*秋*秋の気配と色づく木々の頃のこと
◇第31話◇むかしばなし。
もう、むかしの話だ。
” 親友 ” が 一人、いた。
◆
わたしは人当たりこそいいけど、なかなか心の奥底を見せるというのが苦手だ。
ものすごく臆病モノで怖がりだから。
でも、そのめったにない心の奥底を見せる時には、その人に、どこまでも信頼を寄せる。
その子とは学生時代からの友達で、わたしのことも、ずっと見てきてくれていた。
だから彼女が、ある悲しすぎる不幸に遭って心身を病むことになってしまった時も当然ながら、ずっと側にいて支え続けてきた。
キレイゴトのようだが、上手くいえないけれども、それはわたしが、そうせずにはいられなかったことで。
無理してとか、そういうのではなくて、したくてしたこと。
例えば、どんな彼女でも、わたしとは相反することがあったとしても、どんなケンカをしたとしても、手を離す事は無いっていう、そんな思いだった。
でも今思えば、わたしのどこかに、そういいつつ、驕りがあったような気もする。
ワタシハ アンナトキデスラ
ウケイレテササエテ テヲハナサナカッタ
そんな愚かな自惚れ。自己満足。
彼女の友人だった人達(それは共通の友人が多かったけど)は暫くは連絡してきたようだけど、一年もすると、いつのまにか離れてしまっていたから尚更に自分だけは……と思ったのかもしれない。
◆
彼女が立ち直り、落ち着いて数年が過ぎた頃、暫くして今度は、わたしの事情で彼女と疎遠になる日々が続いた。
正確に言うと彼女から電話は貰っていたし、会いたいねとも言われていたけど、なかなか実現できずに誘いを断ることが続いていた。
その頃ちょうど、わたしの方にも色々なことがあって疲れていたのと、別の問題で余裕が無かったのもある。わたしは基本的に悩みを相談するというのが苦手(上手く説明できない)なので、そうなると他人と話すことも疲れてしまう。
現状を伝えるのが下手だし、ある程度、自分自身で整理ができるまでは特に……。
その時もそうだった。
そしてそれでも、まだ彼女はそんなわたしを理解して許してくれるものと甘えていたんだ。
わたしの基準で考えていた。
彼女も、それで大丈夫だと勝手に思い込んでいた。
◆
それは突然やってきた。
ある日あること(金銭貸し借りのことでないことだけは明記しておく)
で、わたしは彼女にSOSの電話をした。
勿論、不義理は詫びた上で相談をした。
彼女の声は電話に出たはじめから氷のように冷たかった。
要約すると彼女が言ったことは
「今更、あれだけ疎遠にしていて相談を持ちかけられても困るだけ。
今、相談を持ちかけるなら、どうしてそれまでに事情を話してくれなかったのか。
考えにもまったく共感できないし、不愉快。もう友達とは思っていないし、電話もして欲しくない」
これだけ聞くと彼女が情け知らずのように聞こえるかもしれないけれども、わたしは打ちのめされつつも反論ができなかった。
考えれば、もっともなことだと思えた。
こちらが相手にしてきたことは自分がしたいからしてきたこと。
それを計りにかけて、わたしも同じようにしても大丈夫だと勝手に決め付けていた。
彼女とわたしは当然ながら別個の人間だ。
彼女は優しいけれども潔癖なところのある人だったから、尚更だったろう。
まして、わたしの身勝手さ、傲慢さがそこに無かったといえるか?
わたしは彼女に「ごめんね」と言った。
嫌な思いをさせてしまっていたこと。
それに気づかなかったこと。
こんな絶縁宣言を長年の友人に言わせてしまったこと。
もう二度と連絡をとることはしないつもりだけど、
でも「本当に今までありがとう」と
それだけは伝えたかったから、そう言った。
「ありがとう……」の最後の ”う” までも聞いて貰えずに
電話は、切れた。
それきり。
◆
有り難い事に今、わたしには心を許して心を開いて話せる友人達がいてくれている。
数少なくとも、わたしには充分過ぎるほどの、わたしというニンゲンを知ってくれた上で手を離さずにいてくれている猛者?たち(笑)
それでもあれからも沢山の同じような失敗や出来事も経てきた。
その度に、この最初の古傷(トラウマ)を思い出して、苦いものが込み上げてくる。
◆
あれから少し、わたしの考え方は変わった。
そうでなければココロがもたなかったせいもある。大変に利己的な理由だ。
心を開こうと決めた人には開いて見せる。
それを見て退かれたら、それはそれで仕方ない。
わたしはこんな調子で、いっぱいいっぱいになると機能停止になりがちだし、一人時間がないと息苦しくも感じてしまう方なので。
そして、自分はこんなニンゲンなので、できることなど限られているが、その中でできることがあるなら少しでも力になりたい、そう思ってる。
でも、それを ”してあげたこと” にしてはいけない。
相手の為にしたくて一生懸命かけた時間は自分の為のもの。
去っていく権利は相手にある。当然のことだけど。
勿論、誤解があれば説明はするべきだと思ってるし、するけれども、それでもダメならそれは仕方ないことだ。
それを肝に命じること。
失望されるのには、正直いつまで経っても慣れないが(苦笑)それも仕方ないこと。
わたしは、こんな欠点だらけの人間なのだから。
◆
ほんの時たまだけれども、そうして去っていった元友人だった人たちの、その後が風の便りで耳に入ってくることがある。
幸せというものの定義は人それぞれだろうけど、それが穏やかなものであるとホッとする。
これもわたしの自己満足でしかないのかもしれないけれど。
哀しいことや泣き顔は、もう、見たくない。
笑って
泣いたり怒ったりしながらでも、
笑って生きていってくれていたらいいな、と、そう思う。
そう、願ってる。
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*この頃のこと*
この親友とのことは、もうこの日記の時点で昔、若い頃の話ですね。
それでもずっと忘れることはないと思うし、色々なことを考えるキッカケになりました。
自分がこんなにしてあげたのだから相手も同じようにしてくれるはずという身勝手な理屈。
自分がしたくてしたはずの事が、いつの間にか見返りを求める気持ちになっていたこと。
甘ったれの頬を打たれた気がしました。
あれきりにはなりましたが、彼女には今でも感謝しています。
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