取引 に 想定外
扉を潜った先、そこは思った以上に広い場所だった。
強いて言うなら前回のダンジョンのディザスターが居た場所と同じような広場。
「っ!!?」
だが見渡して俺は驚愕していた。
そこにあったのは、ゴブリンが集めたであろう金銀財宝だった。
明らかに自分の目の色が変わっているのがよくわかった、まさかダンジョン最奥にはこんなご褒美もあるっていうのか。
「よーく来たな!ミミナ!」
「あ、あなたは・・・ご主人様の上司様、どうしてここに!?」
じゃあ何か、お金集めしたいならここへ来ればいいのか。
確かにモンスターの素材も手に入るわけだ、なら一体どれだけ金が手に入る???
実際に手に取り一個だけストレージに入れたがしっかりと奴隷紋が反応する、間違いないこれは鉱石の金だ!
「やはり来ると思っていたよ」
「ご主人様は・・・ご主人様は何処にいらっしゃるんですか!?」
待て待て冷静になれ俺。
まずここの物を全て手にしたところでまだ金にはならない、大事なのはこれを売る場所だ。
あのハーデスがいいのか? いや最悪足元見られる可能性があるしから・・・いや、でも今後のディザスターの素材の事を考えるとあの店主で物を売った方がいいのか? 変にヘソ曲げられてディザスターの素材の買い取りをしてくれなくなったらそれこそ問題がありそうだし。
「ここにいるよ、ほら!」
「ミミナ・・・すまない」
「ご主人様!!」
そもそも売り場を変えるか!? いやあの時は勢いでディザスターの素材を出してしまったが、よくよく考えてみればディザスターの素材なんて出した日には問題が起こりそうな物。あの店主の様子からしてもわかる。
需要は確実にある。あの店主だって表情とか一切変えていなかったがきっと内心動揺していたに違いない!
「さーてと、こっからは取引だ。何簡単な物だ、ミミナてめぇー俺の女になりな。そうすれば大好きなご主人様は返してやるよ」
「駄目だミミナ、聞く耳をもっちゃいけない!」
「そんな・・・そんな事・・・!」
だとするとやはりハーデスでこの財宝を売るのが一番なのか。
未来的に考えるとハーデスに恩を売っておくのきっと悪くないはずだ。 そうだな、長い目で見ればハーデスでモンスターの素材を降ろし続けても問題はないはずだ。
あの店主だってきっと鬼じゃない、それはこの金貨が証明している。
「さぁ今すぐにここで契約するんだ、奴隷商も用意してある。早くこっちくるんだ」
「ミミナ、逃げろ! こいつらの言うことなんて聞くんじゃない!」
「でも! ご主人様が!」
あぁー! 夢が広がる! 夢ってこんな簡単に感じられるものなんだな、この胸の内がワクワクして心臓の鼓動が早くなりとにかく前向きな事しか考えられない。
ある種の幻覚症状のような物なのか、夢に溺れるなんて言葉がよくわかるぞこれ!
「お前に選択肢は・・・って!!!! お前は一体何をしてるんだよ!!!!」
は?
え、何。今の俺に向けて言ったの?
「金の山に寝そべってる、お ま え !!! 何キョロキョロしてるんだよ! どう見たってお前だからね私が注意しているの??」
「俺??? ふっ・・・」
何か聞こえたがこれもきっと夢の幻覚なのだろう。
なるほど夢はこんなにも色々な事を教えてくれるのか、非常に勉強になるし止み付きになるのもわかる。
「いやいや、ふっじゃないから! しかも顔上げたと思ったら何戻ってるの!!? 話しは通じてるよね!!?」
「ちっうっせぇな」
「はぁ!!? なんで逆切れされてるの!!?」
幻覚ではないということか。
にしてもなんで俺はこんなに怒られてるんだ。なんか言ってた気がしたけど俺には関係ないだろう?
もしかして何か重要な事言ってた? 全然話しの流れがわからないんだけど。
「あ何も聞いてなかったのね! 目の前の財宝に目がいってたのね! ごめんね!!! でも今凄く良い所だからね!! 君の仲間が大変なんだよ!」
「へぇー」
おぉ、わざわざ説明してくれた長身の貴族さんに感謝しかない。
でも俺このビッチの仲間でも何でもないし、ご主人が無事でここまでこれたならもう俺用済みじゃね?
「あのーー、すみませんもう帰っていいですか?」
「「「「はぁ!!!??」」」」
手を上げて帰宅を宣言しただけなのにどうして? どうしてみんな変な声を上げてるんだ。
また俺は何か言ってしまったのだろうか?
「いやだって、こいつのご主人ってその縄で縛られてるボコボコ姿の人でしょ? 俺、このビッ・・・この女をここまで案内するまでが依頼だし」
正確には違うけど、大体合ってるだろ。
助けてほしいなんて曖昧な依頼なんだしこっちだって曖昧にしてもバチは当たらないだろう。
それに人間同士の話し合いに奴隷の俺が介入する余地なんてないだろう。
「そそそそそ、そうなのか。ならそこで大人しくしてるんだな!! ガハハハハ!!!」
なんだよ、話しを聞けだの大人しくしてろだのめんどくさいな。
早く話し合いを終わらせてほしい物だ、こっちはこの財宝達を早く全部貰って帰り道のゴブリン達の素材を取りに行かないといけないんだから。
「レーグ様! お金! 金貨100枚ほど!!」
「いらな~~~い」
何が悲しくてこれ以上リスクを負わないといけないんだ。こっちは人間に攻撃できないんだから戦えないし。
それに俺を金を払えばなんでもやる何でも屋とでも思ってるのか。非常に不愉快だ。
もはやこいつ等からの金なんていらないかもしれん。
今ここにある財宝だけで相応の物が手に入る可能性の方が高い。
だったらこれ以上首を突っ込むのは面倒事が増えるだけだ。もう俺はこの財宝の山から動かないぞ!!!!
「ふぅ・・・で、ミミナよ。気持ちは決まったかな? 自分を差し出すか、ご主人を殺すか?」
「それは・・・私は・・・」
まだごねてるよこのビッチ。
よし、ここは俺が一押ししてやるか、このままここに居たって時間の無駄だ。
大量のゴブリン共の死骸が俺を待てるんだ、さっさと終わらせて金に替えたい。
「いいからさっさと終わらせろよ、お前ら全員ぶっ殺すぞ」
もちろんただの脅しだ。これで話しが前進するであろう。
全く最後まで手間のかかる奴だな。
「ななな、何を言ってるんだ貴様」
「何も糞も無い、ここにいる全員だ。それ以上でもそれ以下も無い」
だから、早く終わらせて。俺は早く帰りたいの。
それだけだから俺が求めてる物は。
この時の俺は話しが円滑に進み早く終わるものだと、信じて止まなかった・・・。
そう、考えていたのに・・・。
「ここ、こうなったら!! こっちには奥の手はあるんだよ!!」
長身貴族は懐から何やら魔石を取り出し掲げた。
威勢良く何かの呪文を詠唱し始めた。
「魔石に眠りし祖たる邪念よ、今一度我に根源たる力を与えたまえ!!」
取り出した魔石が呪文の詠唱と共に酷くどす黒く輝き出した。
どうな効果なのか、わからないのは当然だが。すぐにどんな効果かわからされた。
グウウウウギイイイイイイ!!!!!
長身のおっさんの背後から巨大なゴブリンが姿を現した。
してこのダンジョンのボスゴブリンというところなのだろう。見た目も周囲にある財宝のよりも高価そうな鎧と剣、そして盾を引っ下げている。
「え・・・なんでこんな事にあってるの?」
あれ、おかしいな。俺は話しをさっさと終わらせろって言っただけなのになんでこんな事になってるの?
なんで急にモンスターなんか召喚? 操ってるモンスター出してんのこの人?
そういえば、冷静に考えればなんでこんな所にこの長身おっさんは一人でいるんだ? 見た感じ装備もないし・・・。
ってことはやっぱあの魔石がそうなのか。
ただの見せびらかしかよ、あれいくらで売れるんだ?
「気を付けろ! このゴブリンは強すぎる! 私の護衛もこいつに殺されたんだ!」
「レーグ様!」
「は?」
何その期待の眼差しみたいな面。俺がやるのかよ。
なんでだよ、俺関係ないだろ・・・まさか、俺が変な事言ったから?
え・・・俺のせい?
「さぁ! ゴブリンジャック! 愚かな馬鹿共を殲滅しろ!!」
グウウウウギイイイイイイ!!!!!
ついにゴブリンジャックとかいうモンスターが動き出した。
当然俺とビッチに向かって剣を向けズシンズシンと地響きを上げながら前進してくる。
パッと見動きは遅そうだから問題なさそうだけど・・・。
「どうしよう・・・全部欲しい」
「え? レーグ様、何かおっしゃいました?」
やべ、口に出ちゃった。
こうなったら多分戦わないといけないのはわかった。
だとしたら、だよな。
グウウウウギイイイイイイ!!!!!
考えに耽っているともう目の前までゴブリンジャックは迫っていた。
ビッチはすぐさまその場から離れ距離を取るが、俺はその場で止まって眺める。
「バリア」
全方位に魔力障壁を展開する。
そしてゴブリンジャックの姿をまじまじと観察する。
やっぱ近くで見てもこれは絶対にいい素材で出来てるに違いない。
となるとやっぱり一撃で倒さないといけないか。危うく武器破壊なんかを狙うところだった。
「ビ~~~~ム」
人差し指からハリのような細い魔法をゴブリンジャックの目玉へ向けて照射した。
グチャと肉を抉る音が聞こえ悲鳴を上げた。
よし上手くいったな、貫通もさせてないから付けてる兜は無事だ。
痛みに悶え苦しむゴブリンジャックはバンバンと俺の張ったバリアを叩いてる。
当然ビクともしない。ならこのまま同じように。
「チクッと」
ギギャァアアアアアアアアア!!!
今度は鎧の隙間の脇を刺してやった。
これは非常に面白いな、刺せば刺すほど悲鳴を上げてくれる、自分が思った反応が返ってくるこんなにも面白い物なんだな。
ハァ・・・ハァハァ・・・。
「へへへ・・・次は何処刺して欲しいんだ?」
息が荒くなってきたな、ほれほれ次はそうだな変化を付けてみるか。
今度は魔力に変形性を咥えて鎧の内側に刺さるようにしてっと・・・。
ギギャァアアアアアアアアア!!!
へへへへへへへっ!
これはいいな。そうかこうやって魔法のバリエーションを増やしていくのもありなのか。
この指ームとバリアもグインズに来る前に考えてきてはみたけど、やっぱ実戦でこうやって確認できるのはいいな。
何度も何度も同じように指ームでゴブリンジャックを攻撃していると、突然俺のバリアから距離を離し剣と盾を捨てた。
すると魔法の空間を作りそこに手を突っ込んだ。
「おぉ~・・・デカイ大剣だー」
これまた高く売れそうな物を取り出した。
いいね、元々持ってた剣と盾は消えることなくその場に置いてある。
さらに高額買取の期待が高まる物を取り出すとか偉過ぎるぞコイツ!
グウ!!!!ギイイイイイイ!!!!!
新たな得物の大剣を持ち飛んだ。
思いっきり勢いを付け振り上げた落下と共に大剣を俺へと振り下ろす。
「よいしょ!!」
ガキィィイィンッ!!!!
一度やってみたかったこと。
俺はバリアを解除し両手に魔力を宿し大剣の攻撃を受け止める。
たしか真剣白刃取りだっけか。正式には違うとかなんとか誰かが言っていた気がするがそんな事を気にする必要は無いな。
「ぬぉぉおおぉおお!!!!」
大剣を手に取ったまま振り回そうと力を込める。最初ゴブリンジャックも抵抗しようとしたようだがすぐに足を浮かせ俺との力勝負に負けぐるんぐるんと回される結果になった。
ほーーら回れ回れ回れ!!
「へへへへへへへへへへへへ!!!」
完全に遊んでるな俺。
弱物いじめになるのはわかってるんだけど、どうしても最近はあのイノシシしかり女狐しかり店主・・・は全面的に俺が悪いか。
とにかくストレスと言う物をきっと感じていたのだろう。
悪いがゴブリンジャックとやら、少し鬱憤晴らしに付き合ってもら・・・。
ギャァア・・・アッ!?
「あっ」
スポンと鳴ったかの如くゴブリンジャックの手から大剣が抜けてしまいそのまま回された遠心力で上空へ高く飛び俺から離れていってしまった。
「あぁあ! あぁあああああ!!!!」
「くっ!!」
まさかのぶっ飛んだ方向はあの長身の貴族とあのビッチがいる方向だった。
ビッチご主人はすぐに反応できたからか、その場から即座に離れたが。
長身のおっさんは接近する巨体の物体に足を竦ませてしまったのか逃げげることが出来なかった。
ボォォオォォォォォォオオンッ!!!!!
強烈な音と共にゴブリンジャックは地面へと激突した。
そしてついでのように何故か一緒に長身のおっさんも下敷きになってしまった・・・。
「ぁぁぁ・・・あぁああああ!!!」
情けない声が口から出てしまっている。
俺の素材!!! 俺の鎧!!!! 俺のゴブリンジャックッゥウゥゥウゥウ!!!
大丈夫!? ねぇ!!大丈夫!!?
鎧は!? 傷は!? 返事をしてくれよ!!
大剣を持ったまますぐに駆け寄って状態を確認しようとするが、突然大きな地震が起きた。
なんだよこんな時に。ここは地下なのに動きが出来ないほどの地震って一体何が起きてるんだよ。
「まずい! 倒壊するぞ!!」
「はぁあああ!!!!?!?!?」
つい大声を上げてしまった。
倒壊ってなんだよ!! 倒壊ってまさかこのダンジョンが倒壊するって意味か!!?
「早く逃げましょう!! レーグ様!!」
「え・・・あ・・・えぇ」
出入り口とゴブリンジャックの死骸を何度も見てしまう。
待ってよ、まだ素材も取ってないし財宝だってまだ一つしか!!
「このままだと押しつぶされて」
「あぁああ!!! もうわかったよ糞が!!!」
この部屋の出入り口へと全速力で走った。
我が身大事、ここがどれ位の深さかはわからないけど、流石にバリアとかで無事に居られるとは思えない。
ならもう走るしかないじゃないか!!
(あぁああ!!! 俺の素材!!素材がぁああ!!)
逃げている道中のモンスターの素材が過ぎ去っていく。
一体俺は何の為にこのモンスター達を丁寧に倒していたんだ。
こんな事予想なんて出来るわけないだろうふざけんな。
「あぁああああ!!! 何でこんなことになるんだよぉおぉおお!!!」
当然叫んだ所で何の意味も無い。
けれど・・・叫ぶ事しか俺には出来なかった・・・出来なかったのだった・・・。
・ ・ ・
日は落ち空は夕暮れに染まっていた。
俺達は無事にダンジョンから抜け出す事が出来た。
「ぁぁぁ・・・あぁぁぁ・・・」
俺は一人、ダンジョンの入口、あの不気味な顔の出入り口も綺麗に倒壊されその前で膝を付き悶え苦しんでいた。
いくら悔やみ悩み苦しんでも戻る物は何もない。そんな事は知ってる、奴隷生活で嫌というほど身に染みていたさそりゃ。
でも、それでも・・・こんなに悲しい事って・・・無いだろう。
「ミミナ・・・ありがとう」
「いえ、ご主人様。私は当然のことをしたまでです」
チラッと後ろを見ると夕日をバックに二人抱き合いなんかいい雰囲気になってるし。
こっちがどれだけ落ち込んでるのかも構わずイチャ付き始めやがった。
「本当にすまないミミナ、もう離さない絶対にだ」
「私も・・・私ももう離れたくありません」
あぁーあ、すみません。そうゆうの余所でやってもらえませんかね。
一応ここにずっと戦い続けておまけにお金の予定をほぼ全て失って心身共にボロボロの人間がいるのですが。
唯一の戦利品があのゴブリンジャックの大剣だけってのがまた何とも言えないところだ。
これ売るよりもなんか使った方がいいかもな・・・もしくは加工してもらって自分で使うか?
「ごめんミミナ・・・もう、我慢できないよ」
「はい、私も・・・お願いしてもよろしいですか」
うわうわうわうわうわ。
顔顔顔、近い近い。
あぁもうなんだこの気持ち、すげぇ気持ち悪い。あれかいやらしいこの瞬間を覗き見してる覗き魔ってやつか。
最悪だ、なんで俺が覗き魔みたいな扱いになってるんだよ。
さっさとこの場から立ち去るのがいいな。これなら報酬の方も何とかなりそうだし、金貨30枚だっけか?
まぁそれだけでも十分な成果と言えるだろう。
はいはい、お邪魔者はさっさと退散しますよー。
報酬は後でしっかりと貰うからな、奴隷なんだからローズに調べてもらえばすぐにわかるだろうしな。
サクッ・・・。
金の為ならローズに土下座でもなんでも・・・。
「サクッ????」
その場に似つかわしくない肉体を突き刺す音。
どうしてそんな音がするんですか・・・?
つい俺は・・・振り向いてしまった。
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