第5話 ハンスさんハンスさん。犯人は貴方でした。

 俺たちは一度王宮に連れていかれた。


「えーっと。君の、基本ステータスは何かな?」


 ピカピカの椅子にどっしりと腰を掛けた女性。間違いない。如乞にょこうだろう。

 如乞にょこうとは、基本ステータスで二番目に強いものだ。男の特王とくわかを除けば女性より一番強い。

 さらには案外若く、俺と同い年か少し年上くらいにも見える。


「その前に名前を教えてもらってもいいですか?」

「えっと、私の名前は峰内雪みねうちゆき如乞にょこうよ」

如乞にょこうとかすんげぇなぁ」


 どうやら女性人類最強は日本人らしい。

 俺はそう呟くと、峰内雪みねうちゆきは少し照れくさそうに腕を抱える。


「えっと僕の基本ステータスはですね――」


 信長が口にした瞬間、横から口を入れてくる。


「おいおい。俺を忘れないでくれよ」


 口を入れたのは、如乞の隣の椅子に腰を掛けている、少し厳つい男。こちらは成人しているっぽい。


「あ、ごめんごめん。んで名前は?」

「俺の名前はハンス。特王とくわかだ」


 ハンスは自慢げに語る。


 俺はここで少し疑問を抱く。


 ……。


 まあいっか。


「つまりハンスさんが一番強いってこと?」

「そうよ! ハンスは人類の中で一番強いんだから!」


 如乞が興奮しながら言う。

 別に貴方に聞いたわけでは無いんだが……

 そう心の中で突っ込む。


「えーっと。俺の基本ステータスは三誠だ」


 というか、初めて信長の基本ステータスを聞いた気がする。

 三誠って、人類で100人しかないやつ……やはり信長は凄い……。


「良かったぁ……これで100人全員揃ったわね」


 そうだなとハンスは首を縦に振る。

 三誠は100人いる。それはみんな教えてもらったことだろう。そして信長が人類から脱走していたわけだから、人数が合わなくて探していたという訳だ。


「まあ聞かなくても分かっているけど……貴方は?」

「それが……忘れちゃったんすよねぇ」

「何それ……まあいいわ。貴方が三誠じゃないと100人にならないのよ。人類で脱走してたのは貴方たちだけみたいだから、貴方は三誠よ」

「やったー!」


 どうやら俺含めて100人になるらしい。

 俺は100人しかいない珍しい基本ステータスだったことに喜びを隠せない。


「まあ喜ぶのは無理ないだろう。えっと、『誠』が基本ステータスに付くものは、養成学校に通う事になるから、よろしくな」

「おっ! 学校! 新鮮!」


 俺は久しぶりの響きに懐かしさを覚える。


「学校に入るために、ここの書類を書いてもらう」


 そういって、フンスだったかヘンスだったか分からん奴に紙を渡された。


 俺たちはすぐそばにある机に向かう。


 俺は直ぐにペンをとり、氏名、基本ステータス……と淡々と描き続ける。


「これ多分カタカナのほうが良いよな?」


 俺は信長の耳元で囁く。


「何でだよ」

「だって、そっちのがかっこいいじゃねえか」

「確かに」


 そして数分後。


「出来ました!」


 俺と信長は手に持った紙をハンスに渡す。


 そこに峰内雪が寄りかかって、二人で紙を眺める。


「えっと君が、ムネト君で、君がナガ君ね」


 うんうんと信長は首を大きく縦に振る。

 後々何故ノブナガではなくナガにしたかと言うと、ノブナガだと長いからという理由らしい。


「えっと……日本人よね?」

「そうですよー」

「なんでカタカナ?」

「かっこいいじゃないすか!」

「そう……なのか」


 雪は珍しそうな顔で俺を見つめる。


「まあいいわ。じゃあ明日からもう学校に通ってもらうから、今日はリーフ大通りの向かいにある……って言っても分からないよね……案内するわ」

「おう」


 雪は椅子から立ち上がる。


「立つんだな」

「な」


 俺たちはボソっと呟く。


「いくら如乞にょこうだって立つわよ」


 どうやら雪に聞こえていたらしい。


「じゃあ行くよ」


 そう言うとスタスタと歩いて行った。

 ハンスはどこか寂しそうに見送る。


「あのー何て呼べばいいですか?」


 俺は流石に無言の状態で歩き続けるのは気持ちが悪いので、話しかけることにした。


「峰内とかでいいわよ」

「そうですか、じゃあ雪さんって呼びますね」

「なんで聞いたのよ……」

「そんなことより、あんま如乞にょこうっていうか、王っぽくないですよね」

「なに? 嫌味?」


 雪は歩きながら俺の方に目を向ける。


「いやー、接しやすくていいと思いますよ」


 雪はどこか複雑な顔をしながら真っすぐを向く。


「私も如乞にょこうになってたことに驚きよ。まだ高校3年生だったんだもの」

「と……年上!」


 俺は思わず声を出してしまった。


「……」

「てっきり年上かと……」

「合ってるじゃない」

「あ、ほんとだ」

「もうあんたは……って、着いたわよ」


 如乞は立ち止まってため息をつく。


「もう、あんた達といると疲れるわ。じゃあこの宿に入ったら係の人が案内してくれるから」


 そう言って雪は去っていった。


「デカいな」

「デカいな」


 俺たちは思ったより大きい宿に声をそろえて呟く。


「入るか」

「入るか」


 俺は大きな扉をガチャリと開ける。


 無駄にデカいロビーに目を通すと、この宿に泊まっているであろう人に声を掛けられる。


「新入りか?」

「そうなるな」


 話しかけてきたのは俺と同じくらいの年の少年。

 最近の若者は躊躇わずに話しかけてくるなあ。良いのか悪いのかは知らんけど。


「俺は二誠の藤達和人ふじたつかずと。和人って呼んでくれ」


 男は手を差し伸べる。


「俺はムネトの左河宗人。三誠って呼んでくれ」

「うん。なんか混ざってるね」

「俺はノブナガだ。ムネトと同じ三誠。ナガって呼んでくれ」


 俺たちは二人で和人の手を包み込んだ。


 和人が何か違うという顔をしたのは気のせいだろう。




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