第317話 新たな仲間
「ベルドさんと連絡が取れない?」
「その通りじゃ」
ヒッテとバッソーはもうフィーとメルエルテの二人は置いておいて話を進めている。アホがいないと大変話が進みやすい。
「ここまで各地の遺跡などを調べて貰っていたのだが、やはり直接魔剣サガリスを見てみんと分からんところもあるということで国境なき騎士団のイェヴァンのもとに向かったのだが、それっきり3か月もたつのに連絡がとれなくなっとるのじゃ」
「それヤバイんじゃないの? イェヴァンって言えば人の命なんてパンにふってあるゴマくらいにしか考えてない奴じゃん! 実際前にグリムナも殺されそうになってるし!」
部屋の端からフィーが会話に参加してきた。
「殺されそうに? そんな危険な旅だったんですか? もしかして私とか、フィーさんも一緒になって戦ったりしたんですか」
メルエルテとの話はまだ終わっていないようであったが、過去の事を聞かれてフィーは鼻息を荒くして答える。
「もちろんよ! お母さんも聞いてよ。娘が如何に立派に戦っていたかを。子供はいつまでも子供じゃないのよ!」
「偉そうに! どうせ大したことしてないんでしょ?」
メルエルテは不機嫌そうな表情である。親にとっては子供はいつまでも子供なのだ。だからと言って子供の結婚相手までも勝手に決めるのはやりすぎではあるが。
「イェヴァンと戦った時フィーさんはどんな活躍をしたんですか?」
「……ロー……ションを……」
「ローション?」
「ローションの話はいいわよ! やらしいわね!」
お前が言い出したんだろうが。
「それはともかく、なぜメルさんがここに?」
「そうよ! なんでお母さんがここにいるのよ!」
ヒッテとフィーが口をそろえてそういうとバッソーが申し訳なさそうにバッソーが口を開いた。
「その、な……前に世界樹を見た時に『この木が枯れる時に世界が滅びる』とか言ってたじゃろ? だから竜が現れたことによって何か異変でも起きてやしないかと思って手紙を書いたんじゃ。そしたら……」
そこまで行ってバッソーはちらりとメルエルテの方を見る。彼女ばブイサインで応えた。
「御覧の通りじゃ」
「え? よく分からないんですけど、郵便はギルドの飛脚を使ったんですか? 手紙を出したからってなんでこの村が分かったんですか?」
ギルド、とは冒険者ギルドではない。各種商業ギルドである。こういったギルドは各都市間に通信網をもっており、その飛脚に依頼すれば郵便を届けることもできる。しかしエルルの村にも世界樹のエルフの里にも当然ギルドの支部などない。
「専用の飛脚を雇って往復で手紙を届けてもらったんじゃが……」
「え? それだったら後をつけられでもしない限り場所は分からないですよね? 普通は馬を使うから後をつけるのも無理だと思いますし」
ヒッテの言葉にメルエルテは「ふふん」と自慢げな笑みを見せる。ヒッテは恐怖する。何か怪しげな呪術でも使って居場所の特定でもしたのではないのかといぶかしんだのだが、しかしメルエルテの方からその方法を聞くことができた。
「手紙の中にカルミ杉の花粉が入っていたのよね。この木は大陸の西北部に多い木よ。さらにこの木の花粉は沿岸部の塩を含んだ空気では色が濃くなるけど、その花粉には色が濃くなる特徴は出ていなかった。海から離れた土地っていうのはこれで間違いない。
飛脚に報酬の倍の金額を出すから住所を教えろ、と言ったら拒否されたんだけど……」
当然である。顧客の守秘義務を守るプロの鑑だ。
「その時の会話で報酬がいくらか分かったわ。これで大体の距離が割り出せる。あとはあの子の小説に『騎士団に襲われた小さな村』ってあったから現地まで来て条件の一致する村で聞き込みをしたら一つ目の村でビンゴだったわ」
SNSにアップされた写真から住所を特定する鬼女みたいである。ヒッテは事も無げに説明したメルエルテに恐怖したが、しかし結局そこまでしてここに彼女が来た理由が分からなかった。
「で、なぜそんなことまでして押しかけ女房を? バッソーさんの事がそんなに気に入ったんですか?」
「ふざけないでよ、なんで私がこんなスルメみたいなじじいとファックしなきゃなんないのよ」
「旦那さんにしたいわけじゃないんですね。そう言えば前にエルフの里に行った時もお父さんの姿を見なかった気がしますけど、私の記憶がないだけですかね?」
ヒッテが素朴な疑問を呈するとメルエルテがその質問に答えた。
「そもそもエルフの社会は母系社会で母親が家長を務めてるからね。通い婚が主流だから、『誰が父親か』なんてよく分からないことが多いのよ。子供は村全体で育てるものだから」
なるほど、とヒッテは納得した。異様に貞操観念が低いように感じられたのも元々そういった社会背景があったからなのだ。
「じゃあなんでここに?」
ヒッテが改めてそう聞くと、メルエルテはやっとフィーを開放してテーブルの席に着き、親指でフィーの方を指さしながら答える。
「そりゃあもちろん、この子の子宮に種付けさせるために決まってるでしょうが」
「…………バッソーさんに?」
ヒッテがそう呟くとメルエルテは眉間にしわを寄せ、顎をしゃくりあげてヒッテを睨む。『こんな足腰も立たなけりゃチ〇ポも立たないモーロクじじいに種なんかつけさせるかボケ』という意思表示である。
メルエルテは余裕の表情に戻って、こちらも彼女と同様にテーブルに着席したフィーに向かい、話しかける。
「まあ、あんたに希望があるってんなら聞いてやらないこともないわよ? グリムナの居場所が分かるんならそいつでもいいわよ。どうせそのヒッテちゃんはグリムナの事なんて覚えてないんでしょう?」
「だから、別に私はグリムナの事異性として好きなわけじゃないんだってば……」
フィーが呆れ顔でそう言うと、メルエルテは彼女の肩をぽん、と叩き何やら耳打ちする。ヒッテには断片的にであるが、ぼそぼそとその言葉が聞こえてくる。
「想像してみなさいよ……グリムナの……が、……あなたの秘所をこじ開けて…………一番深いところで……ね? ……何度も何度も、腰が抜けるまで……」
何か卑猥な話をしているのだろう、という事だけは分かる。褐色なので分かりづらいが、みるみるうちにフィーの顔が真っ赤になっていき、頭から湯気が出てくる。
フィーはBL作家で、話す内容も下ネタが多いが、しかし男性経験は全くないのでこういった話題には、実は、弱い。
「ちょ、ちょっと待ってください!」
ヒッテがあることに気付いて声をかけた。
「まさかと思うけど、ついてくるつもりですか!?」
「当り前じゃない。この子、実家で待ってたりしたら絶対にいつまでも逃げ続けるから、こっちもアクティブに動かないとね!」
全員がこの発言にあんぐりと口を開けて呆然としてしまった。メルエルテは前回の竜の惨禍の時から生きているから齢400年以上、しかし見た目からすれば人間で言うと50代くらいの中年女性に見える。年齢的に見れば旅に無理はないのかもしれない。実際エルフの里からここまで旅をしている、というのもある。
しかし問題はそこではないのだ。
「母親同伴で冒険に……?」
ヒッテが呟いた。そう、まさにそこである。
広がる世界、深まる謎、暗躍する悪鬼ども。胸躍る冒険とは庇護者からの旅立ちと成長である。そこに、よりによって庇護者の象徴である母親がついてくるなどあってはならない。昔、グランディアⅢという……いや、グランディアの話はよそう。あれはⅠで完結しているのだ。
しかも目的が娘に種付けさせること、である。
フィーはまた、白目をむいた。
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