2「実は再会」
大きな湖の畔で、緑髪の女性が、革製の大きな水筒に水を汲んでいた。
「これで良し」
汲み終わると、彼女の側の空間が歪み、彼女は、そこに水筒を突っ込むと
歪みは消える。
そして彼女は、この場を立ち去ろうとするが、湖から何かが飛び出し、
彼女に襲い掛かった
「!」
彼女は剣を抜き、切り捨てた。地面に倒れたそれは、人型はしていたが全身は、
緑色で鱗に覆われ、手に当たる部分には鉤爪と水かき、足の部分にも
水かき、顔は、魚の様になっていて、口にはピラニアの如く鋭利な歯が付いている。
その姿、まさしく半魚人
「サハディプスか」
それは、基本的に水中を生息域とする陸地でも活動できる人型魔獣。
ただ一か所には定住せず、川、湖などを転々としている。
雑食で、時折、獲物を求め、陸地に上がってくる。
あと厄介な習性としては、集団行動すると言う事。
たとえ自分が餌にありつけなくてもだ。
「!」
そして水の中から、次々と飛び出てきて、計40体ほどで、
あっという間に彼女は囲まれた。彼女は、剣を構えた。
一方、達也は、車を走らせていたわけだが
(なんだろう、急がないといけないような気がする)
理由は定かではないが、焦燥感の様なものに駆られ、
自然と車のスピードを上げていた。その頃、ボックスホームの物置にある
ハード型のペンダントのピンク色の宝石が異様な輝きを放っていた。
遠目であるが湖が見えてきた。
「あれは……」
湖畔で起きている出来事に気づいた彼は、アクセルを強く踏んだ。
一方、その湖畔では
「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァ……」
女性は、鎧は纏っていたが軽装であったため完全に守り切れてはおらず
身体は傷だらけで、息が上がっていた。
彼女の周辺にはサハディプスが10体ほど、切り殺されていたが
まだまだ、敵の数は多く、残り30体以上、多勢に無勢で、
彼女は不利な状況であった。
(普段なら、こんな奴ら敵じゃないのに……)
右腕についている薔薇を、恨めしそうに一瞥する。
どんどんと襲い掛かってくる敵、怪我をしつつも、それを押して
どうにか倒し続ける彼女も限界に近づいていた。
(もう、だめ……)
その時、何かの音が、こっちに近づいてくることに気づいた。
(この音は、カーマキシ)
そして、音に気付き、その方を向くサハディプス達、
女性の方は、チャンスではあったが不意を突くことも、逃げる事も出来ず
同じ様に、音の方を見た。
(あのカーマキシは!)
見覚えのあるものが、こっちに向かってきていた。
達也は、この後どうするか、一瞬のうちに考えをまとめた。
このまま、真っすぐ突っ込むのも良いが、それでは、女性を巻き込む気がするので
人生初の、ドリフトで、右側をサハディプス達に向けるように突っ込みつつも
ギリギリの位置で止まろうとした。
なお右側なのは車が右ハンドルで、運転席から素早く飛び出し、
行動を起こせるようである。
途中、素早くシートベルトを外しつつ、予定通りギリギリの位置で止まり、
同時に素早く外に、飛び出し、予定外であるが、勢い余って、
サハディプスの一匹に蹴りを食らわせた。
「クキャアアアアアアアアアアアア!」
と声を上げ、吹き飛ぶサハディプス。
突然の出来事、唖然としているのかサハディプスの動きが止まっていた。
達也は、素早く「分析」を使う。
(サハディプス……弱点は雷、なら!)
彼は左手を開き、上に真っすぐと伸ばすと言った仕草をする
(紫電の型!)
次の瞬間、彼の体を火花が走った。そして
「セイッ!」
と言う掛け声と共に、近くサハディプスに右手で殴り、
「ヤアッ!」
と言う掛け声で、両脇にいた奴らを、両手を使い殴る。
殴られた魔獣は、吹っ飛び、痙攣しつつも、動かなくなる。
そして両脇の奴らは吹き飛ばされて、其々別のサハディプスにぶつかるが
ソイツらも、痙攣して倒れ動かなくなった。
煌月流の「真の奥義」の一つ、「紫電の型」、全身に自らの生命エネルギーを
電気に変え、その身に纏う。電気ショックで相手を気絶させることを目的とするが
力を高めれば、感電死させることも可能。
更に、その電気は、くらった相手の体に、一定時間、帯電するので
受けた相手を触った者も感電する。
今の達也は、その拳も蹴りも、むき出しの高圧電線に等しい。
そしてサハディプスの弱点は雷、ようは電気である。
動かなくなった連中は感電死したのだ。
5匹倒されたことで、サハディプス達の、殺意は、完全に達也に向いた。
達也もそれを感じ、ニヤリと笑った。達也は移動はじめた。
サハディプス達も追ってくる。
そして彼は、サハディプスを自分にとって有利な場所に引き寄せた。
と言っても、場所的には何も変わらない。
(ここなら、あの人を巻き添えにすることは無い)
ただ、女性の安全を確保しつつも、思いっきり戦える場所だと言う事。
「クシャァァァァァァァァ!」
と声を上げ、最初に襲い掛かって来た敵を
「セイッ!」
拳の一撃で倒す。だが敵は次々と襲い掛かってくる。
「ヤアッ!トリャ!エイッ!タアッ!ウォリャ!」
掛け声と共に、手際よく放たれる拳、蹴り、相手の攻撃を避けつつの裏拳
再び拳、そして回し蹴り。「疾風の型」を使っている時よりは遅いが
それでも、常人よりも早く、相手は避けられず
掛け声一つに付き、一匹から数匹、倒されていき、築かれていく屍の山。
彼の繰り出す攻撃は、綺麗に繋がっているように見え、
それはさながら格闘ゲームのコンボの様でもあった。
「テァ!」
掛け声と共に放たれた回し蹴りで、吹き飛ばされるサハディプス。
これが、最後の一匹にして、車から降りてきた達也が
蹴りを食らわせた個体である。
最初の時は、「紫電の型」を使ってなかったので死ななかったが
今ので止めを刺された。
「フゥ……」
と深呼吸と共に「紫電の型」を解除する。
そして、達也は女性の元に近づき
「大丈夫ですか?」
と聞くと、女性は、返事をしようとしたが、緊張が途切れたのか
倒れ、意識を失った。
「ここは?」
女性は気づくとベッドの上で横になっていた。
「ここは、一応僕の家です。気が付いたんですね」
傍らには達也がいた。彼女は起き上がろうとしながら
「貴方は……イテテ……」
腹部に、痛みが走った。
「まだ起きちゃだめですよ。傷が塞がりかけなんですから」
女性は、体のあちこちに包帯や絆創膏が張られている事に気づく、
なお、彼女に限らず女性にとって絶対に男性に見られたくない場所には
何もされていない、なおその部分は怪我をしていない。
「貴方が手当てしてくれたの?」
「はい、放ってはおけませんでしたから」
彼女は
「ありがとう。助けてくれた上、手当てまでしてくれて」
と言った後、
「私は、レナ・リリクス、冒険者よ、貴方は……」
「僕は、煌月達也」
「コウヅキ・タツヤ……」
レナは考え込むような仕草をして
「コウヅキとタツヤ、どっちが名前?」
「達也の方ですけど」
すると今度は、悩むような仕草をしつつも
「あと違ってたら、悪いんだけど……」
と前置きをしつつ
「貴方、男よね?」
達也は驚いた顔で
「よくわかりましたね。僕これまで、初対面の相手に男って言われたこと無くて」
「そうなんだ……何となくなんだけどね……」
実際の理由は、彼女にとって言いづらい事である。
そして、レナは
(まさか、再会できるなんてね。まあ気づいてないでしょうけど)
と思いながらも、彼を初めて見た時から、気になっていた事を聞いた。
「貴方は、イセカイ人なの?」
「えっ!」
「ひょっとしてニッポンから来たの?」
達也は、こんな事を言われるとは思わなかったのか、かなり面食らった顔で
「どうして分かったんです?」
と言いつつ
「別に隠すつもりは無かったんですが」
と付け加えた。
レナは
「イセカイ人、この世界では異界人って言うんだけど
昔から、この世界に来ているの、特にニッポンって国からね
私の祖父の友人にも、異界人がいてね。貴方が同じ様な気がして
顔は東の民族に似てるし、あと服装も……」
すると達也は、分かっていたのか、特に驚くことは無く
「やっぱり、僕の格好おかしいですか?」
「おかしくって訳じゃなくて、上のシャツは、この世界でも珍しくないけど、
ただズボンがね。それジーンズって言うんでしょ」
ジーンズは、ファンタテーラにおいて異世界の服として、有名ではあるが
あまり一般的ではなく、穿いていたら異界人だと言われるほど。
「祖父の友人も、よくジーンズを履いてたみたいだし……」
「その人は、今どこに?」
同じ自分と同じ世界の人間の話が出たからか、興味津々となる達也
「残念だけど、その人はもう亡くなったわ」
「そうなんですか……」
とすこし残念そうにする達也。
「その人の、奥さんは、まだ生きていて、仕事で会いに行く途中だったの」
「ひょっとして、その人も」
「あの人は、この世界の住人で、偉大な魔法使い」
ここからは、自虐的に、
「本当なら、今頃、到着しているはずなんだけど」
と言いつつ、右腕を花に目をやる。
「その花、何なんですか。明らかに体から生えてますよね。
『分析』でも分からないんですけど」
「貴方、『分析』が使えるの?」
「僕じゃなくて、カオスセイバーから借りてると言うか」
「カオスセイバー?」
「僕が乗って来た車です。最弱の魔機神らしいんですけど」
その事を聞いたレナは
(あのカーマキシの事か、でもカーマキシが弱いのは普通の事だし
何をもって最弱なのかしら)
と言う疑問を抱いた。
ここで達也が話を戻した。
「それより、その花は一体?」
「これは、パラロズっていう寄生型魔獣よ。あっ、魔獣ってのは……」
「それは知ってます」
「そう……」
と言った後、レナはパラロズの説明を始める
「こいつは、人や動物、魔獣に寄生するんだけど、動物の時は
花が咲く程度、人間の時は、個人差があるみたいで、
軽くて花が咲く程度、人によったら寝込んだりするけど、
私の場合はスキルの殆どが使えなくなるわ、力は抜けるわ、
回復魔法は、効果は無い上、ポーションの効果はおかしくなるし
悪いことずくし」
ここで達也が、
「そう言えば、傷を消毒している時に、急に傷が塞がりだしたんですけど、
あれも何か関係が」
「多分、ポーションの効果が遅れて出たのね」
なお、傷は完全には塞がらなかったので、包帯等の処置を行ったとの事。
「こいつが寄生してなきゃ、アイツらなんか楽勝だったんだけど」
強がりではなく事実である。普段の彼女なら、
あれくらい敵ではない。
「でも、それどうするんです?」
「専用の薬を使ったら一発で取れるんだけど、」
ここから恥ずかしそうに
「常備してるんだけど、今日に限って、忘れてきちゃって、」
なお薬を使わず無理に引っこ抜くと、根が残って、また生えてくる。
そして余談として、
「パラロズが、魔獣に寄生した時は、シャレにならないのよね
魔獣は、より凶暴になるし、パラロズ自体も蔦を伸ばして、血を吸いだすの
特にドラゴンにとりついた時は、もう最悪」
と言う事を、恐ろしさを強調するように身振り手振りを加えて話した。
この後は、今後の話になった。
「目的地までどれくらいかかるんですか」
「ここが、どこか分からないから、どうとも言えないけど
あの湖からは、十日くらいかな」
達也が驚いたように
「十日も!」
声を上げ
「でもレナさんは、荷物は?」
「私、収納スキル持ってるから、ここに荷物を入れてるの」
レナは、スキルを発動させる、すると側の空間が歪み
そこに手を入れ、水筒を取り出し、またすぐに戻す。
この歪みが、スキルによって生成された彼女専用の収納空間
そして、このスキルは、パラロズが寄生していても機能する。
「だから、長旅でも問題ないわ」
とレナが言うと、達也が
「あの、良かったら僕が車で送りましょうか?」
すると彼女は遠慮がちに、
「助けてもらった上に、送ってもらっちゃ、流石にわるいわ」
「良いんですよ。こっちに来たばかりで予定もないですし、
それに、偉大な魔法使いって人も気になりますし」
達也の興味津々そうな様子に、レナは微笑ましさを感じ、
笑みを浮かべると
「貴方も、そう言うのに興味あるのね」
この世界の、異界人が言うところのファンタジー的な要素に引かれる異界人は多い。
「分かった貴方の好意に甘えるわ。それに貴方を連れて言ったら、
あの人も喜ぶと思うわ。なんせ、好奇心旺盛だから」
そんな訳で、今日はこのまま休み、
翌日には、ポーションの効果が更に出てきたおかげで、傷も治り出発となるのだが、
その際にレナは達也の家と言うのが、あの車の中であったことを知り、
驚くのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます