第36話 サムジャは容赦しない
「居合忍法・抜刀旋風」
続けざまに忍法を行使。発生した風で毒ガスを吹き飛ばした。
「はぁ、助かったわ」
「クゥ~ン」
毒ガスが消えたことで、ルンとパピィもほっと一安心といったところか。ガスは範囲は広いが風で吹き飛ばせる。
「く、くそ! よくも仲間を!」
「クズでも仲間意識はあるんだな。だが、殺すつもりだったなら殺される覚悟も持っておくべきだろう」
この連中は殺意を持って接してきたわけだし、俺としても容赦する理由がない。ルンの護衛を任されている責任もある。ルンの命を脅かす連中に手加減など無用だろう。
「さて、これで三対三だな」
「だまれ! 何が三対三だ! 一匹はただの犬だろうが!」
「グルルルゥウ!」
「犬のくせに生意気なんだよ!」
トラバウドが地面を踏むと、壁から矢が発射されてパピィを狙った。罠師は罠を張ることが可能な天職だ。故に直接戦闘は苦手な印象もあるがやりようによっては十分に戦える天職でもある。
だが、相手が悪かったな。パピィは矢を軽やかな左右のステップで躱していく。パピィはスキルの効果もあって五感が鋭い。ここにくるまでのトラップはほぼ全てパピィが見破った。
だから罠が発動するタイミングは軽く見破れる。
「く、なんだこいつ!」
吊り天井にも落とし穴にも引っかからない。トラバウドの表情には焦りが見えた。
「だったらこれでどうだ!」
床を踏むトラバウド。その瞬間、爆発が連鎖した。一直線に続く爆豪。周囲が煙に包まれた。
洞窟の中で爆発とは無茶をする。だがここはダンジョンという特殊な環境。普通の洞窟内なら空気が一気に持っていかれそうだがダンジョンという不思議空間の場合そういった心配はない。
しかし煙のおかげで目で頼る戦い方は厳しそうだ。
「ハッハーー!」
と、俺に向けて攻撃を仕掛けてくるのがいた。ケナイだ。飛び蹴りをガードし相手が着地したところで居合を重ねようとしたが後方に飛び跳ねた。
斬撃が空を切ると、ケナイは空中を蹴り再び飛び蹴り。
「三角飛びだ!」
壁や空気を蹴り方向転換するスキルだ。今度はまともに喰らってしまう。
「まだまだ! 瞬撃拳! 瞬撃脚!」
素早い拳と蹴りによる連続攻撃が続く。
「三連突きからの――旋風脚!」
動きの素早いモンクだ。一発決まったと見るや怒涛のコンビネーションを決めてくる。相手も勝ち誇ったような顔を見せているが。
「居合忍法・抜刀旋風!」
「な! 馬鹿な何故平気、ゲハっ!」
抜刀と同時に発生した突風でケナイが吹っ飛んだ。周囲に風を巻き起こした効果で煙も霧散する。
ケナイは地面をゴロゴロと転がった。しかし、ルンのおかげで助かった。ここで戦いになる可能性は考えていたからな。ルンの刻印魔法で鉄の刻印を刻んでもらっていた。
その上で土纏も行使していたから防御の面では万全だったのさ。
「じ、自己回復!」
さて、倒れたケナイだったがどうやらスキルを発動したようだ。怪我が回復し立ち上がる。
モンクは多少の回復魔法も扱えるんだったな。
「はは、いいねぇ! ますますやりたくなった!」
「御免こうむる。それと敵は俺だけじゃないぞ?」
「なに?」
「ハアァアアァアアァアアア!」
横からルンが近づきケナイの顔面を杖でぶっ叩いた。
「ハゲェエエエェエエエエ!」
ケナイがふっとばされる。しかし、まさか杖で殴りにくるとは思わなかった。
「意外と力があるんだな」
「力の刻印よ!」
フンッ、と腰に手を当て言い放った。なるほど力が強化される刻印ってことか。
「テメェ! 調子こいてんじゃねぇぞ! スマッシュ!」
ダンが俺の背後から迫り剣を振り下ろす。威力の高い一撃を放つスマッシュか。力強い振りだがわかりやすい。半身をそらし避ける。
「居合忍法――」
「パワータックル!」
「むっ!」
反撃に移ろうと思ったが、ダンの攻撃は終わってなかった。体当たりを受け、俺の体が浮き上がる。
強闘士は一撃の威力が高めの天職だ。だが一撃に重みを置くあまり連続的な攻撃はそれほど得意ではなく、攻撃スキルにも隙が生まれるのも多い。
だがスマッシュはその中では比較的隙が少ない方だったか。そこからのこの体当たりは相性がよかったのだろう。
パワータックルもスキルだが、威力よりは相手を浮かせることの方が大きいのかも知れない。
「パワーチャージ!」
腰を落としむぎぎと力を込め始めた。力を溜めて威力を底上げしてるのか。
「これで終わりだ!」
ダンが地面を蹴り跳躍する。そして――
「ダンクアタック!」
山なりに飛んできてからの強烈な一撃。おそらくダンの持つスキルでも一番威力の高いものなのだろう。
それが俺に命中し――丸太に変わった。
「は?」
「変わり身だ」
空中に浮かぶといってもそれで何もできなくなるわけじゃない。居合忍法と居合省略のおかげで術も高速で発動できる。
攻撃が外れたダンは空中でバランスを崩した。威力の高い一撃はそれだけ隙も生まれやすい。
「残念だったな」
「ま、待て!」
「待つわけ無いだろう。居合忍法・抜刀影分身!」
「ぎ、ぎゃあぁああぁあああああ!」
ダンの身が膾切りにされる。血だらけになったダンが地面に落ちた。
「そ、そんな、ばか、な、こんな使えない、天職持ちに……」
「お前は決めつけが過ぎたな。お前が手にした天職だって本来は強い天職だ。だが、お前は俺のことも自分の天職のことも知ろうとしなかった」
「ち、くしょ、そいつさえ、いれば、俺は上に――こんなところで、死にたく……」
そこまで口にしパタンっと倒れた。この出血だ。もう生きてはいないだろう。
どうやら冒険者として上にいきたかったようだが、人を利用して上がろうとしたところでそんなものは長くは続かないだろう。ま、ここで死んだが。
「す、すごいシノ!」
「く、くそがぁああ!」
「え?」
俺の戦いを見ていたルンが感嘆の声を漏らしたが、その背後からケナイが迫っていた。どうやらあの一撃でも決着はついてなかったようだが、それはなんとなくわかっていた。
作成しておいた苦無を投げる。スコーーン! とケナイの額に命中。ルンに迫ったケナイはそのまま前のめりに倒れて動かなくなった。
「ギャンッ!」
そしてトラバウドはパピィの天地落としを喰らって頭蓋から叩きつけられそのまま事切れていた。
どうやらこれで決着はついたようだな。
「アンッ! アンッ!」
そしてパピィが駆け寄ってきて撫でて撫でて~と甘えてきた。可愛い奴め。
「よくやったなパピィ」
「本当、凄いわね。まだまだ子犬なのに可愛い上に戦闘もこなせるなんて」
ルンも撫でるのに加わってきた。二人でたっぷりとモフってやるか――
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます