57 彼女に語る事の真相
俺の言葉にシズは、首を傾げていた。それもそうだろうと思い、ガーメトゥ商会について説明することにした。
「ガーメトゥ商会は、王都一の商会だった。特に、貴族向けに水回りの魔法道具を中心に売り出していたんだよ」
俺の説明を聞いたシズは、それを聞いてピンときたようで、ハッとした表情をして言った。
「もしかして……、私が安くシャワーヘッドを売ったことが原因ですよね……」
「まぁ、それもあるが。それ以外にも、シズの店の商品が安い割に高品質だと評判になっていてな。最近、ガーメトゥ商会の店は閑古鳥が鳴いていたそうだ。だが、それだけでこんなことをした訳ではないんだよ。捕まえた男から、アークとエレンが色々聞き出してくれたんだが、ガーメトゥ商会の会頭である、コゼェーニィ・ガーメトゥは、金銭面で問題を抱えていたそうなんだ」
「金銭面で問題ですか?」
「ああ。ガーメトゥ商会の立ち入り調査と、会頭のコゼェーニィを連行して尋問した結果、ガーメトゥ商会はベルディアーノ王国の息がかかっていることが分かったんだ」
俺の話を聞くシズに、包み隠さずに、とは言え、多少のオブラートに包んではいたが、事の真相を語った。
調査と尋問の結果、ガーメトゥ商会は、フェールズ王国を嗅ぎ回っていたことが分かった。
互いの国は、魔の森があるため干渉し合うことも難しいにもかかわらず、長年の間ベルディアーノ王国は、我が国を探っていたのだ。
別に、探られて困ることもないため、ベルディアーノ王国が何を警戒していたのか全く分からなかった。
我が国は、戦争を仕掛けられたら自国を守るために戦うことはあっても、こちらから他国の土を侵すことはありえないのだ。
歴代の国王陛下は、常に他国との友好を心がけている和平主義なのだ。
そのお陰で、周辺の国家とは友好な関係を築けていた。
ただし、魔の森を隔てている関係上、ベルディアーノ王国とは、必要最低限の関係ではあったが。
それはさておき、ここで問題なのは、コゼェーニィの金銭面での問題だった。
多少、シズが売上を上げていたとしても、ガーメトゥ商会は比べ物にならないくらい、大きな商会だ。
多少売り上げた落ちたとしても、それだけで店が傾くことは考えられなかったのだ。
コゼェーニィに尋問をした時、最初は売上が落ちたことで逆恨みしたという話をしていたが、それ以外にもなにかありそうだったので、アークとエレンが強めに尋問した結果、先々月からベルディアーノ王国への上納金が普段の3倍近い額に跳ね上がったため、資金面でギリギリだったそうだ。
そんな時に、多くの客がシズの店に流れて行き、その結果急激に売上が落ちたのだという。
だから、資金を得るために、シズの店を探っていたのだと吐いたのだ。
さらには、シズを殺した後に、店の中にあるだろう帳簿から、シャワーヘッドなどの仕入先を探って、ガーメトゥ商会で仕入れた後に、高額で売りさばく計画もあったと吐いていたと知った時は、コゼェーニィを締め上げて、二度と口を訊けないようにしてやろうと思ったほどだ。
しかし、ここで問題なのは何故、ベルディアーノ王国への上納金が上がったのかということだった。
最近のベルディアーノ王国の動きが不審すぎて、向こうの動きを掴む必要性を強く感じた。
コゼェーニィを尋問中、奴は何度も言ったそうだ。
「このままじゃ、国に人質として囚われている、妻と娘が殺されてしまう!!」
上納金を跳ね上げた上に、払えなければ人質を殺すと脅すなど、ベルディアーノ王国は一体どうなっているんだ?
事件のあらましについてはこんなとところだったが、この騒動にはまだ続きがあった。
シズが、強盗に襲われたという話は、直ぐに広がったのだ。
シズの店を利用していた客の中に貴族が多く含まれていたこともあり、シズを襲ったのがガーメトゥ商会だということ直ぐに知られてしまったのだ。
それからが大変だった。
商会の店先には、多くのシズの店の利用客が押し寄せて、暴動寸前の騒ぎとなっていたのだ。
実際には、多くの貴族が店に圧力をかけて、店は潰れたも同然だった。
その後、コゼェーニィは捕まり、店は本当に潰れた。
そして、連日シズの家の周囲には、シズの容態を心配する人達で溢れかえっていたのだ。
エレンに頼み込んで、彼の魔法で防音結界を張ってもらっていたが、それでも騒ぎが家の中にまで聞こえてくるほどの騒ぎに、騎士団総出で対応する騒ぎになっていたのだ。
騒ぎを警戒した中隊長命令で、シズの警護も兼ねて、俺とアークは交代で側に居ることができた。
だが、周囲に集まった人達は、本当にシズのことを心配していただけで、敷地内に侵入してくるような者はいなかった。
それに、あまりの騒ぎに、アークが外に集まる人々を説得してくれたお陰でうるさいくらいの騒動は収束していったので、今は静かになっていた。
そのことも含めてシズに説明すると、彼女は眉を下げて申し訳無さそうに言ったのだ。
「そうだったんですか……。それに、お客さんに沢山心配掛けてしまいました……」
「シズは何も悪くない。悪いのは、コゼェーニィだ。だが、自分のことよりも周りのことを気にかけるシズは本当に優しいな」
「優しくなんてないです……」
そう言って、悲しげに俯くシズの頭をそっと撫でながらシズの言葉を否定した。
「シズは優しくていい子だよ」
俺の気持ちが伝わったのか、シズは少しだけ表情を明るいものにしてくれた。
お互いに見つめ合っていると、咳払いが聞こえたが敢えて無視した。
「長い話で疲れただろう?少し休もう。部屋まで送るよ」
そう言って、シズが何か言う前に彼女を抱き上げて、シズの部屋に向かった。
シズの部屋に向かう間、後ろから常に恨みがましい視線を感じたが、それも無視して彼女の部屋に向かった。
ベッドにそっと下ろして、布団をかけながら眠るようにシズに言うと、彼女は疲れていたようで、直ぐに眠ってしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます