第59話.一ノ瀬龍雅4(※視点変更注意)

 翌日も、俺の精神状態が改善されることは無かった。


 その日はちょうど土曜日だったので、それから翌日まで俺は自室に引きこもって過ごした。


 何をやろうとしてもやる気が起きず、ただただ無気力に時間を消費したことをよく覚えている。


 多分俺が超能力の訓練を初めて以来、訓練をやらなかったのはその2日だけだと思う。


 ゾディアックの仲間たちにも自分の家の住所は教えていないので、雄吾さんの話を聞きに着たりすることはなかった。


 それでも、月曜日がやってくれば、学校に行かなくてはならない。


 生気がまるで感じられないような状態のまま、俺は学校に登校した。


 その日の授業の内容は一ミリも頭に入ってこなかった。


 だが、そんなことは些末なことだった。


 問題はそのすぐ後に起こったのだ。


 いつものように、帰りのHRが終わると同時に学校を出て、そのまま帰路に着いた。


 しかし、校門をくぐってすぐに……。


「しょ、省吾さん……」


 待ち伏せていたのだろう。


 俺の住所は話したことは無いから、家には来なかった。


 しかし、俺の通っている学校はバレている。


 だからその近くで待っていたのか。


「言いたいことは分かってんだろ。どういうことだ」


 ……。


 逃げ出したい。


 どうする……。


 俺がなんと言えば良いかわからず、黙りこくっていると……。


「その様子じゃ、やっぱり何かあったみてぇだな。言え!」


 省吾さんはイラついた様子で俺の肩を掴んでくる。


 ……言えるわけがない。


 でも、言わないと省吾さんは引いてくれない。


 あー、クソ!


 俺は僅かな逡巡の末、覚悟を決めて……。


「じ、実は……」


 弱々しい声音で俺は、一昨昨日さきおとといの出来事を話し始めた。


 すべてを話し終えるまで、省吾さんは表情一つ崩さず、俺の話をただただ聞いていた。


 しかし、全てを話し終えると、僅かに表情をゆがめて……。


「それで、お前は逃げ出した挙句、俺たちにすぐに報告しなかったのか?」


 っ……!


 あの時、俺は逃げ出した。


 俺のせいで、初期メンバーである雄吾さんを失ってしまったとなれば、他のゾディアックの仲間たちからの非難されるのは間違いない。


 そう思って、俺は逃げたのだ。


 結局省吾さんに見つかったことで、全てを明かす羽目になってしまったのだが。


 こういうものは、言うのが遅れれば遅れるほどに重くなる。


 結果的に俺がやったことは、自分にとってもゾディアックの仲間たちにとっても利がなく、裏目だったわけだ。


「すいません……」


 今の俺はこう言う事しかできない。


 本当に後悔しかない。


 しかし、当然のように、この程度の謝罪で許されることはなかった。


「ふざけるな!」


 今日一番の大声で俺を怒鳴りつけてくる省吾さん。


 流石にビクリとした。


 しかし、なおも止まらない。


「兄貴は死んだんだぞ? てめぇ、そんなことをやらかしたからには覚悟は出来てるんだろうな?」


「……!」


 もちろん、謝って許されることじゃないとは分かっていた。


 しかし、覚悟って……。


 まさか命をもって償えとか言うんじゃないだろうな……。


 そりゃあ、省吾さんは兄である雄吾さんを凄く慕っていた。


 その兄貴が、死も同然の目に遭ったら、こうまで激昂するのも無理はないだろう。


 でも……そんなことをしたら自分だって同じ目に遭うことは明白。


 本気かよ……。


「か、覚悟って……?」


 俺は震える声で尋ねる。


 やめてくれ……。


 そんな必死の願いを込めた問だった。


「決まってんだろ。こういうことだよ!」


 そう言ってパイロキネシスを使い、襲い掛かってくる省吾さん。


「!?」


 嫌な予感が的中してしまった。


 普段ならこれくらいなら軽く避けることが出来た。


 しかし、この状況に動揺しきっていた俺は、普段とは違った。


 やばっ……。


 動きがワンテンポ遅れて、避けきれない、と思った時だった。


「省吾、やめておけ」


 そう言ったのは、空さんだった。


 空さんはいつの間にか省吾さんの背後に現れ、肩に手を置いた。


「え……」


 驚愕の表情で振り向く省吾さん。


 何故いる、という思いがありありと伝わってくる。


 これには俺も驚愕したものだ。


 しかし、直後のその理由が明かされる。


「お前、朝から凄い思い詰めてただろ? その上に突然帰るとか言い出したし。明らかに様子がおかしかった。だから悪いけど後を追わせてもらったのさ」


 その言葉に、さらに驚き、動揺したそぶりを見せる省吾さん。


 しかし、数秒経過して、徐々に冷静さを取り戻す。


「そういうことですか。で、一体何の用ですか? 今は邪魔しないで欲しいんですが」


 リーダーだろうと物怖じしない。


 省吾さんは強い口調で返答する。


「分かるだろ。お前を止めに来た」


「空さんには関係ないことですよ。こいつの代わりなら、責任をもって俺が探します」


 俺は何気なく言ったような、省吾さんのその言葉に戦慄する。


 やはり、この人は俺の事を殺す気だったのだ。


 省吾さんの言葉は、つまり俺を殺していなくなった超能力者1人分の穴は自分が責任をもって埋めるって意味だ。


 しかし、それに対して……。


「そういうもんじゃない。そんなことをしては雄吾が浮かばれないと言っているんだ!」


 そう怒鳴った空さんは、省吾さんの顔面を思いきり拳で殴りつけたのった。

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