第131話



「一つ聞きたいんだが、何で俺と戦うって話になったんだ?」


 蒼太は単純にそれを疑問に思っており、未だ顔の青い将軍へと尋ねる。


「いや、それは、お主が勝てたら話すと言ったから……」


 将軍はやや尻すぼみになりながら答える。


「うーん、その話っていうのが洞窟でのことだったらその大半はそっちの衛兵さんに話したからそっちから聞いてもらえばいいだけだと思うんだが……わざわざ勝負しなくても」


 それを聞いた将軍は勢い良く衛兵へと顔を向ける。



「私は言おうとしましたからね、話を聞かなかったのは将軍のほうです」


 衛兵はジト目で将軍を見返す。


「あー、そういえば何か言っておったな……知っておったなら、もっと必死で止めんか!」


 将軍は自分のことを棚にあげて衛兵を責めだした。


「はぁ、じゃあいいです。私が悪かったんです、もっとがんばって止めればよかったですね。すいませんでした、これでいいですか?」


 将軍の言に呆れた衛兵は、おざなりな謝罪を返した。


「いや、そう言われるとわしが悪かったんじゃが……」



 二人のやりとりを見ていた蒼太とディーナは二人の関係性を不思議に思っていた。一介の衛兵と国の将軍がこれだけフランクに話しているのはどうみても異常だった。


「あの、お二人は元々お知り合いか何かなのですか?」


 蒼太に目配せされたディーナは一度頷くと、衛兵と将軍に問いかけた。


「ん、あぁ、知らん者なら疑問にも思うか。こいつは今は検問所の衛兵をしておるが、元々は王城努めでな。わしはこいつのことを見込んでいて、ゆくゆくは将軍の地位にと思っておったんじゃが、自分で異動願いを出しおった。しかも、それがすんなり通りおった。事前にこやつが手を回していたに違いない」


 将軍は腕を組んで衛兵のことを睨んでいた。



「いやあ、見聞を広めたいと思いまして。城にいたのでは、凝り固まった考え方になってしまいますからね。実際に外の世界に出てみて色々と新しいことを学んだり、珍しいことや人に出会うことができましたよ」


 将軍とは正反対に衛兵の表情は明るかった。


「なるほどな、それで将軍にも意見できるのか。ただの衛兵じゃないとは思ってたが、将軍候補だったとはな」


「やめてください、僕は検問所のただの衛兵です。今はそれでいいんですよ」


 衛兵は両手を振り、将軍候補ということを否定する。



「まぁ、それはいいか。さっきの話の続きだが、あんたが聞きたがってた情報だがそっちの衛兵に大体のことは話してある。聞きたければそっちから聞いてくれ。俺たちは小屋に戻らせてもらう」


 蒼太はディーナを伴ってアントガルが寝ている休憩小屋へと戻っていった。後ろでは将軍が何か言おうとしていたが、これまでの蒼太の言動を見る限り衛兵に聞けといった言葉が全てなのだろうと判断し、声をかける対象を衛兵へと移していた。



 扉を開き、小屋へ入るとアントガルが目を覚まし身体を起こしていた。


「お、やっと目が覚めたか」


「アントガルさん、おはようございます」


 二人に声をかけられたアントガルは、まだ少しぼーっとしていたが顔を二人へと向けると覚醒し目を見開いた。


「ここはどこだ? 何で俺は……鉱石はどうなった?」


 混乱している頭のままアントガルは疑問を口にした。



「まぁ、落ち着け。ここは検問所の休憩所だ。衛兵に事情を話したら貸してもらえることになった。お前は採掘が一通り終わったあとで、急に糸が切れたように倒れて眠り込んでしまったんだ」


 アントガルは倒れる前のことを薄っすらと思い出したようで、ふむふむと頷いていた。


「運んだのは俺で、鉱石は俺とディーナの鞄にわけてしまってある。あのエリアのほとんどを採ったからかなりの量になったが、それは話していない。強権を発動されて国に回収されても困るから、アントガルも黙っておいてくれ」 



「わかってる。しかし、あれだけの量を独占したらどこかに漏れる可能性が……いや、あんたのバッグにしまっておいて小出しにすれば問題ないか。万が一徴収されるなんて話になったら、少し流せば問題ないだろう」


 アントガルの言葉に蒼太は口元を少し吊り上げ頷いた。


「お前もわかってるな、そのために俺とディーナに分散してある。ディーナの鞄の方が容量が少ないから、もし出せと言われたらそっちを全て放出しようと考えている」


「そうですね、それでもそれなりの量になりますから。満足してもらえると思います」


 自分のマジックバックを撫でたディーナはその中にある自分が収納した鉱石を思い出していた。



「で、アントガルどうだ? 身体の調子は?」


 蒼太が尋ねると、アントガルは首や腕を動かし始める。


「身体は大丈夫そうだな、どれ立ってみるか」


 ベッドから立ち上がるが、ふらつくこともなく安定した立位をとれた。そして確かめるように足踏みをしたと思ったらそのまま部屋の中を歩き始めた。


「うむ、大丈夫そうだ。まだ少し眠気はあるが、問題ない」


 アントガルは笑顔でそう言った。その足取りは本人が言うとおり軽やかで、問題は見られなかった。



「さて、それなら早速街に戻るか? 途中休憩をいれながらでも今日中には戻れるだろ」


「俺は構わないぞ」


「私もです」


 二人の答えを聞いた蒼太は、部屋を見渡し忘れ物がないことを確認すると小屋から出て行く。そこでは、衛兵と将軍が話を続けていた。蒼太に倒された騎士たちは休憩小屋とは別の建物の近くの日陰に移動していた。すでに二人とも意識は取り戻しているようだった。



「む、おー、アントガル殿も目を覚まされたか。元気そうでなによりじゃ」


 勇者の子孫であるため、将軍もアントガルには敬称として殿をつけている。


「あ、えー、どうもです?(この人まだいたのか)」


「ん? 何か言ったかね」


 アントガルの言葉は近くにいる蒼太たちにだけ聞こえる音量に絞っていたはずだったが、将軍の耳に微かに届いている様子だった。


「いえいえ、何でもありません」


 ぎこちない笑顔と敬語で返すアントガルの額には薄っすらと汗が浮かんでいた。



「俺たちはそろそろ街に戻らせてもらう。アントガルも目覚めたからな、あんたには世話になった。ありがとうな」


 蒼太は衛兵に握手を求める。


「いえいえ、何もできませんでしたがあなたにそう言って頂けるなら、よかったです」


 その手をとり衛兵は笑顔で返した。そのやり取りを将軍は不機嫌そうな顔で見ていたが、自分がやったことを振り返ると何も言えないでいた。

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