72 あいつとの外出

 静弥と和解した俺は、いつまでも静弥の家にいて疲れさせてはいけないと言う思いからソウとヴェイン、アグロ―ヴェを連れ立とうとしたが、不思議そうな顔をした静弥の顔を見てあることを思い出していた。

 

 色々と失念していたが、ヴェインとアグロ―ヴェは、羨ましいことに静弥に一緒に住んで欲しいと言われていた事を思い出していた。

 ここで俺が一人騒いでも静弥の好感度が下がるだけなのは目に見えていたので、悔しくはあったが、今日のところは大人しく帰ることにした。

 

 

 それからの俺はと言うと、冒険者組合からの依頼を熟しつつ、毎日のように静弥の家に顔を出しに行っていた。

 もちろん、手土産は忘れない。

 

 そんな俺の苦労も知らず、ソウはあっという間に静弥と仲良くなり、ヴェインとアグロ―ヴェは、静弥の家に自分たちの部屋を整えて、着実に静弥の中の確固たるポジションを築きつつあったのが羨ましくも妬ましくもあった。

 

 俺はと言うと、前よりは素直に気持ちを口に出せるようになったものの、ヴェインやアグロ―ヴェに比べるとまだまだだった。

 あいつらは、どうしてあんなに簡単に甘い言葉を息をするように吐いて、優しい言葉をポロポロと溢すのだろうと、不思議でならなかった。

 

 それを見習って、優しい事を言おうとしても、緊張からなのか思うように言葉が口から出てこないことがほとんどだった。

 ソウは、そんな俺を見て爆笑していたが決して手助けすることもなく、ただただ悪戦苦闘する俺を温い目で見るだけだったのがさらに腹立たしくもあったが、ソウのお陰で色々助かっている身としては、強くドツクことも出来なかった。

 

 そんなある日のことだった。

 その日は、ヴェインが休みということで、静弥と二人で出かけると前の日に言っていたのを聞いていた俺は、何気なさを装って、二人について行った。

 ヴェインには、バレバレだったが静弥は全く気が付いていなかった。

 

 俺も偶然欲しい物があって今日探そうとしていたと話すと、静弥は「それなら探すのを手伝うよ」と言ってくれたのだ。

 そう言った優しいところを利用するようで心苦しくはあったが、二人きりのデートを阻止するためには仕方なかったのだ。

 

 こうして、三人で出かけることになった俺と静弥とヴェインだったが、運命はどこまで残酷なのだろうと思う出来事が起こったのだ。

 

 

 何軒かの店を三人で見て回っている時だった。

 行き交う人の中に見知った人間がいることに俺と静弥は気が付いたのだ。

 相手も、俺に気が付いたようでこちらに近づいてきていた。

 

「よ、よう。久しぶりだな由利……」


 そう言って声を掛けてきたのは、ベルディアーノ王国に一緒に召喚されたクラスメイトの田中だった。

 田中は顔色の悪い表情でそわそわとしていた。

 何故田中がここにいるんだと思ったが、田中の様子がおかしいことに気が付いた静弥の小さな声に俺の意識は静弥に向かっていた。

 

「かっちゃん、田中くん具合悪そうだね。ポーション飲んでもらった方がいいかな?」


「静弥は優しすぎだろうが……。お前がそこまで心配する必要はねえよ」


「でも……」


 そんな俺達の会話が聞こえたのか、田中は驚いた表情で俺と静弥を見つめて言ったのだ。

 

「まさか……、本当にそうなのかよ……。なぁ、由利……、一緒にいる子。まさか香澄静弥だったりするのか?」


 田中が半信半疑といった様子でそう口にすると、静弥はヴェインの後ろに隠れるようにしながらも田中に答えていた。

 

「えっと……、田中くん。そうだよ。私は一緒のクラスだった香澄静弥だよ」


 静弥がおずおずとそう言うと、田中は何故か大量の汗をかきながら、血走った目で静弥の腕を掴んで、ヴェインの背後から引っ張り出してから言ったのだ。

 

「チクショウが!!なんで、どうしてだよ!!」


「た、田中くん?どうしたの?!大丈夫?」


 その豹変ぶりに驚きながらも心配したように静弥が言ったが、俺はなんだか嫌な予感がして田中を静弥から引き離そうとした。

 ヴェインも同じ気持ちだったようで、田中に腕を掴まれた状態の静弥を自分の方に引き寄せようとしていたのが目にはいった。

 

 だけど、遅かった。

 俺とヴェインが静弥に向かって手を伸ばしたが一瞬だけ遅かった。

 田中が、懐から出した何かが光るのが見えた。

 それは、いつか見た光景を俺に思い出させていた。

 

 静弥も何かに気が付いたようで、俺とヴェインに向かって手を伸ばすのが見えた。

 何かを言うために口が開くのが見えたが、静弥の声が聞こえることはなかった。


 無情にも強い光が放たれたその一瞬後、俺とヴェインが手を伸ばした先に静弥の姿はなかった。

 

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