第1話「旅は道連れ世は情け」
1「食糧確保」
達也と会った緑色のドラゴンは森の上空を飛んでいたが、
突如、森から、小さな棘の様なものがと飛びだし
ドラゴンの右腕に刺さった。ただその巨体に比べ遥かに小さいので
刺さった内に入らないように思われる。
「!」
痛みは、感じないが、異変は感じていた。
ドラゴンは、飛ぶのをやめ、森に着地した。
更なる異変が起きた。ドラゴンの体はみるみる小さくなっていき
林の中に消えたと思うと直ぐに、空間の一部が歪みだし
そして、林の中から人の手が出てきて、そのまま
歪みの中に突っ込み、そこから服や鎧、剣を引っ張り出した。
その後、歪みは消え、林の中から緑色でストレートのロングヘヤーで
簡単な鎧を身に纏い、剣を装備した20代位の女性が姿を見せた。
凛とした顔立ちの美人で、そして右手にはバラの様な花が付いていた。
達也の異世界生活は、二日目となっていた。
基本的に林道を車で移動である。この車は普通の車ではないので
舗装されてない道なのに、揺れをあまり感じず、快適な乗り心地であった。
ただ車で移動している所為か、異世界と言う感じはしなかった。
昼食以外は、一日中車を走らせ、夕方になって、
邪魔にならないように林道の脇に車を止め、今日はここで一晩を明かすことにした。
さて本日の夕食は、ステーキ。ただ肉は見た目的には牛肉に似ていたが
牛でも、豚でも、鶏でもない。
この世界由来の、彼にとって初めて調理する肉であった。
「これで良いのかな?」
初めて焼く肉なので、味付けの調味料が、これで良いのか分からなかったが
取り合えず、塩と胡椒を使った。食糧庫には食用油もあったので
それを、フライパンに引き、牛肉を焼く要領で、料理した。
「良し、これくらいかな」
丁度いい感じに、焼けた気がしたので、IHコンロを止めて、
フライパンから皿に移し替え、食糧庫に会った野菜を付け合わせとした
食事をテーブルの上に乗せ、
「いただきます」
ナイフとフォークで、切り分け、口に運んだ。
「おいしい……」
味付けは、正解であったようだ。あと肉は、見た目は牛肉の様であったが
味や食感は鶏肉に近かった
付け合わせの野菜を含め、すべてを平らげると
「しかし、ワイバーンの肉って言うのも美味しいんだね」
達也が食べたのは、初日に彼が倒したワイバーンの肉であった。
サバイバル経験がある彼は、獣を狩った時は、たとえ食料の確保を
目的とせずとも、食えそうなものは、食うと言う事を決めていた。
しかしながら、ワイバーンは巨大だったので、手に入れたのは一部の肉で
残りは、翌朝、ドラゴンの食事となった。
そして、彼が手に入れた肉は、食糧庫に保管し、
更にその一部を、今回食した。
食事のかたづけを終えた達也は、ポケットからキーホルダーを取り出す
「マップ表示」
すると、宙に地図が浮かび上がった。
実は、このキーホルダーが、手紙で触れられていた
達也の世界に送られたリモコン、カオスセイバーの外部制御装置であった。
(あのお姉さんが、『落とし主は絶対に、現れない』って言ってたから
これが異世界から来たって事に気づいていたのかな)
あの女子高生が、気づいていたかは、兎も角、車に乗った時に
頭に流れ込んできた情報によれば、キーホルダーがリモコンである事
そして、警察から引き取った日にキーホルダーと「契約」したと言う事
身に覚えがあるとすれば、あの胸の痛みくらいしかないが。
この「契約」を持って、彼は、カオスセイバーの所有者となった
つまり、この世界に来る前からすべては決まっていたのだ。
このキーホルダーには、遠隔で、この車を操作する機能がある。
車から離れている時だけではなく、ボックスホームにいる状態で、
車を動かしたり、車の機能を利用する時にも使用する
さて地図を確認した彼は、今後の事を考えた。
「町までは、まだまだ距離があるし、」
達也は、取り合えず街を目指していた。
しかし町までは、車でも2、3日かかりそうな距離で、
その上ずっと森なので、寄り道できそうなところは無かったが
ふと、途中にある大小の二つ湖が気になった。
「そうだ、水を汲んどかないと、あと食糧も……」
ちなみに、水も食糧も十分な余裕はあるが、念のためである。
手に入れる事が出来るうちに手に入れておく、
今後何が起こるか分からないし、特にここは異世界なのだから。
翌朝、いつも通り鍛錬を済ませ、朝食を食べ終わると
物置に行き、
「確か、この辺に釣り竿が……」
以前、物置を見た時に、武器に混ざって釣り竿が置いてあるのを見ていた。
「あった……」
釣り竿に手を伸ばした時、何かが腕に当たった
「!」
胸に、何かが刺さったような感じ、
「あの時と同じだ……」
以前、キーホルダーのランプに触れた時と同じ、
当時と同じくそれは直ぐに収まる。
「いったい何が?」
腕に、当たったのは、壁に掛けてあるハード型のペンダントの様なものだ
真ん中にピンク色の宝石が付いているが、それがぼんやり光っている。
「何だろこれ」
達也は、手に取ってじっくり見てみた。
何となくただならぬものは感じるが
それが、何なのか分からなかった。
「まあいいか」
ペンダントを元の場所に戻し、釣り竿を手にした。
この釣り竿は、なんてことの無いごくごく普通の釣り竿で
側には、リールや釣り針など一通り釣り具がそろっていた。
当然、それらも手にし、更にリュックサックも持ちだした
ちなみにこのリュックサックは、狩人の背嚢と呼ばれるマジックアイテムで
ワイバーンを倒した時、その肉を手に入れようと、
物置から刃物や、返り血を防ぐために、ローブを持ち出す際に、
偶然、これに触れたのであるが、
その瞬間、頭に、これが何であるかの情報が流れ込んできた。
狩人の背嚢は「収納」と言うスキルを持っているので、
リュックの大きさ以上に物を入れることが出来る上、
それらが食糧なら新鮮な状態で保つ。但し、ここまでなら
同様の機能を持つものが、他にも存在するが
この狩人の背嚢にはもう一つ、狩猟で得た肉の下処理
肉なら血抜き、魚なら、泥抜きをやってくれる。
なお、ワイバーンの肉は、このリュックに入れて運び、
夜も遅かったのでリュックサックごと食糧庫に一旦置いた後、
翌日、肉を取り出し、リュックは、本来置いてあった物置に戻していた。
ちなみに、洗う必要はない
さて必要な道具を見つけた達也は、それを転移で先に車に送る。
車には、後部座席はないが、代わりに荷物を置けるだけのスペースはある
そこに、道具一式が出現した。こうする事で到着後、直ぐ釣りができる。
次に、達也自身が運転席に転移し、出発。
その際に、地図を表示させ、二つの湖をよく見えるように拡大
「どっちに、行こうかな……」
この時、達也の頭に、ふと舌切り雀の話が浮かんで、
「小さい方に行こう」
小さい湖を目指した。
その後は、途中に何かに遭遇することなく、無事に湖に到着した。
しかし、それと共に達也の顏も険しくなった。強い殺意を感じたからだ
車から降り、周りを確認すると、胸の前で、左手を上、右手を下に、
重ね合わせる様なポーズをとる
(疾風の型……)
湖は、水こそキレイであったが、周囲は骨だらけ、
動物や中には人間の骨らしきものもあり、異様な雰囲気を醸し出していた
明らかに、何かあるとしか思えない。そして不気味なくらい静かである。
達也は、後に知るのだが、ここは、骨の湖と言われ、
近づいたら最後、生きて帰れたものは殆ど居ないと言う。
そして水辺に近づく達也、すると魚の群れの様な影が、
達也の方へ向かい集まってくる。そして彼が岸に近づいた正にその時
水中から、何かが飛び出し、達也の方に突っ込んでいた。
「ハイッ!」
と言う掛け声と共に、目にもとまらぬ速さで手刀を繰り出し、それを叩き落した。
地面に落ちで、動かなくなったのは鮭の様な魚だった
大きさは鮭よりも小さいが、トビウオの様な羽を持ち
ピラニアの様な歯を持っていた。
この時、達也は知らないが、これは、キラフィシと呼ばれる
魚型の肉食魔獣である。
基本的に水の中で生き、羽を持ち一定時間、空を飛び事が出来る。
その性格は極めて凶暴。
(こいつらは、僕の敵だ!)
達也はキラフィシが、名前も含め、何かは知らなかったが、
彼には、敵である事、それが複数いる事が分かっていた。
キラフィシの特性は、一匹で奇襲をし、怯んだところ、
大勢で、襲い掛かる。ただ奇襲の成否は問わないようで一匹目が地面落ちると、
直ぐに、大勢のキラフィシが湖から飛び出し達也に襲い掛かる。
だが達也には、その動きは止まって見えていて、
「ハイッ!ハイッ!ハイッ!ハイッ!ハイッ!ハイッ!ハイッ!ハイッ!……」
掛け声一回につき、一匹から複数匹、目にもとまらぬ速さの手刀や蹴りで
叩き落していく。
ボトボトと言う音が立ち、落ちたキラフィシは動かなくなる
「ハイッ!」
最後の一匹を叩き落した。そして彼の周りには、大量にキラフィシが落ちており
さながら、魚の雨が降ったかのようだった。
「ふぅ……」
と深呼吸をする達也。
「疾風の型」、煌月流の「真の奥義」の一つ、
自らの俊敏性を極限まで上げる。その状況下で繰り出される攻撃は
まさしく、疾風の如く。そして今回、達也がこれを使ったのは
湖の静けさから、ふと不意打ちの事を考えてしまったからである。
「さてと、念のため……」
カオスセイバーには、一部のスキルを、所有者に貸すと言う機能が付いている。
その機能で、借りた「分析」と言うスキルを使った。
ちなみに、「分析」はワイバーンの死骸にも使っている。
その際に、ワイバーンやキラフィシの様なモンスターを
この世界では魔獣と呼ばれることを知った。
今回も、キラフィシの名前を含めた情報を手に入れたが
彼にとって重要なのは、食用に適しているかどうかであり
「よし、大丈夫」
彼自身は、食べられそうな気がしたが、一応、念には念を入れたのである。
そして、キラフィシは、実はまだ死んでおらず、気絶しているだけなので
すべて活け締めにした後、
「大漁、大漁」
と言いながらリュックに詰めていき、それが詰め終わると
釣り具一式が目に入り
(結局、釣り竿は使わなかったな)
と思いつつ、周りを見渡し
(改めて見てみると、あちこち骸骨だらけで、不気味だなぁ)
食糧も確保したので、さっさとこの場を離れる事にした。
ただ、出ていく前に、ふと何の気なしに水辺に近づき水面を見た。
そこには、キラフィシの生き残りがいて、気持ちよさそうに泳いでいた。
しかし、襲ってくる気配はない。達也は、穏やかな表情を浮かべた後
荷物を持って、転移で一旦ボックスホームに移動し、捕まえたキラフィシは
食糧庫に、そして釣り道具等は、物置にしまって
今度は運転席に転移し、シートベルトを締めて、車を発進させた。
そしてしばらく走ったところで
「あっ!」
と声を上げた。水を汲むのを忘れていたのだ。
(今更、戻るのは面倒だなぁ。)
ふと思い立って、地図を表示させて
(大きいほうの湖に行くか)
と次の行き先を決めた。
この事が、彼の今後を、決める事になる再会に繋がるのであった。
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