6 働かざるもの食うべからず・・

1まさかの婚約破棄

信じられない・・未だに信じられない。


私は、異世界につれてこられたときの制服姿で、城の外を歩いていた。手には鞄がたった一つ。シャノンは私の肩の上にちょこんと座っている。


「まあ、なんとかなるんじゃないの」


シャノンはのんびりとした声で言うが、私はさっきまで皇太子妃になることを約束されたアルベルト皇太子殿下の婚約者だった。ところが今は右も左も分からないこの異世界にポーンと放り出された女子高生に過ぎない・・と言ってもこちらに来てから高校に入ってなかったから女子高生とは言えないのか・・まあ、その辺りははどっちでもいいけれど、確かなことは路頭に迷っている、まさに現在進行形で・・・


――――――――――

つい先程のことだった。最愛のアルベルト皇太子殿下が部屋にやってきた。今まで見たことのない深刻な顔だった。そして、アルベルトの口からは信じられない言葉が吐き出されたのだ。


「リサ・・愛している。君と結婚したい気持ちは今も全く変わりがない。しかしながら、この婚約はなかったことにしてほしい。申し訳ないが、城に住まわせることもできなくなった。国王の命令なのだ。逆らうことはできない・・どうか許してほしい」


アルベルトの顔は苦渋のため歪んでいた。晴天の霹靂とはこういうことだろう。頭が真っ白になり、何も考えられなくなってパニクっている間に、私は自分の唯一の所有物の制服に身を包み、あれよあれよという間に城の外に追い出されていた。私を追いかけてきたレイラは急いで私に鞄を渡しながら言った。


「リサ様、必ず戻ってきて下さいね。リサ様なら、きっとまた、このお城に戻って来てくださると私は信じております。私はリサ様のお帰りをお待ちしております」


根拠のない励ましの言葉ではあったが、レイラの気持ちがとても嬉しかった。


「ありがとう、レイラ。本当にお世話になりました。元気でね」


やっとのことで、それだけ言うと、レイラは私の方をまっすぐに見つめ、涙ぐみながらただ一人、私を見送ってくれたのだった。


「リサ様もお元気で」


―――――――――――

「ねぇ、シャノン、何だか私って、注目を浴びてるような気がするんだけど、気のせいかな?」


「まあ、その服、制服って言ったっけ。物珍しいんじゃないかな。それに、リサの髪は黒いから、目立つよね」


「ふ〜ん、そんなものかなぁ。」


その時だった。背後から近寄ってきた何者かが私にぶつかった。思わずよろけて前のめりに転倒。


「痛〜い」


え?!駄目、駄目・・唯一、レイラが持たせてくれた私の手荷物の鞄をひったくり、走っていく人影が・・


「きゃー!!ひったくりぃ〜!」

声の限り叫ぶ。


このやろ〜!私の唯一の荷物をひったくろうなんて100年早いわ!私は全力疾走して追いかけた。が、50メートルまでは最速ランナーのようにその差を詰めたが、そこで失速・・運動不足の私の身体は限界となり、犯人との差は開くばかり・・もうだめか・・と諦めかけたときだった。一人の男性が、ひったくりを追いかけ、追いつき、捕まえるのをドラマのワンシーンのように見た!やった〜!!助かった〜!!


「大丈夫か?」


その青年は私の鞄を見事に取り返し、それを手に持って私のところにやってきた。


「ありがとうございます。私は大丈夫です」


その青年は、私の無事を確認すると、あまり表情を変えることなく、鞄を私に手渡した。


「それにしても、いかにもこの世の最後・・みたいな情けない顔して、隙だらで歩いてたら、ひったくって下さいって言ってるようなもんだ。もっと気を付けろ!」


「す、すみません・・」


思いがけなく、強い口調で叱られたので、びっくりして謝った。


「俺は、リアムだ。お前はどこか行くあてはあるのか」


「私はリサといいます。さっき婚約破棄されて、追い出されたばかりで・・」


初対面で、色々言うのはどうかととも思ったが、とにかく心が弱っていたのだろう・・彼が何となく悪い人には見えなかったので、思わず正直に言ってしまった。


「は〜ん。お前・・なんかぼーっとしてそうだもんなぁ。婚約破棄されて追い出されるってまぁ・・何をやらかしたのか知らんけど、困ってるのならうちに来るか?」


リアムと名乗った青年は、がはは・・と笑いながら、軽い調子で、びっくりするようなありがたい?申し出をしている。

この青年が超悪党で、人身売買?されたらどうしよう・・という不安もないことはないが、とにかく住む所も頼る人もいない現実を受け止めれば、ここは、私の運を信じるしかない・・という安易な気持ちで私はリアムについていくことにした。

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