番外 未来永劫に愛する人
俺はこれといって、目立った人物ではなかった。幼い頃から可愛らしく、女子とは女友達のように仲良くなり、男子からはよく女の子扱いされていた。成長すれば徐々に男の子らしく変わっていくだろうと、自分でも期待していたけど、いつまで経ってもこの状況は変わらなかった。寧ろ、悪化していたというべきだろうか?
中学生にもなれば、異性を気にするようになる。俺は相変わらず、女子の中に混ぜてもらっていた。偶に男子から告白されることもあり、大抵は同性と気付けば、告白はなかったことにしてくれ、と言われる。それでも稀に…同性でもいいから付き合ってほしい、そういう男子も居たりして、逆に俺の方がお断りしていた。
俺は、こう見えてもノンケなんだよ。普通に女子と恋愛したいんだよ。
高校生になっても、状況は変わらなかった。男女共学の学校だというのに、俺に告白してくるのは、男子ばかりである。然も、同性だと知りつつも、告白されていたのだ。悪いけど…俺はストレートで、そういう恋愛は興味ない。兎に角外観上で判断されれば、中性的な容姿の所為で、必ず女性に見られてしまう、俺。
『僕』と言っていた時期もあったが、男の子っぽい女子に勘違いされないように、『俺』と話すようにした。
それでも周りから、男の子っぽい女子と勘違いされるのは、毎回のことであり…。
女子には可愛い男子扱いされ、真面に恋愛相手と見てもらえなかった。
せめては…と、軟弱扱いだけはされたくなくて、武術を習って身体は鍛えていた。
だけど、服を着ると着痩せして見える為に、全く筋肉がないみたいに見られるんだよね…。これでも…運動神経がいい方なのに。
大学に入学してからは、もう割り切って漫画サークルに入って、堂々と女子達と仲良くしていた。俺も元々ゲームに凝ってたし、このサークルは漫画だけではなく、他にもゲームとかアニメでもよかったから、趣味が合う部員が多くて丁度いい。
男子部員は数人だけだったから、逆に重宝してもらえたし、これまでよりは男子扱いしてもらえていたから、俺は満足していた。
ある大規模なイベントで、うちのサークルが同人誌を販売することになった。
他の男子部員は嫌がって欠席したが、俺はよく手伝っていた。だからこの日も、いつものように店番をしたり、重い荷物を運ぶ手伝いをしていた。そしてその時に、俺らの販売所に客として来た彼女と、運命の出会いをしたのだった。
彼女はどう見ても外国人で、俺が英語で話しかけると、日本の大学へ留学していると答えてくれた。綺麗な金髪の長いふわふわした髪型で、モデルみたいな美人さんであった。日本語の発音もスムーズで、目の色とか顔の容姿を見ていなかったら、日本人だと思うぐらいである。
その時は、ただの店員と客みたいな関係で終わったけど、その後に再会した時は、趣味の話もすることが出来た。大した内容ではなくても、俺に「凄い!」とか言ってくれる彼女に対して、少しづつ好意を持って行く。彼女に会う度に、母国に彼氏がいるかもしれないし…と、彼女とはある程度の距離を保ち、恋愛感情を持たないように気をつけて。そのなのに、何故か…彼女の方から、グイグイと近づいて来ているような…?
正直に言えば、彼女のしたいことが理解できない。俺が距離を置こうとしているのに、気付いていない?…俺が距離を置けば置くほど、彼女の方から攻めて来ているような気がする。…う〜ん。意味が分からない。それとも彼女は…鈍い人なのだろうか?…彼女は日本人じゃないから、はっきり伝えないと、分からないのかもしれない。日本人は、恋人でもない人とはベタベタしないんだよ、と。
ところが、彼女から意外な言葉が返って来た。「それなら…付き合って!」と言われて、俺は呆然とした。まさか…そういうつもりで迫られていたなんて、全く思っていなかった。同性と勘違いしているのかと思えば、他の女子に聞いて知っていると言われ、尚更混乱した。彼女は真っ直ぐに、俺の心の中に入って来たのである。
そうして、俺は…直ぐに、降参することになったのだ。
「誰にでも優しく出来る、貴方が好き。後、顔がとってもキュートで可愛くて、好き。見掛けによらず、筋肉質なところも好き。あとね、サラサラな黒髪と、艶っぽい黒い瞳が好き。それからね、私が告白したり抱き付いたりする度に、真っ赤になって恥ずかしがるところも、ぜ〜んぶ大好きよ!」
彼女は、俺の妻になった後も、ずっとこう言っては、俺を生涯に渡り、困惑させてくれたのであった。
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「フェリシアンヌ…お前との婚約は、今日を以って…破棄させてもらう!」
ハイリッシュがそう叫んだ時、俺はこの世界が乙女ゲームの世界と、あまりにも酷似した世界であることを知る。…ああ。
妻は悪役令嬢である侯爵令嬢フェリシアンヌに憧れていた。何故ならば、侯爵令嬢の容姿が、黒髪黒目という日本人風であったからである。今後、彼女は正式に婚約破棄となるだろう。もし、彼女の正体が妻であるならば、俺は迷わず婚約を申し込むつもりだ。俺は、前世の妻が…忘れられなかったのだ。前世では、プロポーズ以外で自分の気持ちを伝えられず、妻に「愛してる」と言えなかったことが、ずっと心残りでもあった。前世は日本人だったから、そういうのが恥ずかしくて。
だからこそ…今世では伝えたいと、ずっと思っていたのだ。
そうして、彼女に話しかけようと近づけば、彼女は何か呟いていて。声を掛けようとしたら、彼女は俺の期待する言葉を、1人呟いている。
「…乙女ゲームでの続編では、ヒロインが交代するのは定番でしたわね?…ただ悪役令嬢は…そのままなのも定番でしたし、その時はまた…わたくしが悪役令嬢になるのかしら?」
彼女はやはり…前世からの転生者だ。これで、前世の俺の妻
やはり、彼女は間違いなく…前世の俺の妻だよな?…彼女は、俺のことには気が付かないみたいだけどね…。それでもいい。彼女は、前世の俺を忘れた訳ではないようだし、時々…前世の俺と今世の俺を比べているようだし…。
彼女の性格が前世と異なるように、俺の性格も前世とは異なっている。今の俺は…モブキャラと言えども、この世界でも稀有なぐらいのイケメンに、生まれて来ていたのだ。以前の女性っぽい可愛さなんて、全くない。幼い時…物心ついた頃から、老若男女の身分も様々な人間から、美しい男児であるとか、将来は麗しい人物となるだろうとか、様々な誉め言葉をもらって来ている。前世の記憶を思い出す前ではあるが、嬉しいとは思わなかった。思い出してからは…特に、である。
前世ではモテなくて(男子にはモテたけど)、モテたいと思ったこともある。
しかし、だからこそ前世で妻と会えたのである。妻以外には、モテなくてもいい。
あの容姿でなければ、前世の妻は振り返らなかったかもしれない。俺ももっと自分勝手な性格に、なっていたかもしれない。ハイリッシュを見ていたら、そう感じてしまった。この姿でも…妻は、好きになってくれるだろうか?…と。今の自分は、前世で妻が好きだと言ってくれた要素が、1つもないのだ。公爵令息という身分では、身体も筋肉質になるほど鍛えられないし、誰にでも優しくしたくても、この容姿のお陰で…女性に気を持たせてしまう。だから、気のない女性には、特に冷たくあしらっているのである。それでも、彼女は…振り向いてくれるかな?
それでも見つけてしまった以上、他の男性に任せるなんて、絶対にしたくない。
だから…ごめんね?…前世の俺とは違うけれど、君を誰にも渡したくないんだよ。
これでは、まるで…真逆になったみたいだね?…俺達は。君は見かけが日本人風になって、日本人みたいに告白されたり、ちょっと接触しただけで恥ずかしがって、直ぐ真っ赤になるほど、純情になっている。逆に俺は、見掛けはすっかりイケメンな西洋人っぽくなって、告白したり接触しても恥ずかしくなくなって、前世の君みたいに恋愛事にも平然としている。育った環境が、その人物の性格にも影響するとは、前世でも言われていたことだけど、本当にそうなんだよね。自らが体験して、よく分かる事実だよ。
最近、やっと彼女と…フェリシアンヌと、正式に婚約した。彼女は今も、今の俺の中にある前世の俺を、見つめている。勿論、今の俺のことも気にしてくれている。
…良かった。心からホッとした。彼女にとって、俺の存在は…前世とか現世とか関係なく、俺自身を見てくれているようである。俺だって…そうだよ。彼女が彼女だからこそ、彼女のことが大切なんだよ。だから俺は、今度こそ…。
「俺のフェリ。これからもずっと、愛しているよ。一生、いや、未来永劫に。」
「……カイ様。…え~と。……わたくしも………」
俺の愛の告白に、真っ赤になって恥ずかしそうにしながらも、一生懸命に応えようとするフェリ。君は…
俺の正体を知った時、君は…どういう反応を示すのだろうか?
…その時を楽しみにして、俺は……待つとしようかな。
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読んでくださって、誠にありがとうございます。
本編終了後の最終回のお話で、番外編となります。カイルバルト視点でした。
実は、前回で終了予定だったのですが、急遽付け足した次第です。前世でラブラブだった2人が書けたので、満足しています。
さて、今回で…このお話は、これで完全終了となりました。8月中には終わりませんでしたが、楽しく作品を書くことができました。今まで読んでくださった方々には、大変感謝をしております。沢山の方に応援していただき、ありがとうございました。今は無事終了し、感慨無量の気持ちで満たされています。
もし…今後、このお話の続きが開始される可能性として、皆様からのご要望がありましたら、若しくは…筆者の気が向きましたら、第二弾の続きのお話を作成するかもしれません。(今のところ、予定はありません。)
宜しければ、他の連載中の2作品を応援していただけますと、嬉しく存じます。
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