怪人スオクイン①

■こよみ視点


「あああああ! もう! よりによってなんで永田町やねん!」


 ウチはそう叫びながら、首都高をヴレイビークルで疾走する。


 あと一〇分もあれば現場に着ける……!


 その時、ヴレイビークルのモニターから高田司令が映し出された。


『桃原くん、行先変更だ! 今すぐ鷲の宮に戻ってくれ!』

「はあ!? どういうこっちゃ!」

『怪人がもう一体現れた!』

「な、なんやて!?」


 ウチはすぐに首都高を降り、返す刀で引き返す。


 なんか、嫌な予感がする……。


 ……いや、耕太くんは家にいてるし、危険な目に遭うこともないはずや。


 せやのに、なんでさっきから不安になるんや……?


 ウチはアクセルを思いっきり回し、鷲の宮へ急いだ。


 ◇


「あ……あ……」


 現場に着いた瞬間、ウチは凍りついた。


 今まさに目の前で、耕太くんが女の怪人の触手で吹き飛ばされたから。


「う、嘘……や……ろ?」


 なんで? なんで耕太くんがここにおるん?

 なんで耕太くんが怪人に襲われてるん?


 ……って、違う!


「こ……耕太く—————ん!!!」


 ウチは慌てて耕太くんに駆け寄る。


「耕太くん! 耕太くん!」


 必死に呼びかけるけど、耕太くんの反応がない。


 そんな……まさ、か……?


「う……うう……」

「耕太くん!?」


 ウチは耕太くんの胸に耳を当てる。


 ——トクン、トクン。


 生きてる!

 耕太くんはまだ生きてる!!


「ヴレイビークル!」


 ウチはヴレイビークルを呼ぶと、すぐにヴレイビークルはウチと耕太くんの傍に横付けした。


 そして、ウチは耕太くんをシートにそっと乗せる


「司令! 今から耕太くんを病院に連れて行きます! せやから病院に連絡を!」

『何を言ってる! 怪人がいるんだぞ!』

「せやけど! 耕太くんが……耕太くんが!」


 ウチが必死に訴えても、司令は聞き入れてくれない。


 なんで!? 耕太くんは今にも死んでしまうかもしれへんのやで!?


『とにかく落ち着け! 上代くんはヴレイビークルに乗せたのか?』

「え、は、はい!」

『だったらすぐにベルトで固定するんだ! 後はこちらでブレイビークルを遠隔操作して、病院に運ぶ! だからヴレイピンクは怪人を倒せ!』

「っ! は、はい!」


 ウチはすぐさま耕太くんをベルトで固定すると、ヴレイビークルはその場から離脱した。


 その時。


「アアアアアアアア! ナンデヨオオオオオオオオ!」


 見送るウチを、怪人の触手が襲いかかってきた。


「……やかましいわ!」


 ウチは、ヴレイソードを一閃し、向かってきた触手を全て切り落とした。


「お前……お前えええええ!」


 コイツが……コイツが耕太くんをっ!!!


 ウチはヴレイソードを上段に構え、そのまま怪人に向かって突進した。


「うわあああああああああああ!!!!!」


 怪人の頭から生える触手という触手をそぎ落とす。


「アアアアアアアア!?」


 怪人の叫びが悲鳴に替わる。

 ウチはそんなことお構いなしに、ただただ怪人を切り刻む。


 気がつけば、怪人は手足も削がれ、頭と胴体を残して地面に転がっていた。


「死ねええええええ!」


 ウチが怪人めがけてヴレイソードを振り下ろそうとした、その時。


「っ!?」


 ウチの両腕が“いばらのつた”で拘束された。


「うふふ……やっぱり隙が生まれた」

「誰や!」

「誰かって? じゃあ名乗ってあげる。私はダークスフィア四騎将の一人、“スオクイン”」


 “スオクイン”て名乗った女怪人は、左手と右脚はいばらの蔦でできていて、その左手から伸びるいばらの蔦がウチの両腕の自由を奪う。


 そして、女怪人は怪しげな仮面を被っていた。


「ふうん……やっぱりあの子はあなたにとって特別のようね。だって、今日のあなた、関西弁になってるわよ? ひょっとして、そっちが本当のあなたなのかしら?」


 スオクインはいばらの蔦を引っ張ると、思わずウチの身体がよろめく。


「ふふ……さあ! 今こそヴレイピンクを倒すのよ!!」


 スオクインの右脚から伸びるいばらが、ウチへと襲いかかる。


「やった! ……………………は?」


 この女怪人は何を勘違いしてるんやろ。


 こんなちっぽけな、ただの草の紐でウチを倒せると思とるやなんて。


 それよりも。


「お前の……お前のせいかあああああああ!!!」

「なっ!?」


 ウチはさっきの怪人と同じように、スオクインから伸びるいばらの蔦を全て切り落とす。


「くっ!? 私の“ローズウィップ”は鋼鉄すらも切り裂くのよ!? なんでこうも簡単に……!」


 スオクインはなおもいばらの蔦をウチへと放つけど、結果は変わらない。


 ウチはそのいばらの蔦を全て撃ち落とし、スオクイン本体へと肉薄すると、この女怪人めがけてヴレイソードで突きを放つ。


「死ねえええええええ!!!」

「っ!?」


 獲った!


 そう思った瞬間、突然スオクインがウチの視界から消えた。


「な!? くそっ! どこいったんや! 出てこんかい!」


 ウチは辺りをくまなく見渡すけど、その姿はどこにもなかった。


 そして、切り刻んだはずの触手の女怪人も……。


 ◇


■???視点


「アアアアアアアアア!」


 痛い、痛い……!


 私はなんでこんなに痛い思いをしてるの!?


 それより、一体私は……?


 確か、あの女……紫村由宇とかいう女を痛い目に遭わせるために連れ出して、それで……。


「ア、ア、アアアアアアアアアアアア!」


 思い出した。


 それで、あの女の左腕から“何か”が飛び出してきて、私と一馬の身体を拘束して、それから……それから? それからどうしたの!?


 私は自分の頭を押さえようと……押さえようと……あれ? なんで? なんで手で押さえられないの?


 手……手……手ええええええ!?


 手が……手がない!?


 どうして!? どうして!?


 じゃ、じゃあ反対の手は!? 足は!?


「アアアアアアアアアアア!?」


 やっぱり反対側の手も、足もない!?


「……やあ、ようやく自我を取り戻したかい?」


 訳が分からず混乱していると、後ろから子どもの声が聞こえた。


 誰!? 誰なの!?


「ああ、ゴメンゴメン。君、手足がないから、後ろに振り向けないよね」


 すると、私の目の前に、小さな……小学生くらいの男の子が現れた。


「えへへ、ボクはダークスフィア四騎将の一人、“カネショウ”だよ。ヴレイピンクに殺されそうになっていたところを、ボクが助けてあげたんだ」


 そう言うと、“カネショウ”と名乗る子どもが嬉しそうに笑った。


 だけど、ダークスフィアって……あの、悪の組織の!?


「いやあ、君の身体、ボクの仲間の“スオクイン”が怪人に作り替えちゃってね? それで、ヴレイピンクの当て馬にされちゃったの」


 は? 私の身体が怪人に?


「そ。で、ヴレイピンクに切り刻まれちゃったわけなんだけど、その二人に復讐したくない?」


 え?


「だって君、あの二人に自分の身体メチャクチャにされて、瀕死の状態なんだよ? 普通、ムカつくよね?」


 私の身体がムチャクチャに……?


 私はもう一度、自分の身体を見る。


 私の身体は、昆虫のような胴体をしていて、そして、手足がなく芋虫のようだった。


「ア、ア、アアアアアアアアアアアアア!?!?!?」

「ああもう、うるさいなあ。それで、ムカつくの? ムカつかないの? どっちなの?」


 私の身体、私の……私の私の私の私の私の私の私の私の私の私のわたしのわたしのわたしのわたしのワタシノワタシノワタシノワタシノワタシノ……!


「アアアアアアアアア! コロス! アイツラヲコロス! コロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスウッ!!!!」

「そっか、じゃあボクがそんな君の手助けをしてあげる! 大丈夫、ボクが君を世界一美しい怪人にしてあげるから!」


 そう言って、カネショウと名乗る男の子は口の端を吊り上げた。

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