63 私は委託販売をすることにした

 朝ごはんを食べ終わった私は、ヴェインさんに付き添ってもらってご近所さんに挨拶に行った。

 

 ご近所さん達は、私が顔を見せると、笑顔で迎えてくれた。

 心配掛けたことを謝ると、怒られてしまった。

 私のことを思って怒ってくれるご近所さん達の優しさに嬉しさがこみ上げていた。

 そして、お店を閉めることを話すと残念がってくれたが、私のしたいようにすればいいと、応援してくれたことも嬉しかった。

 

 お店を利用してくれたお客さんについては、家の門に閉店を知らせる紙を張り出した。

 

 ご近所さんへの挨拶や、組合に向かう途中で、お店を利用してくれたお客さんを見掛けた時は、勇気を振り絞って、今回心配をかけたことのお詫びと、閉店することを話した。

 

 家を出てから、いつかの日のようにヴェインさんが手を繋いで歩いてくれたので、話しかける勇気が出たとも言える。

 見掛けたお客さんに声をかける時、ヴェインさんが私の手をギュッと握って励ましてくれたから自然と勇気が湧いたのだ。

 

 ちなみに、何故か私とヴェインさんの後ろをかっちゃんが無言で付いて来ていた。

 

 その後、商業組合でキャシーさんと委託販売について相談した。

 初めは、驚いていたキャシーさんも私の意思を受け入れてくれた。

 

「はい。それでは、これから組合の売店で責任を持って販売させていただきますね。売上は、手数料を抜いた分をシズヤさんの口座に振り込みとなりますのでご確認ください」


「はい。色々とありがとうございます。納品には、3日おきに来ますので、その時はよろしくおねがいしますね」


「かしこまりました……。ところで……、後ろにいらっしゃる方はもしかして……、上級星5冒険者の方では……?」


「えっ?そんな人知りませんけど?」


 私の知っている人の中で冒険者の人なんていないので、私ははっきりとそう言った。

 すると、隣りにいたヴェインさんが吹き出していた。

 なにか面白いものでもあったのかと、不思議に思っているとヴェインさんは、可笑しそうに笑って私の頭を撫でたのだ。

 

「そうだな。そんな人知らないよな?」


「はい?そんな人知りませんけど……」


 私がそう答えると、ヴェインさんは楽しそうに笑っていたけど、何故か私とヴェインさんに付いて来ていたかっちゃんが不機嫌な顔になっていたのだ。

 

 不思議に思ってかっちゃんを見ていると、私の頭を撫でるヴェインさんの手を払い除けて言ったのだ。

 

「おい、馴れ馴れしく触んな」


「カツヒトに言われる筋合いはないと思うけどな?」


 そう言って、二人は睨み合ってしまった。私がどうしたらいいのか困惑していると、キャシーさんがかっちゃんを見て言ったのだ。

 

「えっと……、ヴェインさんとお話しされている方が上級星5冒険者の方だと思うんですが……」


「えっ?かっちゃんが冒険者?」


 キャシーさんの言葉に驚いた私は、かっちゃんを振り向いていた。

 私の視線に気がついたかっちゃんは、何故か気まずそうに言ったのだ。

 

「まぁな……。ソウと二人で冒険者してる」


「えっ?なんで?と言うか……、なんでかっちゃんがフェールズ王国にいるの?」


「……、いまさらな質問だな。まぁ、そのちょっとずれたところが静弥らしいっちゃらしいけど……。はぁ。ここでするような話じゃないから、お前の家に帰ったら話す」


「うん……」


 私がそう言って頷くと、キャシーさんが申し訳無さそうにかっちゃんに言ったのだ。


「あのぅ……。冒険者組合の組合長が、依頼したいことがあると探していたのですが……」


「はぁ。悪いけど、あの親父には俺がここに来たことや、しずと一緒にいたことは内密にしてくれ。色々と面倒になるし、しずにも迷惑かけることになるからさ……。組合には近い内に顔を出すから、ここは見なかったことにしてくれ」


「分かりました。シズヤさんに迷惑がかかる可能性があるのでしたら、見なかったことにします。私は、シズヤさんの担当なので、何よりもシズヤさんが第一です」


「悪いな」


 よく分からない内に、かっちゃんとキャシーさんとの間で何かの取り決めがされていた。


 商業組合からの帰り道、行きと同様にヴェインさんと手を繋いで歩いていると、かっちゃんが不機嫌そうに言ったのだ。

 

「あのさ……、ずっと気になってたんだけどな……。なんでお前ら手、繋いでんだ?」


 その言葉に、私とヴェインさんは顔を見合わせていた。

 言われてみればなんでだろう?

 私としては、色々と勇気づけられて助かったけど、家を出た時、自然と私とヴェインさんは手を繋いでいたように思う。

 

 かっちゃんの不機嫌な様子の理由が分からなかったので、首を傾げているとヴェインさんが可笑しそうに言ったのだ。

 

「ん?なんだ?カツヒトも手を繋ぎたかったのか?」


 その言葉で私は気が付いてしまった。

 かっちゃんが、仲間外れにされたような気持ちになっていたことにだ。

 私は、慌ててかっちゃんに言った。

 

「かっちゃんごめんね……。かっちゃんも手を繋ぎたかったんだね……。私、気が付かなかったよ」


 私が反省してそう言うと、かっちゃんが怒ったみたいに言った。

 

「別に、そんなんじゃないし!!」


「分かってるよ。かっちゃんもヴェインさんと手を繋ぎたかったって、言い出せなかったんだよね?」


 私がそう言うと、何故かヴェインさんが爆笑していた。

 かっちゃんは、大きなため息を吐いて諦めたように言ったのだ。

 

「はぁ。なんでそうなる?なんで俺が男と手を繋がなくちゃいけないんだよ。あーもー!!俺は、こうしたかったんだよ!!」


 そう言って、何故か私の空いている方の手を取っ手言った。

 

「しず、帰んぞ」


 昔よりも大きく硬くなった手に、手を握られて驚いた私が、かっちゃんのことを見上げると、何故か機嫌が良くなっていたことに首を傾げた。

 

 こうして、三人で手を繋いだ状態で家に帰った私達を見た野上くんが、複雑そうな表情でかっちゃんとヴェインさんを見ていたことを私は知らなかった。

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