第33話 佐久間
その後進路の話はとりあえず大学進学を目指すということで落ち着いて、俺は二年に進級した。
なゆうとも引き続き遠距離ながら変わらず順調で、一年生の頃と大して変わらない日々を────
「ひ……彦星くんっ」
「え」
「あの、えっと……好きなんっ! あでもその、付き合いたいとかそういうんやなくて……彼女いるんも、知っとるし、やから、えっと、ただ、伝えたくて……」
「……」
こういうことが実は、初めてじゃない。一年生の頃に、たしか二人だったか。そして二年になってからは……ちょっともう何人目かわからない。
「……ああ、ありがとう、けど」「あ、ええの! わかっとるから! じ、じゃあね!」
中学の頃と比べてここ最近背が急激に伸びたことが原因か、はたまた定期テストの順位の上位者が毎回掲示板に張り出されるからか、単に人生のそういう時期なのか、自分ではよくわからないが要するにモテていた。
こうなると嫌でも〈人というのは『嫉妬』をするくだらない生き物だ〉と思い知らされることになる。
「またか、彦星」
「げ」
低い声を出しながら机の影から現れたのはクラスメイトの佐久間だった。
ちなみに中学の頃から俺の呼び名は学校でも『彦星』で定着している。自ら名乗ったわけではないけど一度クラスメイトが俺に付いて科学館に遊びに来た際に知られてそれ以来そのままとなった。同じ中学出身の生徒が多いことから高校に進学してもそれはそのまま続いていた。
「今の子、学年一の美少女といわれよる二組の川瀬さんやぞ。自分がなにしよるかわかっとるんかおまえ」
「……二股かけろとでも言うつもり? だいたい『付き合うとかじゃない』って本人も言ってたし」
「わぁかっとらんの! 女心がっ!」
勢いよく両肩を掴まれて不快だった。
「二股でも、二番手でも、浮気相手でもええから、願わくば、ちことじゃろが! わざわざ言うてくるんや、そうに決まっとる!」
まったくの見当違いというわけでもないのかもしれないが「浮気とかするわけないでしょーが」というのが俺の意見だ。そうあるべきだろ、普通。
「意気地のないやっちゃ」
「そんな『意気地』いらないよ」
「ふん。遠距離なんじゃろ、どうせバレん。取っかえ引っかえ女と付き
「……それが本音かよ」
呆れて呟きながら帰る支度を始めると、「おまえこん前の定期テスト、最高何点じゃ」となおも絡まれた。
「……なんで」
「気になる」
暑苦しい瞳からは逃げられないようなので目を逸らせて仕方なくボソリと答えた。
「……百」
告げると佐久間は目を見開いたまま固まった。ちょうどいいからそのままにして教室を出る。
靴を履き替えていると、その姿がまた視界に入った。「なんなの、佐久間」しつこいな。
「科学館行くんじゃろ。付き合う」
「……はあ?」
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