第68話.一ノ瀬隊長の思い
空さんの明かした衝撃の真実に、俺が動揺しなかった理由は、すでにそのことを知っていたからだ。
知ったのは、俺もつい昨日だった。
いや、一ノ瀬隊長が目を覚ましたのが昨日なのだから、当然だが。
一ノ瀬隊長が目を覚ましたという事を聞きつけたゾディアックの構成員たちは、6番隊の人間に限らず、医務室を訪れた。
俺ももちろん行った。
その時は、ただ雑談しただけだったが、帰り際、俺は一ノ瀬隊長に呼び留められた。
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『なんですか? 俺にだけ話って……』
俺は医務室の出入り口の扉を閉めて、一ノ瀬隊長のベッドの横に来る。
『あぁ、正直言いたくはないが、いつまでも隠し通せるものでもないから正直に言おうと思う』
その時、俺はこの後に紡がれる言葉の内容の見当もつかなかった。
しかし、この口ぶりから、少なくともいいことではないことだと察する。
ゴクリ、と息を呑んで次の言葉を待つ。
『実は、怪我自体はそこまで大したことがないみたいなんだがな、実は……』
そこで少しだけ沈黙を挟む一ノ瀬隊長。
いちいち間を取るのが、俺に不安を募らせる。
かなり長く感じられた空白の末、一ノ瀬隊長の口が開かれ……。
『俺はもう、戦えなくなった』
『え?』
いい内容のモノとは思ってなかった。
しかし、一ノ瀬隊長の言葉は、俺の想像をはるかに超えてきた。
目の前が真っ暗になったような錯覚を覚える。
『な、何故ですか!? 怪我がそんなに重くないなら!』
だいぶ軽減されたと思い込んだ、自分の罪。
それが、再び自分を呪縛することになる。
その呪縛から必死に逃れたくて、俺は嘘だと言ってくれという願いを込めて理由を尋ねる。
『いや、俺も理由は分からない。うちで医者をやってくれてる
どういうことだ?
超能力者が超能力を使えなくなるなんて事態は聞いたことがない。
『それは、感覚を忘れたとかいうことではなくてですか?』
『あぁ、感覚は憶えている。何らかの超能力を使おうとしても、自分では使えそうな感覚があるのだが、事象自体は起こらない』
『そ、そんな……』
呆然とする俺。
『な、何とかならないんですか……?』
自分でもアホな発言だと思った。
震えた声でそう言った俺とは対照的に、一番ショックを受けるべきの一ノ瀬田長は、苦笑しながら……。
『落ち着けよ。俺にとっては別に悲しいことではないさ』
『え……?』
俺に気を使っての発言だと思った。
しかし……。
『俺も、もう疲れたんだ。俺はお前と違って雄吾さんを助けることが出来なかったからな。今お前が持っている以上の罪の意識を何年も抱えてきた』
……そういえば、そうだったな。
俺と一ノ瀬隊長は、似た道を通っているのかもしれない。
それに、一ノ瀬隊長は命に別状はなかったものの、省吾さんの方は命を失っている。
俺よりも重い咎を、それも数年に渡って背負ってきたのか。
『けど、お前というゾディアックの未来を担う有能な人材を守り、オマケに命まで拾えた。むしろ肩の荷が下りたくらいだ。まぁ、だからと言って罪が消えたわけじゃないが、少しは気持ちも楽になる』
『いや、でも……』
正直、素直にその言葉を信じることは出来なかった。
一ノ瀬隊長と言う最強の超能力者から超能力を奪ってしまったという重大な事実。
それをどうしてあっさりと許せるのか。
疑心暗鬼になってしまい、一ノ瀬隊長が本心では許せない気持ちを抱えているのではないかと勘ぐってしまう。
『いいんだよ』
しかし、それから一ノ瀬さんはそれ以上この話をしなかった。
そして最後に……。
『別にゾディアックを抜けるわけじゃない。これからは裏方として支えて行こうと思う。もちろん、そうなれば俺は6番隊の隊長じゃいられない。次の隊長は新田、副隊長は……』
そこで少し間を取り……。
『お前がやれ。能見』
俺の肩に手を置き、真剣な表情でそういった。
俺は、一ノ瀬さんが本気で言っていることを理解した。
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