クゥ~ン」


 シエロがハンカチを取り出してパピィの顔を拭いてくれた。確かに血だらけだったからな。流石受付嬢だけあって気が利く。


 しかしあいつを倒した技、天地落としからの旋風爪牙か。よく考えたら中々えげつない攻撃かも知れない。


「パピィ、仇が取れてよかったわね」

「ワンッ!」


 シエロのおかげで綺麗になったパピィが一鳴きした。仇が取れたことは嬉しそうでもあるな。


「ところでセイラ、その大丈夫なの?」

「え? あ、はい。その、仕事柄死体を見ることもあったので」


 ルンが聞いたのは目の前に転がっている死体だろう。結構ひどい状態ではあるからな。特に同情なんてしないが。


 しかしそれを見ても平気というのもよく考えたセイラは中々の胆力だな。


「この死体どうする? 衛兵を呼んだ方がいいかい?」

「いえ。依頼はまだ期間が残っている以上ギルドの範疇よ。このまま死体はギルドで一旦回収するわ」

「なら俺がしまっていったほうがいいか?」

「いいの? お願い出来たら助かるけど……」


 だったら問題ないな。俺は影風呂敷で死体を回収した。


「それじゃあ明日まで預かっておけばいいか?」

「流石にそれはもうしわけないし、これからギルドにこれる?」

「大丈夫だけど、開いているのか?」

「大丈夫。一部の受付嬢は何かあったときのために合鍵を預かっているから」


 なるほど。シエロはギルドの受付嬢じゃ立場は結構上の方っぽいし、それで鍵を預かっているのだろう。


「皆はどうする?」

「勿論行くわ!」

「私もいいですか? 冒険者ギルド、私、気になります!」


 セイラはどことなくわくわくしてそうだな。教会は規律が厳しそうだし、普段はあまり自由が効かないのかもしれない。


 さて皆の目的も重なったし、俺達はギルドに向かった。シエロが鍵を取り出しドアを開けた。


「どうぞ」

「悪いな」

「何か時間外のギルドに入るのってちょっとドキドキするわね」

「私は実は冒険者ギルドは初めてで」

「アンッ!」


 それぞれの感想を懐きながらギルドに入った。まぁといっても時間外だからといって内部の構造が変わるわけでもない。


 時間が時間だけに暗いぐらいか――と思ったが薄っすらと明かりが灯っていた。


 ギルドには明かり用の魔導具が設置されているから、明かりがあるのはおかしくないが、時間外だからな。


「まさか、泥棒!?」

「う、うそ!」

「注意したほうが良さそうか。パピィ周囲の状況がわかるか?」

「ワン!」

「た、大変なことになってきましたね!」

「えっと、セイラ楽しんでる?」


 確かにセイラの声は若干弾んでいる気がする。


「ワン!」


 そしてパピィが階段を駆け上がっていく。どうやらこっちに何者かがいるようだ。


「クゥ~ン」


 そしてパピィがチョコンっと扉の前に座って鳴いて教えてくれた。ふむ、しかしこの鳴き方。


「ここギルド長の部屋じゃない」

「パパの部屋を狙うなんて泥棒もいい度胸してるわね!」

「あ、いやこれは」

「覚悟しなさい! 泥棒! はぁああぁああ!」


 ルンが自らに刻印を施し、扉を開けて中も確認せず火球をぶっ放してしまった。いや、そのなんだ中には多分。


「な、なんだなんだ! 敵襲か!?」

「へ? あ。あれ? パパ?」

「は? る、ルン! なんでお前がここに? てかいきなり火の玉ぶっ放すって反抗期か? 反抗期なのか!」


 あぁ、うん。やっぱりか。パピィの鳴き方がおとなしいから危険がないって意味だと思ったんだが、ルンも中々早とちりだな――

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