第21話
古龍と別れると、蒼太はエドワルドを置いてきた森へと向かう。
エドワルドが休んでいるはずの水場まで距離はあったが、蒼太は気配を感じることができ安堵する。
水場が視認できる距離になると、休んでいたエドワルドも蒼太の気配を感じ顔を挙げ、蒼太の顔を確認すると喜んで駆け寄ってくる。
蒼太はエドワルドの頭をなで、エドワルドは蒼太の顔に自分の顔をすり寄せる。
「変わったことはなかったか?」
エドワルドは鼻を鳴らしながら頷く。
「そろそろ腹が減ったろ、とりあえずこれを食ってくれ」
亜空庫から、ラディとオレンジに似たタンジの実を取り出して順番にエドワルドの口に運ぶ。
エドワルドはよほど空腹だったのか、その二つをあっという間に平らげてしまう。
蒼太が山に向かったのが早朝、そして帰ってきた頃には日が高く昇り、昼を過ぎていた。
早朝に食べてから、今まで水以外口にしていなかったのでそれも当然だといえた。
森には魔物も少数いるがなにより動物が多いため、落ち着いて食事を摂れないと考えた蒼太はエドワルドを連れて、森から出た開けた場所へと移動する。
ここまでの道程では木の側で休憩するようにしてたため木陰で食事できたが、今回は森から少し離れた木のない場所を選んだ。
蒼太は亜空庫から、屋根だけの簡易的なテントを取り出しその下で休憩をとることにする。
蒼太も食事をしていなかったため、用意した食事を勢いよく食べる。
エドワルドの前に用意された食事も既になくなっていた。
追加の食事を亜空庫から取り出すと、それもすぐに食べきってしまう。
食事を終えた蒼太は満腹のお腹を左手でさすりながら、隣に横たわるエドワルドを右手でなでながら、風景を眺め休憩する。
蒼太になでられているエドワルドは、目を細め気持ちよさそうな顔をしていた。
しばらくして、お腹が落ち着いてくると立ち上がり、テントを片付け始める。
「エドワルド、そろそろ行くぞ」
エドワルドも立ち上がり、了解とばかりにヒヒーンと声をあげる。
亜空庫から馬車の本体部分を取り出すとエドワルドは自ら装着しやすい位置へと移動する。
装着が終わると蒼太は御者台にのり手綱を持つ。
「さて、街に戻ろうか」
ヒヒーンと一度いななき、出発する。
山へと向かう時はゆったりとした速度で、風景を眺めエドワルドと会話をしながらのんびりした旅をしていたが、帰りは薬を作る時間のことも考え急ぐことにした。
古龍が使っていたものと同種の風の障壁を張り、自身やエドワルドへの風圧による負担を減らす。強い風が吹いているわけではないが長時間の移動では身体への負担の軽減が図れた。
更に移動速度を上げるため、エドワルドに身体強化の魔法を付与する。
山へと向かった際には3日かかった道程を、帰りは1日半で街まで戻ることとなった。
出発の際は何も言わなかった衛兵だが、街への入場の際には身分証の確認を求められる。
「身分を証明できるものを持っていますか? 持っていなければ……っと持ってるようですね」
衛兵の言葉が終わる前に鞄からギルドカードを取り出すと、蒼太は御者台に乗ったまま、隣にきた衛兵にそれを見せる。
「これでいいか?」
「ギルドカードですね……はい、確認しました。Dランクですか、頑張ってください!」
衛兵になってそんなに経っていないだろうと思われる青年は、フレッシュさを持つハキハキとした話し方で蒼太に応援の言葉をかける。
『上を目指して』頑張ってくださいという意味だろうと受け取った蒼太は内心、上を目指す気はないんだけどなあ……などと思いつつ、曖昧な返事を返す。
「ん、あぁ。それより通ってもいいのか?」
「あ、もう一つ。この水晶に触れてもらえますか?」
最初に街に入った時と同じであろう水晶を差し出される。
御者台に乗ったままでは触れづらいため、一度降りて水晶に触れる。
前回と同様、一瞬光り、それもすぐに収まり水晶は透明な状態に戻る。
「うん、大丈夫ですね。どうぞ通ってください」
そう言うと少し離れた位置で敬礼をする。
「あぁ、お勤めご苦労さん」
そう言うと御者台に戻り街の中へと進む。
当初の予定では、肝をとってギルドで渡して依頼完了。そして家をもらおうと考えていたが、薬を作る手間を考えるとそうはいかないため一度宿屋へと向かうことにする。
宿は食事が美味いため、前回と同じ宿を選ぶ。
前に来た時は適当に選んだため、宿の名前を確認しなかったが、改めて名前を確認すると『雛鳥のやすらぎ亭』と書いてあった。
宿の前に馬車を停め御者台から降りると、一度エドワルドの頭をなでてから宿の中へと入る。
宿に入ると、前回と同様ミリが迎えてくれる。
「あ、ソータさんだ。おかえりなさーい!」
蒼太を確認すると、すぐに駆け寄ってくる。その嬉しさがわかるほどに尻尾は左右に揺れている。
「ミリか、ただいま……と言って良いのか? もう部屋の期限は過ぎたと思うが」
その返答にミリはふくれっつらになる。
「もう、いいんですよー! そこは素直にただいまって言ってください」
「ふぅ、わかったよ。ただいま」
やれやれといった表情でそう返す。
「はい、お帰りなさい」
ミリはそんなおざなりな返事でも満足したのか笑顔になる。
「あら、ソータさんお帰りなさい。部屋のほうは誰も使わずに空いてますよ」
二人の声に気づき、ミルファーナが蒼太に声をかける。
「そうか、だったらとりあえず二晩頼みたい」
「はい、かしこまりました。うふ、ミリも喜んでいるみたいですね」
二人を見ながら笑顔で言うミルファーナにミリは顔を赤くして慌てる。
「べ、別にそんなじゃないよ。宿をあとにした人が無事に帰ってきたから少し嬉しかっただけだよ!!」
「はいはい、わかりました。それよりソータさんの鍵を取りにいってもらえるかしら? あと、あんまり大きな声を出さないでね」
声を出させたのは誰よ、とぶつぶつと言いながらも鍵を取りにいく。
その間に蒼太は料金をミルファーナへと払う。
「はい、ソータさん。お母さんが言ったとおり同じ部屋の鍵です。場所は大丈夫ですか?」
鍵を受け取ると蒼太は頷く。
「あぁ、大丈夫だ。それと馬車があるんだが、馬小屋とかはあるか?」
「それなら、裏手にあるので案内しますね」
返事を待たずに、ミリは蒼太の手をひき外へと出る。
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