第42話 愛は人を救うことだってある3
車は都道と通話してから結構な距離を動いたように感じる。途中で固い音が聞こえたので、携帯は捨てられたのだろう。
目と口を塞がれた状態で、わかるのは聞こえてくるものだけだ。
聞こえてくるものから現在地を推測するのは諦めた。
本当は何も考えない方がいい。わかっているものの、最悪のことを考える。
本間は同じ姿勢で痛む体をずらした。毛布か何かが被せられている。後部座席等の窓は黒かったので単に用心のためだろう。
どこを走っているのかわからないが、暴れたところで後ろの車に気づいてもらえない。
都道は同僚や上司に報告しただろうか。
都道の性格からいって、言わないのではないか。まだ、警察全体が動いた方が助かる見込みはある気がするが。
都道が報告せずとも、自分の職場が異変に気付くはずだ。
今まで遅刻したことのない係長がいつまでたっても出勤しない。まず、本人に電話するものの、電話に出ない。次に姉に連絡がいく。姉は自分が家を出たことを伝える。
ではどこかで事故か事件に巻き込まれた可能性がある、と警察に連絡してくれるはずだ。
****
文科省地方文化局の物語終了課。
課長が遅くに出勤し、ファイルがピサの斜塔のごとく微妙にバランスをとって積まれている係長の机の上と空の椅子を見た。
「あれ、本間係長は?」
「それが何の連絡もなく、出勤しておりません」
係長の隣の席の小牧が答える。
「珍しいね。彼、一度も遅刻したこともないのに」
課長は自分の机の上に鞄を置いて、席についた。
「そうですよね。何かあったなら連絡の一つありそうですけど」
不思議そうに小牧は首をかしげた。
「彼が一報もよこさないというのが、変だね。どこかで事故とか遭ったのかも」
「そんな」
「冗談だよ」
課長はいつもの笑みを浮かべる。
「連日の出張やらで疲れが溜まったのだろう。寝かせてやろうよ。年休もたっぷり残っていることだからね」
「課長、お優しいですね」
小牧は、係長が課長によって忙しい目に遭っていることなど知らなかったので、無邪気ににっこりとした。
生憎にも、本間の職場の人達は警察に連絡することはなかったのだった。
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