第50話.恐怖
何故だろう。
体が勝手に動き、建物の影から身を出すと、テレポートを発動する。
そういえば星川が驚いたような声を上げていた。
ま、そうだろうな。
まさかこんなに躊躇なく、一ノ瀬隊長を追うとは思わなかったのだろう。
命が懸かってるからなぁ。
ほんと、俺も追うつもりは無かったんだよ。
そんなことを考えながら、敵の背後にテレポートする。
そのままナイフを逆手に持って、敵の背中へと一直線に……。
「――⁉」
しかし、突き刺さろうとした瞬間、敵が回避する。
嘘だろ!?
なんであれが避けられるんだよ!?
そんな風に動揺していると、逆に反撃がくる。
「ぐぅっ!」
ギリギリのところで回避。
しかし……。
一安心、と思ったところで横から攻撃が入る。
な……!
ビビッて仰け反ったのが功を奏した。
上手く回避することに成功する。
しかし、そんな幸運も、そう何度もは続かない。
すぐに追撃がやってくる。
クソ……!
2人に狙われたら為すすべがねぇ。
やっぱり無謀だったか。
人数差があって勝てるほど、俺は強くない。
今日は、まず最初に支部ヒーロー2人を倒し、さらに奇襲で2人上手く倒し、さらに工藤さんの助けを借りたとはいえ1人倒した。
自分が成長したことで、頭の片隅で、案外何とかなる、みたいな甘い考えが芽生えてしまったのだろう。
それで調子に乗った結果がこれだ。
スタンガンが近づいてくる。
ダメだ、避けられない……。
そう思って目をつぶった瞬間だった。
肩に何かが触れる感覚がする。
スタンガンだ……。
そう思った。
しかし、次の瞬間俺は浮遊感に包まれて……。
「大丈夫?」
星川の声。
気が付くと俺は星川の腕に抱えられていた。
「え、えぇ!?」
困惑する俺。
しかし、すぐに状況を理解する。
「助けてくれたのか……。ありがとう」
安心しながら立ち上がる俺。
ヒーローの事だから、よほどのことがない限り殺したりはしないだろうが、捕まっていたら俺は犯罪者としてまともな人生は送れなくなるところだった。
そうなれば死も同然。
命を救われたようなもんだ。
「あ、あれ、そういえば他のみんなは⁉」
俺は慌てて星川に尋ねる。
「全員結局戦いに行ったよ?」
え……。
俺のせいで……などと言うほど、自分に人の心を動かすカリスマ性があるとは思っていない。
流石にそれは驕りという物だ。
しかし、全く無関係とはいえないだろう。
新人の俺が行ったのに、自分が行かないわけには行かない。
と言った義務感が生まれてしまったかもしれない。
結局俺も確固たる意志があって戦地に赴いた訳ではなく、何となく体が動いちゃっただけなのに。
そして結局星川に助けられて、情けない姿を晒してしまっている。
本当に恥ずかしい。
「ま、あんまり気に病まないでね。全員死ぬつもりは微塵もなさそうだし」
だよな。
少なくともあの人たちがやられるビジョンは見えない。
そんな心配をするくらいなら、すぐに戦線復帰だ。
「じゃあ、俺は行くよ。星川は無理してこなくていい」
「なにそれ?」
「え?」
俺は、正直星川にはもう戦いに参加してほしくなかった。
付き合いが長い……とは流石に言えないが、それでもゾディアックのメンツの中では一番関わった時間が長い。
それもダントツで。
もしも、次に俺がヘマをやらかして、そのせいで星川がヒーローに捕まったり、最悪死んだりでもしたら、俺はもう正気じゃいられないと思う。
だからこその言葉だったのだが……。
「自分は危険に身を投じるのにこっちには逃げろって?」
非常に不機嫌だ。
納得いかない、みたいな反応なら分かるが、何故不機嫌なんだ……。
「いや、義務感みたいなのに駆られていくのはやめてほしいっていうか……」
「確かに、私が蓮君の後を追おうとしたのは、義務感も多少はあると思う。でも、それ以上に蓮君を一人で行かせられないと思う気持ちに背中を押されて飛び出したよ」
星川も理性より本能で動いたのか。
ってあれ?
それって結局義務感じゃないにしても、俺のせいで星川が動いたということなのでは?
だとしたら、正直やめてほしい。
ぶっちゃけると、俺は怖い。
何がって?
星川の身に何かが起こった時が怖い。
正確に言うと、自分のせいで星川が……となるのが怖いのだ。
例え人が許してくれたとしても、一生忘れることのできないトラウマを背負うことになるだろう。
だが、本人の意思で行くと言われれば、俺にそれを止める資格はない。
どうすればいいんだ……。
「私のことを心配してくれるのは嬉しいけどさ、逆は考えたことある?」
「え?」
俺が葛藤している中、不意に声を掛けられる。
逆?
俺が死ぬのを見過ごしたら寝覚めが悪いってことか?
いや、いつの間にか自分がやらかす前提で考えているが、もちろん戦闘に戻っても再び失敗する気は毛頭ない。
しかし、その後に続いた星川の言葉は、俺の予想外のモノだった。
「私はさ、蓮君のこと好き」
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