5小さなお客様

一息ついたころだった。玄関の方で人の気配がしたので、そ~っとドアに近づいてみた。ドアに耳を付けてみると、確かに気配がする。人の気配だ・・

よく聞いてみると、足音が近づいたり、少し遠ざかったり、また近づいたりを繰り返しているようだ。あんまりそれが繰り返されるので、気になって仕方がない。こういう時はやはりシャノンに相談するに限る。


「シャノン。いる?」


最初はささやくような声で呼んでみた。


「・・・・」


聞こえないというわけではないと思うのだが、もう一度呼んでみる。今度は少し大きな声で・・。


「シャノン!聞こえてる?」


「大きな声を出さなくても聞こえているわ」


いかにも面倒くさそうな声だ・・。


「そうなら、すぐ出てきてくれてもいいのに・・」


ちょっと不満を漏らしてみたが、シャノンは全く気にとめる風もなく言った・・。


「で、何か用なの?」


「そうなの・・。玄関ドアのところ・・・誰かいるみたいなんだけど・・どうしよう」


「ふぅ~ん」


「にゃ~ん」


一声鳴いた後、


「大丈夫なんじゃない?ドアを開けてみれば?」


と軽く言った。


 私は、そ~っとドアを細く開け、外の様子を伺って見た。そこには、まだ10歳になるかならないかという子どもが立っていた。


「どうしたの?」


思わず私は声をかけながら、ドアを開けた。


「・・・・・」


「何か用があってきたんだよね・・」


「・・・・・」


なかなか質問には答えようとしないその子どもは、髪を短めに切っていてみすぼらしい身なりをしていた。肩から斜めに鞄をかけている。その時、聞きなれた音・・


グルグル・・


そう、その子のお腹がなるのが聞こえた。


「お腹すいてる?」


私がそう尋ねると、


「すいてない・・」


と一言乱暴に応えた。


キュ~、グルグルグル・・


さらに、大きな音が聞こえた。お腹は正直なようだ。その子は、お腹を押さえ、ちょっと恥ずかしそうにうつむいた。


「とっても美味しいパンとスープがあるよ。ちょっとだけ食べていかない?どうぞ」


私は笑顔で、その子の肩を後ろから抱くようにして中に誘導した。その子は不思議そうに部屋を見回していた。台所のテーブルに座らせ、私は先程食べたスープを少し温め、パンを切って皿に載せた。


「どうぞ・・召し上がれ。とっても美味しいから・・」


スープとパンと私を何度も見てから、尋ねた。


「ホントにいいの?」


「もちろん!」


飛び切りの笑顔で応えた。


その子は、律儀に手を合わせて言った。


「いただきます」


が、そう言うやいなや、貪りつくようにスープとパンを食べていた。美味しい一口が、さらにもう一口、もう一口というように・・みるみるうちに食べ物が胃袋におさまっていくと、その顔に精気がでいてきているようだった。


 そうなんだよね・・リアムの作る食事は滋味溢れていて、温かくて、心も身体もみたしてくれるんだよね。たった今、リアムのランチで癒やされたばかりの私も再び嬉しくなってきた。みすぼらしい身なりであったが、その子がとてもきれいに食事を取っているのには感心させられた。


「おかわりしようか・・」


「はい」


リアムの食事は心も豊かにしてくれるのか、素直に返事をした。心を開いてきたのか、その子の表情は穏やかになっていた。おかわりの分もすっかり平らげてしまうと、両手を合わせて、また、律儀に挨拶をした。


「ごちそうさまでした」


「美味しかったでしょ?」


「はい、とても!!」


「ところで、ここにどんな用があったの?」


それでも少し、言おうかどうか迷っていたようだが、その子は私を見ながら言った。


「ここに、プリンセスかぐやという占い師がいて、とても美人で、その人の占いで幸せになるといわれています。ななので、僕はプリンセスかぐやに会って、占ってほしかった・・。でも、お金はないので・・しかも、今は占いをしていないって張り紙に書いて・・どうしようかと・・」


その子はびっくりするほど、とても丁寧な言葉づかいで言った。


「そうなんだね・・どんなことが占ってほしかったの?」


「父も母も、必死で働いているけれど、どんどん国の取り立てが厳しくなっていて・・お金がなくて困っているんだ・・これから、どうなっていくのか不安で・・・前みたいにみんなで楽しく暮らしたいから・・プリンセスかぐやに占ってほしいんだ・・」


その子はそう言って私の方を真剣に見つめていた。


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