第76話 何度読んだって、誤字はある!

 みかん(人間)から、A4の紙に印刷された話を皆で回し読みをする。何度読んでみても、角戸が言った情報以上のものは見つからない。


「『物語終了課の天敵』と裏で言われるわけだわ」


 小牧はみかん(果物)の皮をむいて、一房を口に入れる。

 角戸 完の作品は未完が多いうえに、終了させにくく暴走しやすい。物語終了課全体の認識であった。


「はっはっはっは! 天敵とは俺も偉くなったもの、だぼおっ!」

 小牧にみかん(果物)を入れられ、苦しそうに角戸は喉を押さえる。

「もう、もうみかんは食べれないのでご勘弁を……」


「みかんは未完に繋がるのだから、たっぷり食べるのが作家としての務めよ」


 みかん(人間)が続けてみかん(果物)を角戸の口につっこむ。角戸はごぼごぼと咳のような声を出した。



 ****



 みかん(人間)は次の作家のところへ行くと、たっぷりみかん(果物)を抱えて出ていった。未完に通じるみかんは作家にとっていいものだと。


「さて、どうしましょうか。終わらせる糸口が見つかりませんが」


 遠藤はとんとんと原稿を綺麗に合わせる。小牧は頬杖をつきながら、ボールペンをカチカチとさせていた。


「まったくよ」


「係長ならどうするでしょうね。係長なら何とかしそうですが」


「係長なら……」

 小牧はハッと頬杖をつくのをやめる。 

「係長は『すべての物語は霊の所為にしたら終わる』って言ってたわ」


 言ってない。


「そうよ。霊の所為にすればいい」


 小牧は遠藤から原稿を取り、パラパラとめくっていく。


「ごいごぼぼぼぼ」

 

 角戸はみかん(果物)を食べるのに必死だ。あごが外れないようみかんを動かしている。


「ですが、霊は書いてないと」


 遠藤はそう言うが、小牧は原稿をめくっていく。あるところで止まり、ニヤッと笑った。


「あった」


「え?」

「ごぼ?」


 小牧が指差した文章を、二人がのぞき込む。

 そこには悪の結社の総統のセリフで『前進全霊でいく』と書かれていた。本当は『全身全霊』と書きたかったのだろう。


「誤字……ですね」

 遠藤がふむとメガネを押し上げる。


「誤字でしょうが何でしょうが、霊は霊! 悪の結社は霊に憑かれていたと解釈してしまえばいいのよ! すべての霊たちよ、前に進め!」

 早速とばかりに、小牧は原稿の続きにペンを走らせる。


「ごぼっ! 物語終了課という奴らは、いつもいつもそうやって理不尽に物語を終わらせる!」

「遠藤先輩! 角戸を押さえて」

「了解!」


 遠藤は腕を伸ばして角戸を押さえ、小牧の邪魔をさせまいとする。


「おいこらあぁぁぁ!! 次は誤字なく書いてやるからなぁぁ」


 当然の努めである。


「小牧さん。霊の所為にするのもいいですが、除霊もするのですよ」


「あ! どうしよう」


 現実世界で物語の続きを書いても反映される。本来ならば、物語世界の中に入っている人の代わりに終わらせたり、危機を回避したりするため使われる。


 だが、確実に状況は悪化した。

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