第18話「幼馴染と後輩とGGの謎」

 さすがにいくら後輩でも放置はマズイので彼女との関係をどう説明するかと考えていると意外にも狭霧が先に動いた。


「ん……? シン、誰?」


「狭霧。こちら一年生の吉川紗枝さんです。生徒会の会計をやってる私の後輩です」


「あの、よろしくおねが――「ふ~ん。そっ。じゃあ、信矢早くいこっ!! 暗くなる前に!!」


 狭霧の対応は、なぜか素っ気ない上にあまりにも失礼だ。彼女のヘタレ&人見知りは男子はともかく女子に対しては小学校の頃には治ってたはずなのだが……。これは幼馴染としてキチンと注意しなくてはいけない。そう決意して狭霧の方を見るとなぜか狭霧は少しだけ不安そうな顔をしていた。


「狭霧。後輩に対してその態度はさすがにどうかと思いますよ?」


「う……分かった。2-9の竹之内狭霧。スポーツ科バスケ部所属。そして、信矢の幼馴染よ!!」


 私が少し強めに言うと、そう言われるのが分かっていたように素直に自己紹介する狭霧。つまりさっきのは衝動的に出てしまった態度と言うことになる……吉川さんは悪い子では無い、そして狭霧とは初対面のはずだからそこまで険悪になるとは思えない。何かが変だ、特に最後になんで幼馴染を強調してるんですか?この子。


「……はい。1-6の吉川紗枝です……生徒会所属の春日井先輩ので、先輩には、お世話になって、ご指導頂いてます!!」


 おお、元気がよくなってる。さすが私の後輩。生徒会に入った当初は蚊の鳴くような声だったが、生徒会活動中は声を張り上げる時も有るからと注意したら、今のように元気に声を出せるようになった。

 後輩の成長を見れるのは嬉しいもので、しかも私の指導と言う点まで強調してくれて先輩を立てるなんて……生徒会に入るまでキチンとした所属の活動などしてなかった私としては新鮮で軽く感動していた。


「はっ? ふ~ん……。そういう事……そりゃシンだから仕方ないか、今まで周りが見る目無かっただけだし。そこだけは褒めてあげる」


 だが、その先輩を立てる後輩の態度に対して、なぜか上から目線の狭霧はお気に召さなかったようだ。滅多に聞かない一段下がったような低い声を出して妙にイライラしている。それに……なんだこの無駄に緊迫感の有る雰囲気。不思議と吉川さんもいつもの感じと違っている気がする。なんだこれ?


「私も驚きました……女バスのGGダブルジー。噂と違うんですね? まるで普通の女子じゃないですか」


「女バスのダブルジー? 何ですかそれ?」


「女子の間で勝手にそんな事言われてるだけ。シンは知らなくていいからっ!!」


 ダブルジー?何かの暗号……いやこの場合は略称なのか。例えば女子高生をJKなどと言うアレか?ただGが二つ……元気なG頑張り屋さんG?昔から彼女は頑張ってバスケをしていたし、元気いっぱいだった。おそらくこれだなと、確信して吉川さんを見るが、彼女の答えは私の予想とはまるで違った。


Golden Goddess金色の女神……普段から神話の女神様のように気まぐれで、一段上にいるような態度で、常にクール。一部の部活仲間くらいしか寄せ付けない金髪の女神様……それが竹之内先輩って女子の間では有名ですよ?」


「は? 狭霧が? 何の冗談ですか吉川さん」


 さすがにポカーンとするしか無い。だって狭霧がクール?女神様?ただの可愛い系で少しヘタレな幼馴染としか認識していなかった私としては困惑するしかなかった。確かに彼女は女神と言われるような美しい容姿をしている。私は可愛いと思うのですがねっ!!ここは声を大にして言いたい。そんな私の内心を無視して吉川さんが話を続けていた。


「むしろ先輩がご存知無かったのが意外です。私は入学して三日で知りましたよ。しかも去年から六人の男性から告白されて、それを全て断ってるという武勇伝も込みで、です。その際の冷徹な断り方もGGの要因だと聞きました」


 幼馴染の凄い意外な一面を他人から聞いた時にどうすれば良いのだろうか?幼馴染緊急ダイアルみたいなものがこの世に無いのが悔やまれる。狭霧の方を見ると一見すると普通なように見えるが、集会の挨拶の時と同じでたぶん固まってる。そして同時に少し怒っている。相変わらず見た目だけは堂々としてるからなぁ……。そしてこれでさっきから不機嫌な様子に合点がいった。


「なるほど……それで狭霧は不機嫌になったわけですか。納得です。そんな呼ばれ方絶対に嫌でしょうから」


「え? なんで……? ハーフで金髪で女神様とか凄い称号のオンパレードじゃないですか!!」


「そんなの嫌に――「決まってますよね? 狭霧なら絶対にそう言う。吉川さん。まず狭霧の髪の色はアッシュブロンドと言います。違う言い方は厳禁です。今後は気を付けて下さいね?」


「は、はい?」


 思わず叫びそうになった狭霧の正面に立って落ち着かせるように彼女の頭をポンと撫でる。後ろで後輩の返事もしっかり聞こえたので改めて狭霧を見ると、なるほど、今まで気づかなかったが確かに、このように泣かないように必死に耐えている姿は私にはいつもの強がりにしか見えないし、彼女を知らない人間からしたら能面とまでは言わないが、感情を抑える余り他者を睥睨へいげいしているように見えなくもない。


「別に睨んでないし……なるべく見ないように目は合わせなかったけど」


「だろうね。続けますよ?」


 そこに狭霧の美貌が加わり、冷たい印象をより強めている。男性自体があまり得意では無いので、早く告白を断ろうと焦って素っ気なくなる。なるほど金色こんじきの女神様とは言ったものだ……。だが私にとってはただの可愛い強がりと少し意地っ張りな態度の、よく知ってるいつもの狭霧なだけなのですけどね?と、ここまで一息に推理を披露すると狭霧はこっちを見てコクコクと頷いて、吉川さんは目を丸くしている。


「ま、こんなところでしょう? 違いますか?」


「うん正解。中学の頃から告白を断る時はそう言う風にしてたんだ怖かったし、男子って、すぐに私の胸とかお尻とか凄い見て来るんだよね。次に髪の毛。シンはいつも胸しか見て来ないけど……」


 途中まで安心して聞いていたら、いきなり最後に爆弾を放り込むような真似は止めてもらいたい。一瞬寿命が縮まったような衝撃を受けた。と、いうよりバレていたのか……私の完璧なチラ見がバレていた?


「っ……サラッと私が見てるのを暴露しないで頂きたい。ちなみにいつから気付いていたのですか?」


「え? 小学生の頃には知ってたよ? シンの巨乳好き。あと再会した朝だけど私の胸とか見過ぎ、バレバレだから」


 衝撃的な事実が告げられた。最初から全てバレていた。バカな……師匠に習った呼吸と気配の察知方法、あの人に習った歩法と覗き見スキル、それに古武術の残身や、すり足などを総動員したあの動きが見切られていたというのか……。


「ぐっ……そ、そう……ですか。今後はなるべく……その、気を付けたいと……」


「べっ、別に良い……よ? てかシンの好み知ってたし……むしろ……強み、武器になりそうだし……釘付けに……」


 なぜかお許しが出た?途中からゴニョゴニョ言っていてよく聞こえなかったが、顔を真っ赤にしているから自分で言っておきながら相当照れているようだ。かわいい。しかし自分の推理を披露しておきながら疑問に思うのもアレなのだが、こんなに可愛い照れ屋な狭霧が、学院ではクール系女神様女子だとは思わなかった。取り合えずもう一撫でしておくと狭霧も気に入ったのか頭を擦り付けてくる。


「…………ですか」


「「えっ?」」


「ヒドイじゃないですかっ!! こんなギャップ萌えの溺愛系幼馴染同士とか私が完全に噛ませじゃないですかぁ!! 何が幼馴染は負けフラグよ!! 先輩のバカああああああああ!!」


 しばらく放心していた吉川さんが再起動すると私たち二人に理不尽な言葉を投げつけて猛ダッシュで生徒会室を出て行ってしまった。そして私の横で狭霧はなぜか勝ち誇った顔で言う。


「ふふんっ。勝った!! 悪い虫も払えたし一石二鳥ね」


「狭霧……悪い虫って何を言ってるんですか? 彼女は大事な後輩なのですが……」


「やっぱり気付いてない……それと信矢? 後輩と幼馴染なら、幼馴染の方が大事に決まってるよね?」


 いつも以上に押しと圧の強い彼女に頷くと満足したのか、そのまま腕を絡めて来て下校する事になった。あのデート以来これが気に入ったようだ。ちなみに下校の際に女子バスケ部の皆様や周囲の生徒にその光景はガッチリ見られており、翌日彼女は質問攻めにあったらしい。

 その後、仕方なく彼女の要望通りに近所の神社へ行き二人で参拝するとそのまま彼女を家の前まで送り今度こそ帰宅する。明日の確認だけしてベッドに入ると、そこにアプリの通知が入る。狭霧かと思い確認すると、そこにはまた意外な人物からの連絡が入っていた。


「愛莉姉さん……気を付けろって……どう言う意味だ?」


 あの人の助言なら間違いは無いはず、なら警戒する必要がある。ただ気を付けろって言うのが漠然として訳が分からない。測りかねてるって事なのか?ドクターか七海先輩に相談するかを考える。いや、こんな曖昧なことではあの二人は動かない。ただ狙いが私なら逃げるなり迎撃すれば良いだけだ。今の私にはそれだけの力があるのだから。


「そう、あの時とは違う……私はボクじゃない、強くなったのだから……」


 だがこの時の判断はあまりにも浅はかだった。人はなぜ後悔し、それでも同じミスをするのか?これから少し後に私は人生何度目か分からない後悔をする事になる。そしてその少し後とは狭霧の練習試合の日だった。

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