真実に向かって③〜夢の世界〜

 目が覚めると横になっていた。泣きつかれて眠っていたようだ。

 ふと思い出して飛び上がり,あたりを見渡す。


「アトラスは? どこに行ったの?」


 おそ! っと一同は声をそろえた。ジャンが腹を抱えて笑っている。


「俺たちが昔懐かしい話をしている間にどっかへ行ったよ。さすがに分が悪いもんな」

「それじゃあこれからどうするの?」

「大丈夫。じいちゃんがマーキングしているから,アトラスのもとへはいつでもいける。ただ、時間があるわけじゃあないけどな」


 休めたか? とジャンは微笑みかける。この笑顔も見れなくなると思うと心もとないが,覚悟は決まった。じいちゃんのように,ジャンのように,自分も腹をくくらないといけない。いつか来る日に,思い切って剣を振れるように覚悟をしなければならない。正しい世界を取り戻す。ジャンとそう誓い合って故郷を出てきたのだから。





「とうとう来たのね」


 だだっ広い何もない空間にやってきた。。そこにあるのは,地上と空気だけだった。空は宇宙空間を思わせるように暗いが,星はなかった。特別な空間であることは感じられるが,時間もわかなかければ時間も見当がつかない。ただわかるのは,ここが知らないどこかというだけだ。


「ずいぶんと真剣な顔が並んでいるわね。ここですべてを決着をつけようという気迫が感じられるわ」


 誰一人口を開かず,ただアトラスを睨みつけていた。人数では圧倒的に有利だが,安心しきれない不安定な空間だった。


「いいでしょう。でも忘れていない? ここが私が作り出した空間だということ。最後にあなたたちに夢を見させてあげるわ。特別な夢よ。そこにいたければそこにいなさい。幸せをあなたたちに与えてあげる」


 そういうと,ペンダントを首から外して高々と掲げた。それを見てジャンが飛びついたが,間に合わなかった。宇宙のような空間が目を開けていられないほどの光に包まれた。次に目を覚ました時,それぞれが夢の世界に入り込んでいた。


 目を開けると,ベッドにいた。窓枠の傷,そこから見える景色。間違いなくここは自分の育った家だった。「ご飯だぞ」と太くたくましい声が一回から聞こえてきた。誰だろう? と訝しみながら食卓へと向かった。

 テーブルには五つの食器が置かれていた。キッチンには母さん,リビングにはじいちゃんとジャンと,どこかで見たことのあるような大人がそこになじんでくつろいでいる。誰だったかな? と考えていると,「父さん,ご飯食べたら剣術を教えてよ」と言った。その大人は,ジャンの頭を小突きながら返事を返している。そうだ,この人は父さんだ。何を忘れていたんだろう。頭がおかしくなっていたようだ。



 戻ってこい,と頭の中でこだました。ずきずきとこめかみが痛む。この不快な現象が一定間隔で訪れ,不快な気分になる。


「大丈夫か?」


 権を振る手を止めて,ジャンと父さんが寄ってくる。頭を押さえていた手を下ろして,二人を見上げた。


「大丈夫だよ。最近,急に頭が締め付けられたように痛むことがあって・・・・・・」


 ジャンと父さんは心配そうに顔を覗き込む。頭は怖いからな,と優しくなでつけながら父さんは頭のてっぺんから後頭部にかけてほぐすように手を動かした。大きくて暖かい手。その手のひらは剣をしっかり振り込んだことを象徴するようにごつごつとしていた。いつも触れているのに,まるで初めて触れたみたいに心が落ち着かない。何かが自分を不安定にさせている。これはなんだろう。

 考えを巡らせていると,「頭と臓器は目に見えないからな。細心の注意を払わないと,大事になりかねない」と遠くを見る目で倒産が言ったとき,頭の中で残酷な光景がフラッシュバックした。その光景は恐怖心を駆り立てた。

 ある晴れた日,太陽が南の空を高く昇っている。目の前には少年時代のジャンの後ろ姿と,今と変わらない父さんの背中がある。その向こう側には,よく見えないけど青い髪の。どこかで見たことがある。今すぐ去れ,とドスの利いた迫力のある声で言った。


「帰るよ。ほしいものが手に入ったらな」

「欲しいもの? 特にめぼしいものはここにはない。何を求めている?」

「欲しいのは・・・・・・お前の命だ」


 家族には手を出すな! そういって剣を握り,間合いを詰めた。その時,「そう殺気立つなよ。ガキが目をつぶって怯えているぞ」と嘲笑するように言った。

 父さんは青い髪の男から目をそらさず「ソラ大丈夫だ。家に入っていなさい」と強い口調で言った。くくくっとこらえるように青い髪の男が笑い、手に持っていた剣を前方に放り投げた。その剣は確実に,自分の近くに迫ってきていた。

 このままでも当たらない。そう見切ってその場を動かなかった。きっと,その目測は誤っていなかった。ただ,動かない自分のことを気がかりに思ったのだろう。父さんはとっさに振り返り,片腕で抱え込んで非難させてくれた。


「ばかが。怯えているのはそっちのガキじゃねえよ」


 なに,と父さんが身をひるがえした時にはもう手遅れだった。ジャンは青い髪の男に襟をつかまれて持ち上げられていた。

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