第56話.一ノ瀬龍雅1(※視点変更注意)

 俺、一ノ瀬龍雅は超能力者としてこの世に生を受けた。


 両親には非常に喜ばれたが、幼少の頃の自分はイマイチこの力の凄さと言うのがよくわからなかった。


 普通の人間には絶対に不可能な超常現象を引き起こすことのできる――超能力。


 それでも、訓練を積まなければ大したことは出来ない。


 だから、こんなものの何が凄いんだ……と思っていた。


 しかし、ある時超能力者の少年がテレビで取り上げられているのを見た。


 その少年は、炎を自在に操り、壁の向こうを景色を見ることが出来、触れることなく物を自在に操っていた。


 そんな目を見張るような光景に、俺は強い憧れを抱いたが、同時にこう思った。


 なんだ、結局超能力にも才能があるんじゃないか。


 だが、その少年は言った。


「僕は幼少のころから超能力の技術を磨いてきました。始まりは皆稚拙です。しかし、練習すれば、誰でもこれくらいは出来るようになります。僕もこれができるまでに実に8年近い時間を要しました」


 8年。


 才能なんかじゃない。


 努力の末の力だ。


 それを知った俺は、すぐさま超能力の訓練を始めた。


 最初の数日は、楽しさが全く無くて、すぐにやめたくなった。


 だがそれでも、逃げるというのは自分のちっぽけなプライドが許さなくて、嫌々ながらも継続した。


 しかし、続けるにつれて、徐々に、徐々に「楽しくない」という感情が抜けて行った。


 そして1か月が経つ頃には、顕著に違いが感じられるようになって……。


 1年が経つ頃には、超能力の訓練が楽しくて、何にも代えがたい最高の娯楽と化していた。


 それからさらに1年後。


 俺は小学校に入学した。


 小学校と言うのは実に単純な場所だった。


 運動が出来るような明るい奴がクラスの中心となる。


 俺も小学生の頃は明るい性格だったと思うし、身体能力にもそこそこ恵まれていた。


 だから、クラスの中心人物となっていた。


 問題はその後だ。


 小学生なんてちょっとしたことですぐに喧嘩に発展する。


 その喧嘩と言うのも、最初は口喧嘩でも、すぐに怒りが頂点に達してプロレスに発展していく。


 そんな状況になった時、超能力者の俺は強かった。


 流石に、小学生と言えども、パイロキネシスのような死の危険性があるような能力は使わない。


 それでも、サイコキネシスで軽くランドセルをぶつけてやったり、テレポートで背後に移動したりと、小学生の喧嘩では完全に無双できていた。


 結果俺はガキ大将のような存在になった。


 人間、長い物には巻かれるものだ。


 人生経験の短い子供と言えども、それを十分に分かっていたのだ。


 そう、小学生の頃は良かったんだ。


 小学校を卒業するまで、俺は楽しいガキ大将ライフを送りつつ、超能力の技術をさらに高めていった。


 しかし、中学校に入学してから、俺の人生は一変した。


 中学校と言うのは小学校と比べて規模がかなり大きくなる。


 俺の通っていた小学校は、1学年1クラスしかなくて、その1クラスの人数も30人弱しかいなかった。


 しかし、中学に上がると、近くの小学校の人間が全員同じ中学校に突っ込まれて、突然1学年4クラス、1クラス40人の、計160人となった。


 当然、見知った顔は同じクラスに6,7人しかいなくなる。


 小学校時代の俺も、クラス全員を従わせていたわけではなかったので、実際に俺に従う人間の数は3,4人。


 まあそれでも、当初俺はさほど問題として考えていなかった。


 今までの体制が崩れ去っても、また一から俺に従うやつを集めて行けばいい。


 その程度に考えていたのだ。


 最初は思惑通りに進んでいた。


 普通に体育の授業などでも、持ち前の運動神経を生かして大活躍。


 適当にテレビやゲームなんかの共通の話題を取り上げて、俺はたちまちクラスの大きめのグループの中心人物となった。


 そう、舞台が小学校から中学校に変わっても、俺の生活に変化は生まれない……はずだった。


 事の発端は、俺にとっては全然大したことじゃなかった。


 ただ、筆箱を持ってくるのを忘れて、中学から仲良くなった友達の1人にシャーペンを借りたのだ。


 だが、そのシャーペンを俺は無くしてしまった。


 まぁ仕方ないか、と俺は、その友達にこう言った。


「わりぃ、シャーペンどっかやっちゃった」


 小学校まで、王様同然の生活をしてきて、何をしても本気でキレられることなどなかった俺は、シャーペンを無くしたことくらいなんてことないと思っていたのだ。


 だからこんな軽いノリで伝えた。


 それに対し、そいつは……。


「は? ふざけんなよ!」


 当然怒る。


 普通の反応だ。


 物を貸した挙句に無くされて、その相手が微塵も反省の色を見せなかったら、誰だって怒るだろう。


 しかし、当時の俺にとって、それは全く普通のことでは無かった。


 だから、怒ったその友達に対して、こう言ったんだ。


「は?」


 そう、逆切れである。


 同年代の人間を無意識のうちに見下していた俺は、その友達の反応が許せなかった。


 結局、その後どうなったかは火を見るよりも明らかで、喧嘩が始まった。


 そして俺が普通の中学生相手に、喧嘩で敗北するはずがない。


 感情に任せてボコボコにしてしまった。


 それから、この出来事が広まり、俺の悪評が広まって、人が去って行ってしまったのだ。


 そして最後には、小学校の頃からの付き合いの人間まで、俺から離れていき、ついには1人になった。


 最初は愕然とした。


 第三者から見たら、当然だろ、と言うかもしれないが、今まで俺はこの暴挙が許されていたのだから、俺にとってはそれが理解できなかった。


 しかし、鼻が伸びすぎた俺は、それで心を入れ替えることなどできなかった。


 プライドが邪魔をしたのである。


 結局俺は、1人で生きることを選び、心はどんどん荒んでいった。

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