第27話 - 野外活動5 -

アナウンスと共に、開始ブザーが鳴る。

C組術士のメンバーは結界の構築に入った。


「がっちがちねえ」


「他にどうしろってんだよ。お前一人で旗取ってきてくれるか?」


「いいけど?」


「は?」


 返事を聞かずにその場を去った。リーダーの指示なしで行動すれば減点だろう。

取り消しされる前に行動する。どうせここに居てもカズハは守備タイプではない。


「あ、おい! ……はぁ、みんな、あいつのことは無視してくれ」


広場から適当に林の中へ入ったところで木に飛び乗る。


――この85点が無ければ、こんなことしてないのだけどね。

 さすがに初っ端からビハインドすぎる。


成績加味の少ない組とはいえ、旗を奪えばそれなりの評価になるはずだ。

多少のリスクは承知の上だ。ふとオーブを見ると86に戻っていた。

おふざけは減点の対象とはならなかったようだ。

かなり綿密に行動が計算されるのだろう。


 まずはどの組も斥候を送り出すはず。相手の旗や陣形の確認だ。

おそらくA組対B組の直接対決になる。


 あれだけガチガチに固めた上に、教員まで参加しているC組みの旗を狙うのは効率的でないはずだ。先に見えたのはAの旗だった。4人で旗を守備している。かなり攻撃的な陣形だ。斥候を入れても10名が攻めだ。


――Bを確認に行くまでもない。ここを狙う。


 C組を見に行った連中がが攻めれないと分かればおそらく引き返してくる。

今が一番手薄なはずだ。問答無用で飛び出した。


「な! あなたは、シラユキさん!?」


 数名クラスの知った者も居たが関係ない。全速力で旗を奪いに特攻する。


 ガキッ


 しかし結界に阻まれ、旗に近寄れない。

術士を攻撃してスキを作るしかなさそうだ。

瞬間、カズハの背中側から水弾が襲った。ギリギリで気づいて避ける。


「単騎で特攻とはな。貴様ならありえそうだ。Cはそういう作戦か」


「……お早いお帰りね、クリス君」


 おそらくC組を見に行って、攻略不能と見て、すぐ引き返したのだろう。

クリスは転移が出来る。自陣をマーキングしていたため、直帰できたのだ。


 すでにクリスを倒した上で、さらに術士を弱らせ、

結界を突破するという行程になった。多勢に無勢、正直不可能に近い。

林の茂みに向かい後退する。クリスの追撃はなかった。再び木に飛び乗る。


――望みは薄いけど、Bの確認に行く。


「あらあら、ちょっと待ってくれない?」


 !


 どこからか、声が聞こえた。こんな林の中に居るのは斥候しかいない。

互いに普通は斥候同士、気づいてもスルーするのだが、なぜか話しかけてくる。

よほど有利とみたのだろうか。


――二美子かしら? こんなところに居るのなんて。


 違った。黒髪の長い女性が数メートル前方の木の上にいた。

気のせいか、その目が赤く光って見える。


「お久しぶり。礼拝授業以来かしらねえ、お話しするのは初めてね。うふふ」


 礼拝以来。たしか闇の神サー・ナイアに礼拝していた際、

実戦科の女子と2人だった。その者だろうか。


「私は実戦科、紫川琴音(しかわことね)よろしくね」


 160cm程度、ミステリアスな雰囲気でどこか妖艶な女子だ。

漆黒の羽織を着ている。なおこの実習からはジャージから着替え、

普段使用するの甲冑やローブなどの装備の使用が許可されている。

カズハはめんどくさいのでジャージのままだ。


「……カズハ=シラユキよ。どの組なの?」


「うふふ」


瞬間、サラサラと琴音の姿が黒い霧のように崩れ去っていく。


「あなたの血を吸わせてくれたら、AB答えるわ」


 !


 カズハの立つ木の真横に現れ、笑っていた。真っ赤な目、

そして明らかに長い歯が2本、見えている。


「吸血鬼!」


 飛びのきがてら、瞬時に手裏剣を具現させ、琴音に投げる。

しかし漆黒の羽織を広げるとその中に吸い込まれていってしまう。


――どういう仕組みかさっぱり分からない!


バババババ!


 琴音の目の前に数十本のナイフが発現する。

手をかざすとカズハに向かって飛んで来た。

すかさず木の裏に回り込む。ドドドと木にナイフがヒットする音が聞こえる。

仕切り直そうとすると、目の前に琴音の顔があった。


――はやい!


「いただきまーす」


 ガブッ


カズハの左肩にガブリついた。が、


 ボンッ


その肩が丸太に変わる。カズハは下に降り林から広場に出ていた。


「んもう、丸太なんかかじっちゃったじゃない」


「なんのつもり? そう易々とやらせないわよ?」


 琴音も木から降りてくる。中間地点のため周囲には誰も居ない。

日なたに出る際にフリルのついた黒い日傘をさす。


――日光は苦手のようね。そういえば集合のときも毎度一人だけ日傘を指していた。


 サー・ナイアの信仰は2人だけ。波長の合う相手の血を、

手っ取り早く吸いたいなどと語りだした。今は相手への攻撃がゆるされる時間帯。

狙っていたという。


 しかし点数稼ぎをしたいカズハにこの琴音の相手をしていてもメリットがない。

かといって背を向けてB組を見に行けば、追われまた攻撃を受けかねない。


「やっぱり、――――の血は、簡単にはいただけないわねえ」


なんと言ったのか。声が小さくよく聞こえなかった。



ビーッ! ピーッ!



 !


 ブザーが鳴る。終了の合図だ。


「あらあら、もうおしまい? 残念。どの組が勝ったのかしら?

 別にどうでもいいけど。 クスクス」


嘲笑う琴音を一瞥し、警戒しながらその場を後にした。

C組の旗の元へ戻る。どうやら取られたわけではなさそうだ。


「ダメだったわ。狙ってはみたものの妨害にあった」


「そりゃそうだろ。というかノーダメージで戻ってきたことに驚きだわ」


 旗はイヴがリーダーを務めるB組が、A組から奪取したようだ。

カズハが離れてから攻防があったのだろう。

クラークやレミの活躍が目覚ましかったのだという。

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