第17話



 馬車での移動中、蒼太の頬は緩んでいた。



 森からトゥーラへ来た時のように自分で走ったほうが早いが、それでは期間が短すぎるため、追及したくなる要素を増やしてしまう。またこの道は冒険者が使う道でもあり、見られる可能性もある。



 そして、何より表情に出ているように、蒼太はこの馬車の旅を楽しんでいた。


 千年前、蒼太にとっては三年前の旅の際も馬車を使っての移動が多かったため、それを思い出させる今は、楽しくあった。



「楽しいな、エドワルド」


 蒼太は握った手綱の先にいる旅の相棒に声をかける。


「ヒヒーン」


 楽しいなと返事を返すように声を返す。


 蒼太が名づけた馬の名前『エドワルド』。これは千年前の旅で蒼太達の馬車をひいていた馬と同じ名前だった。



 街から伸びる街道はガタガタとしていて、決して快適とは言えず。


 移動中に見える景色も左右に広がる草原、山へと続く道、ところどころに生えている大きな木とかわり映えはしなかった。


 それでも旅をしている、冒険をしている、というその感覚は地球では味わえなかったもので、それだけでも蒼太の気持ちを満たしてくれていた。



 山へと向かう途中数度モンスターに襲われることがあったが、現れるモンスターのランクは低く蒼太の威圧で逃げ出す程度のものしか現れなかった。



 夜暗くなってくると街道を外れ、亜空庫から出したテントで休む。テントは聖域のテントという名前のマジックアイテムで中は広い空間が広がっており、その中にはエドワルドも入れるほどだった。


 蒼太は宿で作ってもらった食事を、エドワルドには空き時間に買っておいたラディなどの野菜や果物を、と通常の冒険者の旅では食べられないようなものだった。


 温度調節の魔道具をとりだし、それをテント内に設置することで過ごしやすい室温にし、より快適な空間を作り出す。



 また、テントの外側の四つ角には結界石が設置されており、低いランクのモンスターは近寄ることが出来ない。


 これにより、夜間の見張りなどをたてる必要がなく、精神的な疲労を負うことなく安眠することが出来た。



 蒼太の食事はゴルドンに作ってもらったものを順番に食べている。


 基本的に朝はサンドイッチを食べながら馬車で移動、昼は木陰などで休憩をしつつ魚か肉をチョイス。夜は昼に選ばなかったほうを食べる。夜になると聖域のテントで休憩する。


 そうやって移動し、3日目の夕方には死の山のふもとにたどりつくところだったが、その晩は山の危険度を考え少し手前で眠ることにした。



 翌早朝


 馬車の本体部分を亜空庫にしまうと、休憩場所から少し北にいったところにある小さな森へと向かう。そこには水場があり、動物の休憩所にもなっていたためそこへエドワルドを放すことにする。


 連れて山を登るわけにはいかず、かといって街道沿いにいては他の冒険者に出くわす可能性が高いための判断だった。


「悪いな、ここらへんで待っててくれ。もしここから離れても、お前の気配は覚えたからそれを頼りに探しにいくから安心しろ」


「ブルルッ」


 エドワルドは鼻を鳴らし頷くと、顔を蒼太にすりよせる。しばらくそうしていると満足し、顔を離す。


「じゃあ、あとでな」


「ブルルッ」


 エドワルドは同じように鼻を鳴らし頷くと、蒼太に背を向け水場へと向かう。それを確認し、蒼太も背を向け山へと向かう。




 山の入り口へと辿り着くと、腰の武器を鉄の剣から十六夜に持ち変える。


 その他の装備として、鉄の胸当てをミスリルプレートに変更し、更にサラマンダーの皮を使ったマントを装備する。


 サラマンダーは竜種ではなくトカゲ種で空は飛べないが、地を這う竜とも呼ばれ火を吹きその皮は耐熱性に富んでいる。



「……さて、登るか」


 山道として整備されていたこともあるため、荒れてはいるものの道は登りやすかった。


 蒼太が雑貨を買いながら集めた情報では、この山は以前は薬草などの有用な素材が多くとれ、モンスターのランクも今よりも低かったため冒険者が依頼を受け来ることが多かったと。


 しかし、いつからかドラゴンを筆頭に高ランクのモンスターが住み始めたため、整備はされず徐々に荒れていったとのことだった。



「この山はランクの高い敵が多いらしいから、いい金策になりそうだな……早速きたか」


 気配を感じそれに向かって進むと、そこは少し開けた場所になっておりBランク指定モンスターのロックリザードがいた。



 ロックリザードは名前の通り、表皮を見た目が岩のような頑強な鱗で覆っているトカゲで、その咬力も強く岩をも砕くほどだと言われている。


 生半可な攻撃ではダメージを与えることが出来ず、生半可な防御ではその攻撃を防ぐことは出来ない。



 そのロックリザードが三体。



 一匹が蒼太を見つけると、素早い動きで近寄り、口を大きく開き蒼太へと襲い掛かってくる。


 その口には鋭い牙があり、表皮同様装備の素材として使われることがある。


 その一撃を蒼太は難なく避ける。避けた先に次の一匹の攻撃が、さらにそれを避けた先には次の、と三匹は連携した攻撃を繰り広げてくる。


 普通なら絶体絶命と言われるこの状況で、蒼太はギルドの三兄弟を思い出していた。



 最初に二匹が攻撃をし、最も鋭い動きの三匹目が止めを刺す。それを狙った動きがガル・ゲル・ゴルと戦った時のそれと似てるなと思っていた。


 しかし、あの時とは違い手加減をする必要がないため蒼太は遠慮せずに斬りつける。



 このロックリザードたちはこれまでにも冒険者と戦ったことがある。その時は冒険者の攻撃で自らが傷つくことはなく、中にはそのまま武器が折れた冒険者もいた。


 その冒険者はロックリザードにあっさりと命を奪われている。



 それゆえに、蒼太の一撃を避けることなくそのまま噛み付こうとする。



 しかし、それは叶わずその胴体は一刀両断にされる。それを見た他の二匹は驚いた顔になるが、それも一瞬のうちで次の瞬間にはそれぞれが真っ二つになっていた。


 その身体は亜空庫の召喚後フォルダへと格納されていく。


 蒼太は避け切れなかった返り血を清潔の魔法で綺麗にすると、再び山を登り始める。

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