第3章
司令本部①
「はあ……どうしよう……」
大学の教室で講義を受けながら、僕は頭を抱える。
目下の悩みの種は、もちろんこよみさんのことだ。
先日の一件で、僕はアリスと完全に決別することができ、いよいよこよみさんに、僕の想いを伝える時がきた。
そして、問題はどうやってこよみさんに想いを伝えるかなんだけど、部屋で……っていうのもなあ……。
せっかくなら、こよみさんにとっても、僕にとっても大切な思い出として残るような、そんなシチュエーションでしたい。
さて、どうしようか……。
「はあ……」
「どうしたの? 溜息なんか吐いちゃって」
そう言って隣から声を掛けてくるのは、紫村先輩だ。
「いや、先輩何してるんですか」
「え? だって上代くんがこの講義受けるから、私も受けてるんだけど?」
「……これ、二年生の必須科目ですから。先輩はもうこの講義の単位取ってますよね?」
「もちろん!」
……悩みの種がたった今一つ増えた。
「先輩、遊んでないでちゃんと他の講義受けたほうが……」
「あら? 私、もう卒業に必要な単位、全部取ってるから」
「ええー……それは単位が少ない僕に対する嫌味ですか?」
「そうなの?」
「ええ……」
そうなのだ。
一年生の時はアリスに振り回され、ギリギリ最低限の単位だったし、二年生になってからはフラれたりした影響で、講義をまともに受けられていない。
何とか挽回するために今も真面目に講義を受けてるけど、前期テスト……大丈夫かなあ……。
「まあまあ、何だったら、私の二年生の時のノートとかレポート貸してあげるから」
「本当ですか!」
何だろう、先輩のことを初めて素晴らしい女性だと思えてきた。
「うんうん! だから、今日大学が終わったら、ちょっと私に付き合ってよ!」
「ええー……」
くそう、素晴らしい女性というのは間違いだった。
だが、ノートとレポートは非常に魅力的だ。
……仕方ない。
「……少しだけですからね? 僕は晩ご飯の準備があるんですから」
「ええー、せっかくだし、一緒にご飯しようよ!」
「ダメです」
この先輩は何を言ってるんだろう。
晩ご飯はこよみさんと一緒に食べるに決まってるじゃないか。
「もう、分かったわよ。だけど、彼女が『一緒にご飯食べてもいい』って言ったら、いいでしょ?」
「……いいですよ」
こよみさんは絶対に『いい』って言わないと思うけど。
——キーンコーン。
そんな会話をしていたら、講義終了のチャイムが鳴った。
……先輩に邪魔されて、全く話を聞いてなかった。
まあ、こよみさんのことを考えてたから、結局は聞いてなかったとは思うけど。
「よう上代! 早速だけど「断る」そうそう断る……って、まだ言ってねえだろ!」
友人の桐谷が講義終了とともに声を掛けてきたけど、用件は分かっている。
「どうせ合コンの誘い、だろ?」
「正解! なあなあ、人数足らないんだよ……頼む! 俺を助けると思って!」
「無理!」
「そうそう、上代くんは私と用があるんだから」
僕と桐谷の会話に割り込むように、先輩がずい、と身体を入れてきた。
「うお!? ひょ、ひょっとして、あの“紫村由宇”先輩ですか!?」
「? そうだけど……?」
キョトンとする先輩を尻目に、桐谷が僕に詰め寄る。
「お、おい上代! なんでお前が紫村先輩と知り合いなんだよ!」
「なんでって言われても……」
紫村先輩が怪人で、そして、勇者戦隊ヴレイファイブの一人、ヴレイバイオレットだなんて言えないしなあ。
とにかく。
「僕は合コンとかそういったものには興味はないし、参加するつもりもないから。悪いけど他を当たってくれ」
「な!? あれか! ひょっとして、紫村先輩と付き合ってるとか言うんじゃないだろうな!」
「違う」
「即答!?」
や、先輩、何を驚いてるんですか。
「だ、だったらお前、今フリーじゃねえか。別に合コンくらい……」
「無理」
だって僕は、こよみさん一筋だから。
……といっても、まだ付き合ったりしてる訳じゃないけど。
「……チェ、分かったよ。もうお前なんか誘ってやらないからな!」
「はいはい」
ようやく諦めた桐谷が、悪態を吐きながら離れていく……と思ったら、クルリ、と振り返った。
「上代!」
「ん?」
「その子、ちゃんと俺にも紹介しろよ!」
そう言って、桐谷が笑顔でサムズアップした。
「……分かったよ」
「おう! じゃあな!」
そして、今度こそ桐谷は教室を出て行った。
分かってるよ……お前に一番最初に自慢してやるからな。
「さて、じゃあ私達も行きましょうか」
「はい?」
って、いや、今日はこの後も講義があるんですけど?
「大丈夫よ。上代くんがこの後受ける講義は、レポート提出をしっかりすれば、最低限単位はもらえるから」
「なんで僕のスケジュール知ってるんですか!?」
先輩はストーカーさんですか!?
「ホラホラ、早く行くわよ!
「はあ……やれやれ……」
◇
「さあ、早く乗って」
「……先輩、この車は?」
「うふふ、これは私専用のマシン、“ヴレイモービル”よ」
「やっぱり……」
大学の駐車場に停めてある先輩の車は、まさかのヴレイファイブ御用達の車だった。
その近未来的なデザインは、こよみさんのヴレイビークルよりもさらに目立っている。
こ、これに乗るのか……。
「そ、その、先輩。これで走ったら、みんなこの車の持ち主がヴレイファイブだって気づくんじゃ……」
「そう? みんな意外と関心ないから、誰にも聞かれたことはないわよ?」
そういうものなのか……?
ふ、深く考えるのは止めよう。
「そ、それで、どこに行くんですか?」
「ああ、そういえばまだ言ってなかったわね。行先は市ヶ谷の司令本部よ」
「司令本部!?」
い、嫌な予感しかしないんですけど……。
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