6不安

「帰ったぞ~!」


夕方になってリアムが帰ってきた。


「お帰りなさい」


そう応えた私は、リアムと何だか家族みたいな感じ?ちょっと頬が潤み、同居人の無事な帰宅にホッとしていた。

私は占い部屋から玄関にかけて、掃き掃除をしていた。まだまだ、日は高く、暖かい。掃除をしながら往来を眺める。プリンセスかぐやに会いたいと大行列ができて混乱していた通りの様相は全くなく、いつも通り家路を急いだり、店じまい近くになって、安売りを始める店員の声等、賑やかな市場の声が遠くに聞こえたりしている。駆け足で数人の子どもが走っていく姿も見られた。こんなに平和そうに見えるのになぁ・・。


「おい!」


リアムが台所から呼ぶ声が聞こえた。


「は~い!」


「おまえ、昼飯でアホほど食べたのか?どう考えても2人目は食ってるだろ・・」


「あ・・それは・・」


「いくらランチを食ってもいいといってもほどがあるだろに・・お前の胃袋は宇宙だな・・」


あきれ返った表情のリアムは私をしげしげとみていた・・。


「リアムの料理は本当に美味しくて・・卵1個スープに入れて、頂きました」


「ふ~む・・それはよし」


「で、厚切りでパンを2枚と、手作りバターも・・」


「いやいや・・それだけではないだろう・・その倍量はなくなってる。ネズミが食ったとか、わけのわからないごまかしをするんじゃないだろうな」


 最初リアムは怒っているのかと思ったが、そうでもなさそうで、私の話を聞きながら、もう、夕食の準備にさっさと取り掛かっていた。手はいつものような鮮やかな動きで、優しく手早く食材を処理していた。その手つきがあまりにも素敵すぎてしばらく見とれていた。


「おい!聞いているのか?」


「は、はい。実は、ネズミではなく、子どもが一人・・」


一瞬リアムはその手を止めて、驚いたような顔で私の方を見ていた。


「おまえ、婚約破棄されたって言っていたが、すでに子持ちだったのか?」


「いやいやいやいや・・・まさか。私はまだ17歳ですから・・れっきとした未婚ですから・・子どもも持ち合わせておりませんから・・」


「だよな~!まさかとは思ったが・・つい動揺してしまった」


そう言うと、また、リアムは料理に集中していた。


私は、リアムの料理の進行状況を見ながら、昼間のことをリアムに話した。相槌をうつようなことはなかったが、よく聞いてくれているようだった。


「家の家計が保持できなくなるほどのきつい税金が徴収されるというのは、考えもしなかった。この国はそんなに困窮しているの?」


リアムは少し考えているようだった。


「この国は豊かな自然、地の利、豊かな資源を生かし、代々続く国王の賢明な采配によって今まで国民は豊かな生活を送ってきた。今のこの街の往来を見る限りは、貧しさは感じないだろ?」


「確かに・・」


「よくは分からないが、地方によっては、法外な税金を取り立てて、私腹を肥やしている役人がいるという噂は聞いたことがある」


「そうなんだ・・その子の身なりは貧しいけれど、言葉遣いも食事の仕方もそれはしっかりしていたように見受けられた。きっとご両親もちゃんとした家族だと思う。ここ最近になって、悪徳な役人によって税金を搾取されるようになったんじゃないかと・・」


「そうだな、そうかもしれない・・。まあ、しかし、俺達には何の力もない。どうしようもないことだ・・・」


「この国の中で、何か不穏なことが起こっているとすれば、それは、今の国王様にも皇太子殿下にも影響があるかもしれない・・・ひいては国民すべてが大変なことになるかもしれないわ」


私は自分で言いながら、アルベルト皇太子殿下に危機が迫っているような嫌な予感がするのを、感じずにはいられなかった。アイデン皇太子殿下には関わらないようにとくぎを刺されていたが、それでも、居ても立っても居られないような気持ちになっていた。そんな私の不安な気持ちを知ってか知らずか、リアムはあっさりと会話を切るように言った。


「そうかもしれないが、そうではないかもしれない・・」


「でも・・」


「さあ、そろそろ晩飯ができる。料理をテーブルに運べ」


私は渡された料理を手に、テーブルに向かい、並べていった。そう、リアムの温かい料理を食べれば気持ちはきっと温かくなる・・そう言い聞かせながら席についた。

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