第72話
ローリーがカレナ達に受け入れられたのを確認すると蒼太とディーナは冒険者ギルドへと向かった。
ギルドへ入ると一瞬のどよめきがあり、その後見知った顔ぶれが蒼太に話しかけてきた。
「おう、ソータじゃないか。遠くに行ってたと聞いたが、案外早く戻ってきたんだな……おい、ちょっとこっちに来いよ」
そう言って、蒼太をディーナから離れた場所に連れてきたのは三兄弟だった。
ガルが声をひそめて蒼太に訪ねたのはディーナのことだった。
「おいおい、あの娘はどうしたんだよ。すげー美人じゃねーか」
「ミルファさんとか、アイリさんとかいるのにお前も隅におけないなあ」
ゲルも兄に続いた。
「なんか、美人ばかりソータの周りに集まるね……いつか刺されそうだ」
ゴルは目が据わっており、物騒な発言をしていた。
「あいつは、昔の仲間の妹だ。エルフの国で再会して連れてきたんだが……ちょっとわけありなんだ。追求しないでくれると助かる」
からかいと妬みから声をかけた三人だったが、蒼太が思いのほか真面目に返してきたため、肩透かしをくらうこととなった。
「まぁ、そういうことなら……」
「深くは聞かないでおこうか」
「仕方ないなぁ」
そう言うと、三人は蒼太を解放した。
蒼太がディーナの下に戻ると三人は、話を聞きたいものの蒼太本人には質問できないでいた別の冒険者達に囲まれ質問されることとなった。が、大した情報を得られていないため、不満な顔をされるという災難を被むることになった。
「ソータさん、あのお三方はあのままでいいんですか?」
「あぁ、いいスケープゴートになったからな。俺の代わりに質問攻めにあってもらおう」
一番最初に興味本位で話しかけてきた者を自分の代わりにしようと考えていた蒼太の作戦に三兄弟は、図らずもはまってしまった。
蒼太とディーナは三人に注目が集まっている隙に、蒼太の戻ってきたことの報告とディーナの冒険者登録を行うためにカウンターへと向かっていた。
空いてるカウンターは一つ、そしてそこの担当をしていたのは何の偶然かミルファだった。
「……おかえりなさい、ソータさん」
ミルファはやってきた二人を見ると、一瞬間をおいて挨拶をした。
「あぁ、ただいま。一応街に帰ってきたという報告にきた、それと彼女の冒険者登録をしたいんだが」
蒼太の言葉に合わせて、ディーナは一歩前にでる。
「ディーナと申します。よろしくお願いしますね」
「え、あっと、ミルファと言います。こちらこそよろしくお願いします」
笑顔でおじぎをしたディーナにつられてミルファも同じように挨拶を返した。
「ギルドについての説明は俺がするからいいとして、とりあえず登録だけ済ませようか。ミルファ頼めるか?」
「あ、はい。大丈夫です……こちらの用紙に記入をお願いします」
蒼太が登録した時と同じ用紙がディーナの前に差し出された。その用紙に目を通すと、さらさらと整った文字を記入していく。
「……これでいいですかね。一応空欄は全て埋めましたが」
ミルファはそれを手に取り、一項目ずつ確認していった。
「はい、大丈夫です。ではカードに記載内容を転写します」
用紙をカードの上にセッティングすると、内容が刻まれていく。
「転写完了です。次はこのカードに血液を一滴垂らしてください、必要であればこちらをどうぞ」
「ありがとうございます」
ディーナは用意された針を使い、指先を刺すと血液をカードに垂らした。
「はい、これで完了ですね。ギルドの説明は不要とのことなのでこれで登録は終わりになりますが、何か質問はありますか?」
「うーん……今は特にありません。また、何かあったら質問に伺いますね」
ディーナは少し考えた後、そう答えた。
「そう、ですか。それでは登録ありがとうございます。何か困りごとがあれば気兼ねなくいらして下さい」
ミルファはどこか見覚えのある彼女の顔に、ひっかかっていたがそれを口には出さず努めて業務に徹していた。
二人はここでの用事は済んだため、ギルドを後にした。
ディーナの名前と、蒼太の元仲間の妹ということ以外の情報を得られなかった冒険者達はざわざわとそれぞれの予想を話し合っていた。その中で、ミルファはディーナへの疑念を晴らそうと考え込んでいたが、それが何なのかを思い出すことはかなわなかった。
「さてと、これで身分証明証を作れたな」
「よかったです、千年前の人間でも普通に作れて」
後半は蒼太に聞こえるくらいの小さな声で言った。
「まぁ、俺でも作れたんだから大丈夫だろうとは思ってたから何も言わなかったが……不安だったか?」
「少し、かな?」
蒼太の質問に、親指とひとさし指を1cmほど開いて答えた。
「何かあったらソータさんが庇ってくれると思ってましたから」
ウィンクしながらディーナはそう言った。
「……なんかずるいな」
美人にウィンクされたことで、蒼太は言葉に詰まってしまう。
「うふふ、次はどこに行きますか?」
「うーん、図書館にいければと思ってたんだが……」
既にあたりは暗くなっており図書館もしまっている時間だった。
「そっちは明日にして、メシでも食って帰ろう。馬車で話したと思うが、俺が前に泊まっていた宿の食堂に挨拶がてら行ってみようかと思うんだが、いいか?」
「はい、ついて行きますね」
蒼太の提案にディーナは反対しなかった。表情は笑顔のままで変わらなかったが、トゥーラまでの道中で宿屋のシェフ、ゴルドンの腕前を聞いていたため、内心ではとても喜んでいた。
宿屋にたどり着き中へ入ると、元気な声でミリが二人を出迎えてくれた。
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