27.お茶会の秘密について大人たちが話し合う話
「……わかった、言わない」
オーランドは何とか答えた。
「待ってください、言っていいことと、まずいことを整理しましょう」
「そうね」
「まず、言っていいことです。皇太子様と、オーランド様がお茶会をしていることは、王妃様にも知れています。ですから、このことは公表しましょう」
「まあ、隠せないわよね」
「そこに、刺客がやってきたことも広めましょう、オーランド様と皇太子殿下のボディーガードの活躍で、刺客はその場で殺された。抵抗が激しくて、生け捕りできなかったことにしましょう」
「それがいいだろう」
「刺客がどこの人間なのかも、公表しましょう。オーランド様、わかりますか?」
「ううむ……」
オーランドが悩んでいると、レミーが戻ってきた。
「失礼します。着替えを持ってきました……刺客の主人っすか? 俺にはわかりますよ。このダガー、十字の紋章が入ってます。教会の物品ですよ」
「教会ですか……恐ろしい」
フォーサイスの顔色が青くなる。
「まあ、教会のふりにしたい敵対勢力、って線もありますけど、教会に圧力はかけていきたいから、これは教会のせい、ってことにしましょう。で、何の話です?」
「俺と、皇太子殿下のお茶会が襲われたことを、どんな内容で公表すべきか、だ」
オーランドの説明に「なら簡単っすよ」とレミー。
「刺客が襲ってきて、皇太子殿下の傷は浅く、服が切れただけだったけど、位置が胸だったから、荒事に慣れてらっしゃらない皇太子殿下は失神。なんか服もきれいになってるし。この方向で。実際服が切れてるから、着替えを取りに行っても不自然じゃないし。で、フォーサイスさんが医学知識を使って皇太子殿下の手当を行い、刺客の取り押さえにはオーランド様も協力してくれた、って感じがいいんじゃないっすかね。お二人が刺客だ、って疑いを晴らすために、活版印刷で皇太子の名前を使ってばらまくんです」
「えらく口が回るな、君は」
「そりゃ昔は飛脚をやってたから、表も裏もいろんなとことから情報伝達だとか、デマを流してくれだとかいろいろやってたんで。あ、もちろん物を運んだりも……」
オーランドの顔を見て、不自然にレミーは口を閉じる。
「君には裏社会とのつながりがあって、縛り首になりかねないものを運んだこともあると?」
「マジの禁制品は……運んだことないですけど、ある意味それ以上にヤバいかもしれないと、あとから思った物はあったんで……ただの装飾品だと思ってたんで……」
レミーの目が泳ぐ。
オーランドには、その装飾品に心当たりがあった。
「もしや、それは―—」
「そんなことよりレミー、着替えをちょうだい。私が着替えさせるから、そこの二人が覗かないようしっかり見張るのよ」
「そ、そうでした。いったらいけないことも決めなきゃいけませんでした!」
オーランドが言いたかったことは、セリカとフォーサイスの発言にかき消された。
「そうね」
「い、一番隠さなきゃいけないことは、皇太子様が女の子だってこと、ですよね?」
「そうよ。母親が息子をアナフィラキシーショックで殺して、娘を息子の身代わりにして、のうのうと暮らしてる女のせいで、嘘をつけないと生きていけなくなった、かわいそうな女の子よ」
「だから、ナオミ王妃はレーンは、もういないと」
オーランドの言葉に、きつい視線をセリカはむける。
「王妃と何を話したの。詳しく話してもらうわよ……ディアナに」
「その場にあなたもいてくれると……う、嬉しい。セリカ様」
オーランドなりの精一杯の口説きに対するセリカの返答は、無言で血に染まった若草の間から立ち去ることだった。
*
数日後、オーランドから改めてお見舞いのために王城に来る、という招待状を受け、セリカとディアナ、レミーは衣装選びをしていた。
「またお茶会なのよね……ディアナ、傷は痛まない?」
「痛まないけど……違和感がないのが、逆に不気味なの」
ディアナはさらしをはだけさせ、セリカにだけみせる。
不死の蚕はディアナの傷跡にべったり張り付いて入れ墨のようになっていた。
「あんまりいい状態じゃない気がするけど、無理に取り出して何かあったらいやよね……」
「このままでいいよ、どうせセリカくらいしか見ないし」
「ところで私、どうしても今日のお茶会、オーランドとでなきゃだめ? 私に対する謝罪の機会は、もう終わったはずよ? 土下座で満足してるからもう会いたくない、ってことにできないの?」
「でもオーランド様は、セリカに会いたいから来てるんじゃん。だから床に頭だってつけたんだよ。なんかさ、たしかにオーランド様はセリカにひどいことしてるけどさ、反省してるし、私としてはさ、オーランド様と会ってほし……」
セリカはさらしを放り投げ、首を激しく左右に振る。
「出ない!」
「ディアナ、おっぱい見えてる! いろいろヤバいからかくして!」
レミーは部屋のすみに逃げ込んでいる。
「出ないならどうやってあんなにノーデンの女嫌いをたらしこんだか教えてよ」
「だから私の知識が役立ったんだってば」
「それ以外何かあるのか? オーランドは女の色気になびく男じゃなくて、知識がある女じゃないとたた……たぎらないって男だっただけなんじゃ?」
ディアナが自分でさらしを巻いたのを確認し、レミーが戻ってくる。
でも、それは違う。ディアナのカンと、貴族の常識は、そんな答えをはじき出していた。
「レミー。平民と違って、貴族の結婚は、跡継ぎを作るためだけの種まきみたいなものよ。ノーデン発展のための義務感だけでも、成人したら興味のない女の人と夫婦になるのが普通よ。でも、そうしてなかったってことは、女の人が本気で嫌いだったのよ。レミー流の下品な言い方するなら、おっぱいついてるだけで嫌! みたいな」
「なんでばれてるんだよディアナ!」
「レミーがばればれなだけよ」
「う、うるせえ! 若いのに下品な話すんじゃねえディアナ! 下ネタはオバサン化の第一歩だ!」
「それいったらレミーはよぼよぼのじいさんじゃない」
「ディアナとほぼ同い年だから! ……多分。路地裏生まれだからわかんねえけど」
「でも年下じゃないじゃん。レミーじいちゃーん!」
やいやい言い合うディアナとレミーを、セリカは優しく見守っていた。
「ディアナは鋭いのね。オーランドも、ディアナとレミーみたいに、秘密を共有できる友達がいたら、違ったのかもしれないわ」
「何かあったんでしょ」
セリカは目を伏せる。
「教えてよ」
ディアナの言葉に、セリカは重い口を開く。
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