第11話



「それではいくぞ……はじめ!!」


 グランの掛け声と共に両者が駆け出す。そうミルファとグランは予想していたが、双方ともにその場で足を止めている。



 三兄弟の末弟、ゴルが魔法の詠唱を始め他の二人はそれが終わるのを待っている。


 蒼太はただその場で立ち、あくびをしながら相手の動きを待っている。



 詠唱が終わると場は動き出す。


「ファイアボール!」


 ゴウッ!


 ゴルが炎魔法を放つとそれを追いかけるようにガル、ゲルの二人が走り出す。更に遅れてゴルも走り出す。


「ほう」


 最初の詠唱の隙を除いて、三人が力任せに来ずに連携しているのを見て蒼太は感心する。


 兄弟だけありその連携は息があっており、モンスター討伐でもそれを活かし上位のランクのモンスターを倒すこともあった。


 魔法を放ち、それで倒せれば終了。倒せなくとも眼くらましになり、死角からのガルとゲルの攻撃、更にダメ押しに時間差でゴルの攻撃。


 魔法だけで倒せると油断はせずダメ押しまで考えた一連の流れ、彼らはこれで連携とこの油断をしない慎重さでこれまでやってきた。


 今回もうまく行く、そう考えていたが今回は相手が悪かった。



「ふん」


 蒼太は飛んできたファイアボールを素手で上空へ弾き飛ばすと、ガルの片手剣を右手で、ゲルの片手斧を左手で掴むとそのまま握り指がめり込み刀身が割れていく。


「あらら、やわい武器使ってるんだな」


「なっ!」


「なんだと!!」


 自分の武器が破壊されたことに唖然とした隙に武器をとりあげ後ろに投げ、拳を二人の腹にめり込ませる。


「「ぐふぇ」」


 弾き飛ばしたファイアボールには自分の魔力を繋げてあり、上空から急降下させ後ろから走ってきたゴルへとぶつける。


『魔力操作スキルを覚えた』


 直撃すると思われたファイアボールを、ゴルは自分の魔法で相殺すると両手に持った短剣を投擲する。


「ほう」


 蒼太は感心したつぶやきを口にしながら、それを掴み投げ返す。


 ゴルはそれを予想しており、最小限の動きで短剣を避けると腰から抜いた片手剣で斬りかかる。


 それも蒼太には通用せず、兄たちと同様武器を握りつぶされ同様の結末を迎えると思われたが、ゴルの行動はその次を想定していた。


 武器が潰されようとするや否や武器から手を離し、懐から更にナイフを取り出し右手で胴を、左手でのど元を突く。


 兄たちの不甲斐なさゆえ、ここまでゴルがやると思っていなかったため蒼太は意表をつかれる形となった。



 カキーン



 そのナイフは蒼太の手に握られたゴルの壊れた片手剣によってはじかれる。


 ゴルははじかれたと判断するとすぐに距離をとる。


「お前、なかなかやるなあ。人の報酬狙うとかくだらないことするから、かませ犬かと思ってたが一流といってもいいくらいだ」


「それはどうも」


 そう返事を返すが、表情は真剣に蒼太の挙動を窺っている。


 魔法は素手ではじかれ、短剣は既に投擲済み、片手剣は破壊され奪われ、ナイフも防がれてしまった。


 これ以上は手はないか、そう思い蒼太はゴルにとどめを刺そうするがゴルのあがきはまだ続く。



「これなら、どうだ」


 煙球を投げ蒼太の視界を塞ぎ、そこへまだ懐に忍ばせてあった最後のナイフを投げる。更にそこへ詠唱破棄した魔法を放つ。


「アイスアロー!!」


 蒼太は奪った片手剣を両手で回転させ風を生み、煙を霧散させると同時にナイフも防ぐ。


 しかし、アイスアローを防ぎきれずダメージを負うというほどではないが両手を片手剣ごと凍らされてしまう。



「「いまだ、くらえーーー!!!」」


 次の瞬間、倒したと思っていたガルとゲルが立ち上がり、それぞれが開始時に構えていた武器とは異なる武器により蒼太へと斬りかかる。


 二人は冒険時に武器を失う危険性を熟知しており、メインの武器と比べランクは下がるものの予備の武器を持っていた。


 蒼太は両手に炎の魔力を込め、氷を破壊すると新たな武器となった二人の攻撃を最初と同様に素手で受け止める。


 しかし、最初の時と違っていたのはそれぞれの武器が破壊されなかったことだ。


 握りつぶそうとした蒼太はそれが出来なかったことで、一瞬の隙を作ってしまう。



 そこへゴルがとどめと言わんばかりに魔法を放つ。


「ファイアストーム!!!」


 蒼太に着弾する前にガルとゲルは距離をとり巻き込まれないようにする。


 ファイアストームは中級魔法に位置し、着弾点を中心に炎の竜巻を作る。本物の竜巻に比べれば規模は小さいが、炎属性を持つことで強力な範囲攻撃になっている。



「やったか?」


 ガルが口にしたのは、ここが日本であったなら「馬鹿、フラグを建てるな!」と言われるであろう発言だった。



「おかしい……」


 魔法を放った当の本人、ゴルはあせりを覚えた。本来であれば既に魔法の効果は消え、炎は消失しているはずだった。


 しかし、炎は消えるどころか勢いを増している。


 額には汗がにじむ。



「お前らすげーな、まさかここまでの実力だとは思ってなかったよ。舐めずにもっと力を出してればよかったよ」


 その声が三人の耳に入った瞬間。竜巻の中心から炎の塊……蒼太が飛び出し三人を殴りつけ舞台の場外へとふっとばした。



 三人は別々の方向へ飛ばされ、壁にぶつかるとそのまま気絶した。


 こうして「決闘」の決着はついた。



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