第22話



「あぁ、大丈夫だ。それと馬車があるんだが、馬小屋とかはあるか?」


「それなら、裏手にあるので案内しますね」


 返事を待たずに、ミリは蒼太の手をひき外へと出る。



「わぁ! これがソータさんの馬車ですか? すごく大きいお馬さんですね!!」


 ミリがエドワルドをなでようとする。蒼太と一緒に出てきたこと、敵対心が全くないことから抵抗をせず、されるがままにおとなしくしていた。


 それに気づいた蒼太もエドワルドをなでる。



「さて、案内をしてもらっていいか?」


「あ、はいごめんなさい。こっちです」


 案内している途中であったことを思い出し、宿の横より裏手に回る。



「あっちの奥に馬車置き場があるので、一旦そっちへおいてもらっていいですか? 今、鍵を開けますね」


 ポケットから鍵を取り出すと馬車庫の扉をあける。そこには既に数台の馬車が置かれていた。


「そこの馬車の隣においてください。置いたら、お馬さんはそっちの馬房のほうに移動お願いします」


 ミリの指示通りの場所へ馬車を移動させ、馬車をエドワルドから取り外す。



 エドワルドを、そちらも既に数頭が入っている馬房へと連れて行き空いてる場所へと入ってもらう。


「お預かりする間、お馬さん一頭につき一日あたり銀貨一枚頂いてます。エサのほうは一般的なものになりますが、特に指定がない限り三食提供しています」


「今日の朝と昼はもう済ませたから、今日の晩から頼む。料金は受付のほうで払えばいいか?」


「晩からですね、わかりました。お金はお母さんに渡してください」



「それじゃ、エドワルド。俺は宿のほうにいくから、騒いだりするなよ」


 心外だとブルルと鼻をならす。


「大丈夫そうだな、それじゃまた明日な」


 これには素直に頷く。


「エド君っていうんですか……すごいですね、なんかソータさんとエド君、ちゃんと会話してるみたい」



 エドワルドは名前を略されたことを気に入ったようで、そばにいたミリに顔を寄せる。


「あは、なんか喜んでくれたのかな? エド君、わたしはミリだよ。よろしくね!」


 ミリはエドの頭をなでながら言う。


「打ち解けたみたいでなによりだ、用事があるから俺は先にいくよ」


「あ、はい。私は他の馬の様子を見てから戻るのでどうぞ」



 蒼太は表に回り、受付へと向かうとミルファーナが迎え入れる。


「ソータさん、お帰りなさい。馬車は預けられましたか?」


「あぁ、宿泊と同じで二日頼む。銀貨2枚だったか?」


 蒼太は確認しながら銀貨を取り出す。


「……確かにお預かりしました。延長されるようでしたら明後日の朝までに言ってもらえれば大丈夫です」


「それじゃ、俺は出てくるから馬車のほうはよろしくな」


「はい、お気をつけて」


 ミルファーナはお辞儀をし、笑顔で蒼太を送り出す。



 宿を出るとその足で錬金術師の店へと向かう。


 店では体力回復ポーション、魔力回復ポーションを代表とする様々な薬が置かれている。


 通りから見える薬は日差しによる劣化を防ぐため、そのほとんどが中身は水に変えたイミテーションを飾って雰囲気作りをしていた。


 蒼太が中に入ると扉についたベルが鳴る。



「いらっしゃいませ、御入用のものがあれば承ります」


 そう言ったのは、カウンターの向こうに座っている店員で、ピンク色の髪をした少女で小さいが尖った耳をしている。


「いや、商品が欲しいわけじゃなく設備を貸してもらいたくて来たんだ。ちょっと作りたいものがあってな」


「えっ? うーん……お婆ちゃんに聞いてみますね。ちなみに何を作るんですか?」


 小首を傾げて質問をする。



「それは……貸してもらえるなら、その婆さんに話すよ。とりあえず聞いてみてくれ」


「……わかりました、少々お待ち下さい」


 納得していない顔だが、彼女はそのまま店の奥へと入っていく。



 日が当たらない位置においてある商品を見ながら蒼太が待っていると、しばらくして奥から一人の女性が出てくる。


 ブロンドの髪を後ろで一つ縛りにし、服装はローブを着ており、その顔立ちは10人が10人美人と答えると思えるくらいに整っていた。


「お前さんかい? 設備を使いたいっていうのは」


「そうだが……あんたは誰だ?」


 女性の後ろから、先ほどの店員が姿を見せる。


「さっき言ったお婆ちゃんです」



 お婆ちゃんという言葉から、老婆を想像していた蒼太は面を食らう。


「お、お婆ちゃん? 俺には若い女性に見えるんだが……そうかその耳、エルフか」


 耳を見れば一目瞭然だったが、言葉と想像と現実の齟齬に戸惑ってしまったため、気づくのに時間がかかってしまった。



「私が、この子の祖母のカレナリエンだよ。カレナと呼んでおくれ」


「私はエルミアです。よろしくお願いします」


 エルフは長命で、その見た目も成人してからは成長速度は著しく落ち、極ゆるやかに年老いていくためカレナのような見た目となる。



「俺はソータ、冒険者だ。エルミアには言ったが、作りたいものがあるから錬金術の設備を使わせてもらいたい」


「話によっては貸さないこともないよ、ただのポーションを作りたいとかってのならお断りだけどね」


 蒼太は言っていいものかと逡巡する。


「……誰にも言わないと約束してもらえるか? 広まっても面倒だからな」


「安心おし、私は口は固いほうさ。もちろんこの子もね」


 元々エルフ族は約束を守り、秘密を漏らさないという種族性を持っているため、蒼太はその言葉を信じることにする。


 以前会ったエルフたちも総じて、そう言った義理堅さを持っていた。



「わけあって、石熱病の特効薬を作りたいんだ」


 聞いた二人は驚いた表情をし、店内は静まり返る。店の外の喧騒が聞こえてくる。


「……驚いたね、石熱病の特効薬ってことは竜の素材を使うんだよ? 失礼かもしれないが、あんたそんなもの持っているようには見えないよ」


 エルミアも何度も頷く。


「まあ、人は見かけによらないってことさ。とりあえず材料は揃ってる……はずだ。作り方もわかる……と思う」


 カレナは呆れ顔になる。


「なんだい、頼りないねえ……わかったよ、設備も貸すし、知恵も貸そうじゃないの」


「いいのか?」



 カレナは胸を張り、どんとその胸を叩く。その胸はエルフにあるまじき大きさで揺れも大きかった。


「任せな、石熱病ってことは領主のとこのエリナ嬢のためなんだろ? 私も治って欲しいからね、もちろんタダで貸してやるよ、ついてきな」


 頼もしい言葉を言い放ち、奥へと入っていくカレナの後を置いていかれまいとついていく。



 入ると、そこには広い部屋があり、様々な器具が設置されていた。

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