成井さんとも彼の作品とも長い付き合いでございますが、個人的に彼はこういうこの世界に存在するディープな世界を描かせたら、非常に緻密かつ玄人好みの作品(つまり極めてリアリティに富んだ)を書き上げてくる作家だと思っています。
で、今作も最後まで読了して――「あぁ、これは、これは学生時代にロボット・プログラミング競技とかやってないと分からない奴。あぁ、けど、すげー正確な奴。これ、参加者にはよく読んで貰いたい奴」――と唸る結果となりました。
いやはやすごいね、流石としか言えんわ。
まぁ、本作のキャラクターやだいたいの流れ、青春の醍醐味なんかは、既に他のレビュワーさんがやってくれているので、僕はパス。
多分補足出来ない部分を弄っていこうと思います。
まずはじめに、この話の肝になってくるのは、技術屋とマネージャーという奴。作中では言及されていなかったように思いますが、最後に主人公が行き着いたのがマネージャーです。ヒーロー達が技術屋ですね。仕事で開発プロジェクトに携わるようになると、この辺りのスキルの差というのを嫌でも感じるようになるのですが、用は、同じプロジェクトの仕事をしているのに、そこで人に求められる役割というのは、結構幅があるんです。
ハード、ソフトの切り分けはもちろんですが、まぁ、こいつらはおおざっぱに技術屋でくくれます。で、こいつらの特性というのは、極端に技術に依存している、ようは技術を技術としてしか見ていない奴らなんですよ。当然、そんな奴らしかいない場だと、際限なくプロジェクトに求める要求というのは大きくなっていき、最終的に有限のリソースをギリギリまで使い込んでしまう。使い込んで、やったぜ逆転劇になるのがドラマティックで最高じゃんよと思うでしょうが、世の中そんなに甘くねえってのよ。いいですか、そんな、博打みたいな開発してたらいつか精神いわして再起不能になりますからほどほどにしとけ。これ、大人の技術者もな。分かってるだろ、そこのお前だよ。マネージャー兼任した技術者。部下に無茶な水準の技術を求めるなボケ。(個人的な恨み節)
んで、そんな喋る暴走特急みたいな技術屋たちに、なんとか指針を見つけて、期日までに出来ること・出来なくてはならないことを整理し、また、トラブルが発生した場合に必要となってくるのがマネージャ。プロジェクトの進捗を俯瞰して、どこがネックになっているのか、技術的な問題は発生していないか、客先との交渉はないか、エトセトラ・エトセトラ、問題発生時のなんでも屋でもありつつ、最も大切なのは技術者という無軌道なエンジンの発するエネルギーの先を定めてやること。こいつができる人材が、いるといないでまったくプロジェクトは違う。それこそ、技術者上がりのマネジメント嫌いが居ると、ほんと地獄。デスマーチ始まる。それくらいに、正確に自分たちがなにをできてなにができないのかを、見分けるというのは、実はスペシャルな技術なのですよ。
本作は、そんな技術屋とマネージャーの本質をえぐった作品。
実際これがちゃんと出来ている(損切り)ができている学生コンテストのチームというのはべらぼうに強いです。というか、学生コンテストで求められる水準はそれほど高くないので(ぶっちぎりなのもありますが)、どう見せるか、どう動いているようにみせるかというのが一番求められるのです。
最後の最後で、まぁ、「Warning無視」という、プログラマ発狂もののちょんぼをやらかしているのも、そもそもマネージャが進捗管理して、コントロールしていれば回避出来ていた訳です。そういう、「技術」を突っ走らせるのではなく、「コントロール」するというのができて、はじめてモノっていうのは形になるんですよ。分かるかね、分からんだろうね、こりゃ造ってる人間にしか分からない感覚ですよ。あと、ろくにマネージャーしねえ上司に振り回されて、さんざん地獄見てきた奴にしか。とほほ、またこれ胃が痛くなるやつ。
と言う訳で。
全プログラマー騒然モノの、お子様向けの作品にしてはやたらと胃が痛い青春作品。こういうの好きだろって技術者は多いので、是非とも読んでください。そして、明日から貴方がもしプロジェクトのリーダーやってるなら、ちゃんとマネジメントしてください。はい、そこ、面倒くさいとか言わない。それが仕事なんだよ。
なんちゅー紹介じゃという感じでございますが、熱のある作品には間違いありません。青春の輝かしさと、開発のほろ苦さを感じに、ひとつ読んでみるのはいかがでしょう。技術者にはおすすめの話でございます。
ジュニアAI選手権を目指す、少年少女達のドラマ。
なんて言っても、そもそもジュニアAI選手権って何って思う方も多いでしょう。人工知能(AI)技術の教育と普及を目指した中学生と高校生のためのコンテストなのですが、それを知ってもなお、なんだか難しそうなんて声が聞こえてきそうです。
しかし、そんな先入観から読まないのはもったいない。そもそも本作の主人公姫宮飛鳥も、最初はAIって何って状態でした。それが色々あってAI研究会に入ることになるのですが、もちろん入部したからといって、いきなり何かできるようになるわけではありません。しかも彼女以外のメンバー二人は、揃って天才。そんな状況で果たしている意味なんてあるのか。
一からAIについて勉強する? 雑用係として体を動かす? 完全に場違いかと思われた彼女の奮闘が光ります。
ミステリー研究会が廃部になり、行き場を失った主人公、姫宮飛鳥は、イケメンだけど言動が残念すぎる自称天才AIサイエンティストの神崎君の策略により、半ば強引にAI研究会に入会させられる。
最近頼りになるメンバーが抜けてしまっていたAI研究会は、会存続のため新たなメンバーを補充する必要があったのだ。
AIに関する知識も技術も持ち合わせていない飛鳥は、ただの数合わせ要員? いいえ、そんな飛鳥でも、きっとできることはあるはず。
本作で面白いのが、このできることを探すということ。
普通に考えたら素人の飛鳥に、できることなんてないと思いがちですが、そんなことはありません。よく考えて探していけば、チームの一員として役に立つことは、必ず見つかるはずです。
個性豊かな仲間達に振り回されながらもコンテスト優勝を目指す、AIドタバタ青春コメディ、開幕です。
主人公の飛鳥が、ミステリー研究会の廃部により、新しい部活に所属せざるをえなくなり、とあるきっかけで知識ゼロのAI研究部に入ることに!
AIだとかロボット工学だとか、どう考えても知識ゼロの人には縁遠いというか、見ていて「すごいな~」くらいで終わっちゃうと思いませんか?
プログラミングにPC言語……もう何あの呪文!って感じの人も多いと思います。
主人公、飛鳥も、こんな状態からの転部…
でも彼女は、周囲に支えながらも、それでも自分がその場所でできることを見出していきます。
『今いる場所で自分なりのベストを尽くす』これって、大人になって社会に出た時、すごく大事なことだと思うんです。
誰かと同じになろうとするんじゃなくて、自分が持てるスキルで、自分らしさをフル活用して、何ができるのか。
とても大切なことだと思います。
飛鳥の成長と、AI研究部の活躍、そして個性豊かなキャラクターたちの楽しいやりとり……コメディの中に散りばめられた、眩しい青春を、あなたも読んでみませんか?