第64話
「お主がソータと申すものか?」
大臣がそう質問した際には、蒼太たち一同はひざまづいていた。
「はっ、冒険者のソータと申します。この度は王ならびに貴族の皆様への謁見の機会を賜り、恐悦至極に存じます」
いつもの蒼太からは考えられないほど畏まった態度に下を向いているナルアス達は驚愕していた。
「ふむ、なかなか殊勝な態度ではないか。許可する面をあげい」
蒼太は大臣の許可を得て、顔をあげ王へと視線を送る。
「王様、いかがなさいましょうか?」
大臣が王へと蒼太達の処遇について訪ねるが、王は蒼太への興味を失いつつあった。
片肘をつき、あさっての方向を向きもう興味はないぞといった態度になっていた。
「ん、あぁ、別にいいんじゃないか。一応話を聞きたいってことで呼んだが、別に聞くこともないだろ」
普段は良識のある良い王だったが、蒼太の破天荒さに期待していたものの予想外に型にはまった応答をされ内心がっかりしたため、このような態度になっていた。
「お、王様、それでは呼んだ意味が! ディーナ様のこともありますし、何かお言葉を」
ディーナの名前を出されたことで、王は態度を改め座りなおした。
「ディーナ様、王が様付けはまずいのか? ディーナ殿は魔水晶の封印から解放されたということでよろしいか?」
王からの質問にディーナも顔をあげる。
「そうですね、千年振りになるのですかね? 無事解放されました」
「それについてですが、何故以前に解放した時は封印が解けず、今になって何故解けたのか聞いても?」
その質問への答えに顎に手をやりしばし逡巡するが、彼女は満面の笑みで回答する。
「秘密です!」
「秘密ですか。ははっ、それじゃあ仕方ないですな、わははっ!」
王はその答えが気に入ったのか、豪快に笑った。
「いくら過去の王族であるディーナ様とはいえ、王の問いに対しその真を秘するとはいかがなものか!」
「そうだ、失礼極まりない!!」
列席していた貴族からディーナを責める声があがる。当のディーナは傷ついてはいないが困ったといった様子で苦笑いになっていた。
「いや、よいの……」
王が貴族達を収めようとした時に、一際大きな声の中傷が飛んだ。
「罪人が生意気な態度をとりおって」
「そうだ、罪人は牢屋にでもいれておけ!!」
その言葉を聞いてディーナの顔に影がさした瞬間、広間に一陣の風が吹いたように感じた。実際には風は吹いていなかったが魔力が駆け抜けたためそう感じられた。
「あ?」
蒼太の怒りを込めた声がその場にいる全ての者の耳へと届いた。
先ほどまでの態度は鳴りを潜め、立ち上がりディーナを罪人と罵った男達をにらみつけていた。
男達は蛇ににらまれたカエルといった状態で、身動き一つとることが出来ずに立ち尽くしている、いやその場にいる他の者達も動くことができずにいた。
「おい、お前いま何て言った?」
蒼太はゆっくりと男へと近づいていった。
「うっ、いや、わしは……」
男の一人はそれだけ口に出すのが精一杯だった。もう一人の男は蒼太に気圧され、口も開けないでいた。
「ま、待ってくれ。部下の不始末は謝ろう、その矛を下げてもらえないか」
いち早く自分を取り戻した王が蒼太を止めようと声をあげる。
「あんたが謝っても仕方ないだろ、俺の仲間に対して最低な発言をしたのはそこのそいつらだ。それに……謝る相手を間違えるな」
蒼太はディーナへと視線を送る。
「そ、そうだったな。おい、お前らすぐにディーナ殿に謝罪をしろ! 私からも、ディーナ殿部下の非礼をお詫びします、申し訳なかった」
自分達の行動が原因で王に頭を下げさせてしまったこと、自分達の側に近寄ってくる男への恐怖からその身を震わせた。視線が自分達へと集まっていることに気づき、顔を青くしながら急いで頭を下げた。
「も、申し訳ありませんでした。ディーナ様、どうか我々をお許し下さい!」
膝を折り、頭を床につけるいわゆる土下座スタイルで許しを請おうとしていた。
「だ、大丈夫です。私は気にしてませんから、頭を上げてください」
少し焦った様子でディーナは言った。そして、蒼太の側まで行くと人差し指を立てて注意を始めた。
「ソータさんもそんな風に怒ったらダメですよ。ただでさえ強力な魔力を持ってるんだから、そんな風にしたらそれこそソータさんが悪役になっちゃいます」
「む、悪かった。まぁ俺としてもディーナが許すというならこれ以上怒る理由はないさ」
蒼太は魔力や怒気を収めディーナへと謝った。
素直に謝る蒼太に苦笑するが、すぐに普段の笑顔になる。
「もう、仕方ないですねぇ……でも、私のために怒ってくれて嬉しかったですよ」
そう言ったディーナの頬は赤くなっている。
「んんっ」
王が咳払いをしたため、皆の注意がそちらに集まった。
「あー、ソータだったか? さっきの殊勝な態度は本性を隠してたということでいいか?」
「まあ、そうだな。ばれたから話すが……どうやらドルス達を追い返した俺に興味があったみたいだから、おとなしく従順なやつには興味を示さないと思ってな」
貴族達はその無礼なものいいに文句をつけようと喉元まで声が出掛かるが、先ほどのやりとりを思い出しそれを飲み込んだ。
「ふっ、まんまと私はだまされたわけだ。だが、そんなことをせずとも元々少し話を聞きたかっただけだ。お前達が困るようなことはせんよ」
「あんたがそのつもりでも、今のような態度で最初からやってたらそこの貴族達がわめいて、結局俺達が面倒に巻き込まれることになってただろうさ」
王は一瞬考え、頷く。
「確かに、その通りだ。よくこいつらのことをわかってるな」
「それで、俺達をどうするつもりなんだ? あんたの興味の対象になったのか? それともそこのやつらが言うように罪人扱いにでもするか?」
王は静かに首を横に振った。
「いいや、何かするつもりはない。これ以上ひきとめようとしたらこちらへの被害が大きくなるだろうからな。私としてもさっきのやりとりが見られただけで十分だ、実力の一端を見ることが出来たからな」
そういうと、満足そうに頷いた。
「じゃあ、そろそろ行っていいか?」
「あぁ、いやわざわざここまで呼んでおいてタダ返すと言うわけにもいくまい。不快な思いもさせてしまったことだしな、そちらの者たちに至ってはここまで来て、一言も発せず帰ることになってしまう。さてさて何がいいか……」
顎に手をあて悩む王へ大臣がなにやら耳打ちをする。
「ふむ、なるほどな。しかし、それで……ふむ」
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