30 私はスキンヘッドに恐怖する
建物を見上げていると、何処からともなく周囲に轟音が鳴り響いていた。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!!!
なんの音かと周りをキョロキョロしていると、その謎の轟音がこちらに近づいていることに私は気がついた。
「ヴェインさんこn―――」
「ヴェイーーーーーーン!!貴様この野郎!!無事だったかこんちくしょうが!!!」
ヴェインさんに声をかけようとした矢先だった。
ものすごい強風が吹いたと思ったら、隣りにいたバズのヴェインさんが何処にもいなかった。
その代わりに、日に焼けた大柄なスキンヘッドのおじさんがいた。
私が見上げていると、大きな口をにっとさせて私のことを見てきた。
893的な凶悪な表情で私を見下ろしていた、スキンヘッドなおじさんはお腹に響くようなドスの利いた低い声で話しかけてきたのだ。
「あ?何だ嬢ちゃん?迷子か?しゃーねーなぁ。おい、ヴェインこの野郎、この嬢ちゃんを家まで送ってやれや!!」
「ちょっと!!中隊長!!何してくれてんですか!!突然殴りかからないでくださいっていつも言ってるでしょうが!!」
髪と服が乱れた状態のヴェインさんが、服の汚れを手で払いながら近づいてきて言った。
ヴェインさんの後ろの壁を見ると、冗談みたいだけど、ヴェインさんが衝突してできたであろう穴が空いていた。
「ヴェインさん!!えっ?大丈夫ですか!!」
「ああ、悪かったなシズ。いつものことだから大丈夫だよ」
何気なく言った、ヴェインさんのいつものこと宣言に私は恐ろしくなったよ。
だって、出会い頭に暴言を吐きつつ殴りかかる人がいるだなんて思っても見なかったんだもん。
「中隊長……、シズが怖がるので離れてください」
「は?これだからイケメンは!!爆ぜろ!!」
「はぁ。ヴェイン・ラズロ、アグローヴェ・ラズロ。只今帰還しました。帰還途中で、この子を保護したため、連れてまいりました。この子は、シズヤ・カスミです。今日から俺とアークの部屋で暮らすので一応中隊長に報告しに参りました」
そう言って、ビシッと敬礼ポーズで話すヴェインさんは決まっていたけど、中隊長と言われたスキンヘッドのおじさんが、下から睨めつける様にガンを飛ばしている姿が異様な雰囲気を醸し出していた。
「そうか、後で入居届出しておけ。それと、お前がいないせいで書類が鬼のように溜まってるからよろしく~。おっと、それと寮の壁は薄いから、夜は静かに頼むぞ~。でないと、両隣と真下の者から、「毎日、ヴェイン補佐殿がお盛ん過ぎて、興奮して眠れません!!抜いても抜いても直ぐに硬くなってきりがありません!!」ってな!!!!がはははは!!!」
「ちゅ、中隊長!!なっ、なんてことを!!シズとはそんなんじゃないですから!!」
「なんだ?まだ抱いてないのか?お前のその顔面なら、迫れば直ぐにまt―――」
「中隊長……」
「やばっ!!おっと、急用ができた!!俺は、ちょっと馴染みのねえちゃんのところじゃなくて、巡回にいってくらぁ~」
嵐のような人だったなぁ。
それが私が、中隊長さんに抱いた印象だった。
でも、ヴェインさんすごく怒ってるけど、どうしたんだろう?
「兄様……。中隊長は、通常運転でしたね……。でも、あのエロトークを聞くと帰ってきたと思えるのは、どうかと思いますけど……」
「はぁ。そうだな。でも、シズの入居はあっさり許可が出てよかったよ」
「そうですね。それでは、一先ず寮に行って荷物を置いてから商業組合と役所に行きましょうか」
こうして、二人の住む騎士団の寮に向かったけど、私は寮について直ぐにここで生活していけるのか自信がなくなったよ。
というか、無理だと悟ったよ。
二人に案内されて、四階建ての建物に到着した。
二人の借りている部屋は、四階端から三番目の部屋だった。
中は、思ったよりも広くて、リビングと簡単なキッチン、洗面所と部屋が3つあった。
ヴェインさんは、一部屋空いているからそこを使っていいと言ってくれたので、私は物珍しげに部屋を見回していた。
ヴェインさん曰く、キッチンはあるけど、基本的に寮にある食堂でご飯が出されるから、そこで食事を摂っているので、キッチンはお茶を用意するくらいしか使わないそうだ。
一通り部屋を見回していて、さっきの中隊長さんが言っていた言葉を思い出した。
「確かに、壁は薄そうですね。これは、ご近所さんに迷惑にならないようにしないといけませんね。でも、どうして壁が薄いとヴェインさんが興奮するんですか?あれ?違ったような?えっと、壁が硬くて抜けないでしたっけ?あれ?!う~ん、違うなぁ?ヴェインさんに興奮する?」
私が、中隊長さんの言葉を思い出しつつ、ああでもないこうでもないと言っていると、ヴェインさんが慌てながら話しかけてきた。
「そうだ!!シズ!!それよりも、食堂を案内するよ!!」
「はい。分かりました?」
急にどうしたんだろう?もしかしてヴェインさんお腹でも空いたのかな?
そうだよね。朝ごはんは食べたけど、そろそろお昼も近い時間だしね。
そんなことを考えていると、一階にある大きな食堂に案内された。
ここは、寮に入っているものなら誰でも使っていいそうだ。
「よし、これで寮の案内は終わりだ」
「えっ?終わりですか?」
「ああ?どうした?」
えっ、ヴェインさん……。とっても大事なことを2つも忘れてます!!
「お風呂は……」
「ああ。残念だけどここには大衆浴場は無いから、各自部屋で体を拭くか、寮から出たところにある大衆浴場を使うしか無いな」
「そうですか……」
はぁ、やっぱりか。話には聞いていたけど、お風呂に入れないのは辛いよ……。
でも、もう一つは案内忘れだよね!!そうだと言ってよ!!
「えっと……、お……」
「お?」
「あの……、お、おトイレは……」
「あぁ。無いぞ?」
「……………………!?」
えっ?今、なんて?聞き間違いだよね?そうだと言って!!
「えっと、え?…………、え!!!!!」
「ん?どうした?もしかしてしたくなったのか?それなら部屋に行こう」
あっ、良かった。聞き間違いだったみたい。そうだよね。無いわけないもん。きっと、一階にはないって言う意味だよね…………?
あれ?でも、二人の部屋にそれらしい部屋はなかったような?あれ?あれれ?
そして私は、本当の絶望を知ることとなるのだった。
「いっ、いやーーーー!!ヴェ、ヴェインさんのエッチ!!変態!!バカバカ!!バカーーーーーーー!!!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます