28 私は別れを告げる
一日置きに探索するようになって、二週間の時が経過したけど、未だにここから脱出するための手がかりが掴めていない状態だった。
意外にも、ヴェインさんとアーくんは焦ることもなくのんびりとこのスローライフを楽しんでいたように思える。
かく言う私も、三人での生活にも慣れて来たこともあり、それを楽しむ余裕が出てきたのも確かで。
そんなある日の出来事だった。
その日も私は、アーくんからこの世界について教えてもらっていた。
フェールズ王国の王都や、主要な都市についてアーくんがサラサラと位置関係を描いて教えてくれていたときだった。
お風呂掃除を終えたヴェインさんが、アーくんの手元を見て言った一言から私達の生活が一変することとなったのだ。
「おお、アークは本当に教えるのが上手だな。だけど、王都周辺のことだったら言ってくれれば地図を貸したのに」
「いいえ、兄様の手を煩わせることでもありません。兄様の持つ詳細な地図を見るまでもないです。こうして僕が描くだけでもシズには十分勉強になりますから」
「そうか?ならいい。ん?シズ、どうした?」
その時の私はきっと鳩が豆鉄砲をくらったような表情をしていたと思うよ。
だって、ここを脱出するための手段があったのに、それに気が付かずにいたんだから。
そう、ヴェインさんの持っている地図だ。私は、かすれ気味の声でその地図について聞いた。
「あの……、その地図って……」
「ん?ああ、騎士団で支給されている地図だが?」
「えっと、騎士団で支給されているということは、地図として沢山の人に認知されているということでいいですか?」
「ああ、そうだが?」
その言葉を聞いた私は、きっと変な顔をしていたと思う。
だって、その地図があれば簡単にここと脱出することができるんだもん。
私は、申し訳ない気持ちでいっぱいになりながらも、正直に話すことにした。
「ごめんなさい。私のミスです!!その地図があれば、今すぐにでもここを脱出できると思います……」
「え?」
「は?」
私の言葉に、ヴェインさんとアーくんは驚きの声を上げていた。そうだよね。驚くよね。
「えっと、前にスクロールについてお話しましたよね?」
「ああ、シズがここに飛ばされてきたものと、俺達に渡してくれたものだろ?」
「はい。えっと、ゲーム内で作った方のスクロールなんですが、二人が来る前に色々調べた結果、確証はないので憶測なんですが、地図として沢山の人に認知されていれば、それを使って地図の場所に飛ぶことができると思うんです。一人でいる時に、自分で描いた地図で試しても不発で終わったことと、前にアーくんに描いてもらった手描きの地図も同様に不発で終わったことから、そう考えました。その憶測が正しければ、千歌子ちゃんにここに飛ばされた理由が付きます。あの時、千歌子ちゃんは地図を手に持ってスクロールを使用していたので……」
私が、申し訳ない気持ちでそう話すと、ヴェインさんとアーくんは特に私に言及することもなくあっさりとした態度で言った。
「そっか、よし。だったら、ここを出る準備をしようか?俺はいつでも大丈夫だけど?」
「僕もいつでも大丈夫です。シズはどうですか?」
「えっ?お、怒らないの?」
私がそう二人に聞くと、二人は顔を見合わせた後に笑ってくれた。
「なんでシズを怒らないといけないんだ?」
「全くもって理解できません。どうしてそうなるんです?それよりも、シズは準備しないといけないことはないんですか?」
私は、思いも寄らない二人の言葉に瞬きを一度した後に、自然と顔が緩んでしまったけど、もういいかなって気がしてそのままの緩んだ顔で返事をしていた。
「二人共、ありがとう。片付けたいものもあるから、出発は明日でもいいかな?」
私がそう言うと、二人はとびっきりキラキラしいイケメンスマイルで頷いてくれた。
「ああ、それでいいよ」
「はい。何か手伝うことがあれば言ってくださいね」
こうして、長いようで短かった森での生活は幕を閉じたのだった。
その後私は、畑と菜園を仕舞った後に工房に出しっぱなしにしていたアイテムの片付けをした。
森生活最後の夕食は、脱出記念ってことで豪華なのもにするため腕によりをかけたのは言うまでもないね。
翌日、朝食を済ませた私は、2階建てのマイホームを仕舞ってから、敷地を囲んでいたミスリル製の柵も片付けて、何もなくなった空間を見てちょっとだけ感慨深い気持ちでいたけど、ヴェインさんとアーくんは違ったみたいだった。
二人は何故か、何もなくなった空間を見て何度も目をこすって頬を抓っていた。
「あれ?どうしました?」
「いや……、知っていたけど……。今まで生活していたあの広い家が一瞬で消えたことに、夢でも見ているようなそんな気持ちでいっぱいでな……」
「以前畑と菜園が消えて、家が移動したところを見ているとは言え、今まで暮らしていた場所が一瞬で更地になっている事実に、夢でも見ている気分ですよ……。はぁ、一応常識は教えましたが、あれで十分だったのか、心配になってきました」
えっと、つまり狐につままれたような気分ってことかな?よくわかんないけど、ここは謝っておこう。
「えっと、驚かせてしまったみたいで、ごめんなさい?」
私が、よく分からないなりにも二人にそう謝ると、何故か二人は内緒話をした後に私に言った。
「シズが可愛すぎで、この先心配だよ……」
「同感です。い、いえ、世間一般的な感想ですけど!」
「俺たち二人でシズを守ろう」
「はい。兄様、もちろんです」
「シズ!!これから俺たちの住んでいた王都に移り住むが、何があっても俺たちがシズを守るから、だから困ったことがあったら何でも言ってくれ。もうひとりで抱え込むんじゃないぞ。いいな?」
そう言って、私を優しく見つめるヴェインさんとアーくんに心の中が暖かくなった私は頷いて言っていた。
「はい。二人を信じます。だから、何かあったら相談します。だから、二人も私を信じて頼ってください」
私は、そう言って、自然に二人に笑顔を向けていた。
二人の表情を見る限り、自然に笑えていたみたいで安心した。だって、私に笑いかけてくれるヴェインさんとアーくんは、優しくて温かくて、それでいて照れちゃうくらい素敵な表情をしていたから。
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