第37話



 家に入ろうとすると、今度はフーラがやってきた。


「ソータさん、おはよう。昨日の約束通り来たわよ」


 続いての来客に驚き、それがフーラであることに更に驚く。



「えっ? 何よ、その顔……もしかして、私が来るってこと忘れてたりしないわよね?」


 蒼太は内心では忘れたことに焦りを覚えていたが、表情を取り戻し冷静な顔になる。


「覚えていたに決まってるだろ。来客が続いたんで少し驚いただけだ」


 幸い距離が離れていたため、額に浮かぶ冷汗はばれていないようだった。



「ふーん、まあいいけど。とりあえず、防犯に関してだっけ? それの話を聞かせて頂戴」


「わかった、家の鍵は変えてないから出かける前に渡しておくよ。それで防犯っていうのは門のほうになる、門に行こう」


 蒼太は冷静さを取り戻すと、フーラを門へと誘導する。



「この鍵を使うと、門に鍵がかかる」


 門の外側に来るとポケットから鍵を取り出しすとフーラにはわからないように魔力を通し、施錠範囲を門とそれを囲う石壁に設定する。



「ん、どういうこと? 門には鍵がついてないけど……」


「いいから、門の前に鍵を出して鍵をかけるイメージで回してみろよ」


 蒼太に鍵を手渡されたフーラは納得のいかない顔のまま、言われた通りにする。



 ガチャッと音をたてて、門に鍵がかかる。



「えっ? な、なんで? 鍵穴もないのに!」


 フーラは驚いて、一歩後ろに飛び退くと鍵と門と蒼太の顔を順番に見比べる。


 その様子がおかしく、蒼太は笑いをこぼす。



「驚かせたか? それはマジックアイテムでな、施錠の魔法が込められている。対象はこの門を中心とした敷地一周だ」


「し、敷地一周? 門に鍵をかけるだけじゃないの?」


 フーラは蒼太の発言に更に驚き、心なしか髪の毛のボリュームがアップしているようにもみえた。



「あぁ、まあそういうものだと思ってくれ。鍵をかければ、壁を登って入るのも難しくなるはずだ」


「よくわかんないけど、あなたすごいわね。こんなの持ってるなんて……」


 フーラは驚き過ぎたため、その驚きを通り越して、感心していた。


「この鍵を使って入れば問題なく入れるが、強引に入ろうとすると魔力の壁に阻まれる。十分な防犯だろ、まあ大したものは置いてないんだけどな。じゃあ、もう一度開けてくれるか?」



 フーラは鍵を開け、それを蒼太に返す。


「防犯のことはとりあえずわかったわ、それ以外のことは昨日の契約通りでいいかしら? 変更したいとかあったら一応聞くわよ」


「……いや、大丈夫だ。昨日の契約書も即席で作ったにしてはしっかりしてたし、問題はないよ」


 少し考えるが、首を振る。



「そう、私のほうもあれで大丈夫よ。あとは……すぐに出発するわけじゃないのよね? 鍵はどうしようかしら」


「昼前に出発する予定だから、その前に店に届けにいくよ」


「わかったわ。その時間なら店にいるはずだから、待ってるわね」


 フーラは蒼太に背を向けると、鍵を回すような動きをしながら帰っていく。



 フーラを見送っていると、更に来客がある。


 彼女は屋敷を出て左に向かったが、その来客は右から来た。


「おはようございますソータさん」


 やって来たのはミルファだった。



「ミルファか……来客の多い日だな。アイリから旅に出るって話を聞いて来たのか」


「はい、ソータさんがいらっしゃった後、アイリから私とギルドマスターに報告がありました。エルフの国に行くと聞きましたが……」


 ミルファは厳しい表情になる。カレナと同様自分の故郷に思うところがある様子だった。



「あぁ、先に言っておくが入国が難しいとか、人族嫌いが多いとかそういう話ならカレナから既に聞いているからな」


 首を横に振り、苦笑いをする。


「いえ、忠告をしても意味ないでしょうからしません。今日来たのはギルドマスターから預かってきた紹介状をお渡ししに来たんです」


 バースと同じように一通の封筒を差し出してくる。


「あの国にも冒険者ギルドはあるので、これで少しは話が通りやすくなるかと思われます」



「助かるよ、多い分には困らないからな」


 蒼太は受け取るとズボンの後ろポケットにしまう。


「多い? 他にも紹介状があるんですか?」


「エルバスと、今もらったグラン、これからもらいにいくカレナで三通目だな。それぞれが別の立場での紹介状だから、どれか一つでもうまくひっかかればいいんだが」


「いつの間にカレナさんと知り合いに……なんか、ソータさんって普通の人が年月をかけて進む道を数日で駆け抜けていくんですね」


 ミルファは少し呆れ混じりに言う。



「そうか? 何が普通なのかわからんが……まあ人それぞれだろ。遅いやつもいるが、早いやつもいるさ」


「はぁ、ソータさんが言うとなんかこう説得力が……ふふっ、まあそういうところがソータさんらしいのかもしれないですね。細かいことは気にしないのかと思えば、律儀にギルドに旅立つ報告に来たり」


 蒼太は首を傾げる。


「あら、報告って義務じゃないのか? 昔、そう聞いた気がするんだけど……思い違いだったかな?」


 以前の旅で仲間から聞いたことを思い出した為、蒼太は報告に行っていた。



「うーん、昔はそういったこともあったと聞いたことがありますが、今では任意になっていますね」


「そうだったのか、じゃあ別に行かなくてもよかったんだな」


「それでも報告してもらうと、当ギルドを拠点としている冒険者を把握出来るので助かります」


 頭を掻く蒼太に、ミルファは笑顔になる。



「……なんにせよ、しばらく街を空けるから一応グランにもよろしく言っておいてくれ。紹介状の礼もな」


「わかりました。それでは、失礼します」


「あー、あと……ミルファもわざわざ届けてくれてありがとうな」


 一礼し帰ろうとするミルファに蒼太は礼を言う。


「えっ、いえ……どういたしましてです」


 ミルファは一瞬驚くが、笑顔になり再度一礼してその場を後にする。



 蒼太はミルファの姿が見えなくなると家へ中へ入り、風呂で汗を流す。


 エドは寝床へ戻り、蒼太が出てくるまでのつかの間の眠りにつく。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る