第88話
謁見の間を後にした二人は再度、待機室へと案内された。先程の内容を文書に残すとのことであった。
「んふふー、ソータさんやっぱり武闘大会に参加することになりましたねー」
ディーナは嬉しそうに蒼太に笑顔を向けた。
「不本意だけどな、まぁ本をもらえることになったから悪い話じゃないだろ。それにしてもディーナは嬉しそうだな……」
蒼太はジト目でディーナのことを見た。
「だって、参加決まったじゃないですか! ソータさんの力は認められるべきなんですよ、バルザさんが優勝できたんですから、ソータさんなら絶対に優勝できますよ!!」
獣人族の勇者バルザに懐いていたディーナだったが、それ以上に蒼太の力を信頼していた。そして、魔王を倒したはずの蒼太が世間に評価されることなく、元の世界に送り返されてしまったことにも憤りを覚えていたため、その力を示せる機会が出来たことに喜んでいた。
「そこまで俺の力を信じる根拠がわからんが……まぁ、優勝できるようにがんばるよ」
「はい!」
やる気がいまひとつ感じられない蒼太の返事だったが、ディーナはそれでも満足だった。
「細かいルールや参加者について知りたいから、大会までは情報集めと装備の点検だな」
「お供します!」
蒼太の言葉にディーナは意気込むが、そこへ扉の方向から声がした。
「それなら、少しはお手伝いできますよ。扉が開いていたので、話に入ってしまいましたがよろしいですか?」
「特に聞かれてまずいことは話していないからな、話にも部屋にも入ってもらって構わないさ」
片手に書類を持った豹の文官が部屋へとやってきた。
「それでは失礼します。先程はうちの王がとんだ難題を振ってしまい申し訳ありませんでした」
文官は部屋に入るなり、そう言って頭を下げた。
「頭を上げてくれ。今となってはむしろ良い話だったとも思ってるところさ」
「そう言って頂けるのが良いのか悪いのか判断に困りますが……とりあえず、書面の確認とサインをお願いします」
蒼太は受け取った書類の確認をしていく。
「ふむふむ、なるほどな。さっきの俺達のやりとりがそのまま書面になっているようだな。まぁ、あれだけ色々断言しておいて話を覆すようなことがあったらそれこそ王としての器が知れるからな……ここにサインすればいいか?」
書類に書かれていたのは、蒼太が武闘大会で優勝した場合、城の書庫の本を賞品として受け渡すという内容になっていた。
「全くあの人にも困ったものです。はい、その一番下の空欄にお願いします」
文官は先程の王の発言に呆れを見せていた。
「はい、ありがとうございます」
書類をくるくると丸めると、筒状のケースにいれていく。
「それで、俺の情報収集の手伝いをしてくれるということだが?」
蒼太は先程の文官の言葉を思い出し、質問をした。
「参加者の情報はありませんが、ルールについての説明であれば私のほうで承ります。基本的な部分からの説明でよろしいですか?」
「あぁ、頼む」
文官が言う内容は、途中蒼太の質問を交えた上で下記の内容となった。
1.集団部門・獣魔部門・武闘王部門の三部門に分かれており、それぞれパーティ戦・テイマーによる使役魔物戦・個人戦となっている。今回蒼太に出てもらうのは武闘王部門の為、他部門の説明は割愛。
2.個人戦では武器・防具の使用は自由。ただし、呪われた武具に関してのみ禁止としている。
3.勝敗は「敗北宣言」またはノックアウトによって決せられる。それ以外では、レフェリーがこれ以上続行不可能と判断した場合に運営により決着が判定される。
4.優勝賞金は金貨1000枚、準優勝は金貨300枚、3位(2名)は金貨100枚。蒼太が優勝した場合は、賞金プラス賞品の形になる。
5.負傷に関しては、死なない限り王国の治療部隊による魔法治療が行われる。
6.相手を死に至らしめた場合は、その場で即失格。リザーバーシステムはない。
7.倫理にもとる行為はレフェリーの判断で止められることがある。
8.レフェリーレベルでの判断が難しい場合は、王による判断で行う。
「なるほどな、不正は許さず。あくまで個人と個人の力量で争う。ただし、装備を集めるのも実力の内ってところか」
蒼太の言葉に文官は頷いた。
「左様です。歴代の王達もその腕っ節で王になった方がほとんどで、そこに不正の介在を許さずといった方々でしたので」
「それを今の王も引き継いでいるのか」
これにも文官は頷いた。先程はバカなどという呼び方をしたが、心底では信頼や尊敬をしているのが表情から伺えた。
「さて、書類とルールについての説明は以上になりますが、他にお聞きになりたいことはありますか?」
蒼太は首を横に振った。
「いや、これで十分だ」
「もし、後々何かあれば城の受付にてお名前を言って頂ければ私の方へ取り次ぐように話しておきますのでお気軽にどうぞ」
文官は一礼をし、そう言った。
「あー、それはありがたいが……あんたの名前をまだ聞いていないから誰を呼べばいいか言えないな」
文官はしまったと、自分の頭を掌で軽く叩いた。
「これは失礼しました。私の名前はルードレッドと申します。城の大臣をしておりますので今後ともよろしくお願い致します」
「えっ!? 大臣さんだったんですか? お若いからてっきり……」
ルードレッドはディーナのその言葉を他からも言われなれており、苦笑をしながら答える。
「てっきり、平の文官だと思われましたか? ふふっ、よく言われるのでそれも慣れましたよ。元々実績があったわけではないのに、王に直接登用されましてね、最初の内は方々になめられてしまって大変でした」
この若さでその地位についているということが、それだけで彼の優秀さを物語っていた。
「俺も一般の文官だと思ってたよ。よくよく考えてみれば、一般の文官程度じゃあの場にはいないよな。悪かったな」
「ごめんなさい」
蒼太に続いて、ディーナも謝罪した。
「いえいえ、先程も言ったとおり、慣れておりますのでお二人ともお気になさらず」
謝られることで居心地が悪くなった為、首の後ろをなでながらやや困った表情になった。
「それじゃ、ルードレッド。俺達は街に戻らせてもらう、武闘大会は一週間後だったな……出場登録は仮面をしてすませておくよ。名前は、そうだな……グレイ、とでも名乗ることにするか」
「グレイ様ですね、承知しました。王にもその旨伝えておきます。それでは、入り口までご案内します」
一通りの必要なやりとりを終えた為、蒼太達はルードレッドの案内で城を後にした。
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