第46話.迎撃
しばらく待機したその後、ようやく命令が一ノ瀬隊長の元に下る。
「よし、どうやら俺たちの新たな仕事は、このアジト周辺の監視。基本的には高台から能力を使わずに見張りをして、たまにクレヤボヤンスでちょくちょく死角になっているところを一瞬確認する。敵が見えたら迎撃。そんな単純な仕事みたいだ」
なるほど。
このアジトの上は普通の雑居ビルになっているからそこの屋上に行けばいいな。
「とはいえ、状況は刻一刻と変化します。すぐにでも対応できるだけの心の準備はしておいてください」
新田さんが、一ノ瀬隊長の言葉に追加する。
全員が無言のままに頷いた。
そして動き出す。
皆まで言わずとも、意思疎通を完璧に図れている。
まあ俺は、多分このアジトの上の雑居ビルの屋上だろうな、と予測は出来ているが、やはり心配なのでみんなの後ろをついていく。
星川あたりも平然と任務をこなしているが、心境は俺と変わらないはずだ、……と思いたい。
屋内なので瞬間移動を使って移動する訳ではない。
それでも、6番隊の隊員は皆、超能力だけではなく、身体能力も相当に優れているので、移動だけでも徐々に置いて行かれそうになる。
それでも必死に食らいついていき、足が限界を迎えそうになったころ、何とか目的地に到着した。
「はぁ、はぁ……」
体力が限界を迎え、肩で息をついていると……。
「よし、お前はあそこら辺を見張っていろ」
新田さんに指示を出される。
「は、はい!」
俺はよろよろと指示された方向に向かっていき、フェンスに寄りかかる。
そして建物の下の方に視線を向けて、観察を始める。
別に何かが起こっている様子は今のところない。
いや、流石にそんな簡単に見つかるような移動は取らないか。
ヒーローも馬鹿ではない。
さて、クレヤボヤンスでも使って見えてない場所とかをしっかりクリアリングしていきますかね。
俺はクレヤボヤンスの能力を使う。
一か所、二か所とどんどん手当たり次第に敵が潜んでいる可能性のある場所を確認していくが、全く見当たらない。
しかし、だからといって気を抜いたりはしない。
任務の中断を言い渡されるまでひたすら続ける。
そして、何分が経過したころだろうか?
「レイス、ハーラルのアジト周辺にヒーローが現れたらしい! うちにも来てる可能性が高いぞ! より注意深く探せ!」
え……マジかよ。
能力を使わずに見える範囲には……いない……。
となるとクレヤボヤンスを使わないと……。
俺はすぐに能力を使って先ほど確認した場所をもう一度注意深く探索する。
ずっとクレヤボヤンスを使っていると、普通の場所に出現したときに対応できないので、稀にクレヤボヤンスの使用を止める。
そうして再びすべての場所を確認し終えたが、やはりヒーローの姿は無かった。
見落としは無かったはずだ。
無いよな?
こういう思考になると、沼にハマったように自分を信じることが出来なくなっていく。
「こちら能見。とりあえず今のところ異常ありません」
多少離れていてもはっきり聞こえるように、少し声を張って伝える。
と、ほぼ同時だった。
「あ、こちら南沢。なんか私服だけど、明らかに不自然な動きしたヒーローっぽいやつ見つけたよー」
ふーん、不自然な動きしたヒーローぽいやつね。
って、えー!?
「なんだと⁉」
新田さんも、南沢さんの軽いノリに騙されて、ワンテンポ遅れてとんでもないことを言っていることに気が付く。
「ちょっと! そんな呑気な声で言わないでくださいよ! 今がどういう状況なのかっくらい分かってるでしょう!」
新田さんが小言を言いながら南沢さんの元に駆け寄る。
他のメンバーも同様。
俺も慌てて駆け寄る。
超能力を使わずに見えるような位置にはいない。
俺はすぐにクレヤボヤンスを起動する。
見えていない位置を思い出しながら、そこをどんどん探っていくと……。
いた!
あれか。
確かにあれは怪しいな。
言われてみるとそれっぽいかもしれない。
しかし、多少なりとも精神状態が平常じゃない状況で、あれをヒーローっぽいと判断できるだろうか。
南沢さんも、普段の言動は随分と残念だが、やっぱり実力というか、その経験はやはり何年も前からゾディアックに所属しているだけのことはあるな。
精神状態がどんな時もほぼ変わらないというのも、欠点であると同時に長所でもあるしな。
「よし、出撃するぞ! 工藤、いつもみたいに後方支援を頼むぞ」
一ノ瀬さんが支持を出す。
しかし工藤さんに頼んだ後方支援ってなんだ?
「は、おまかせあれ」
工藤さんはニヤリと笑うと、どこからかかなりサイズの小さいノートパソコンを取り出す。
どこに持ってたのだろうか。
そしてあれで何をやるのだろうか。
「んじゃあ行くぞ」
しかし、その疑問は解決されないまま、一ノ瀬隊長が地面に向かって飛び降りる。
「え、えぇぇぇ!?」
嘘だろ?
何やってんだ?
「バカか、飛び降りると同時に瞬間移動を使ったに決まってるだろ」
あー、なるほどね。
びっくりしたー。
でもよくそんなことをする勇気があるな。
俺なら失敗した時が怖くて出来ないわ。
「おい、何を呆けている? さっさと行くぞ」
あ、そうだった。
俺も下に降りないと。
「あ、言っておくが、格好つけて一ノ瀬さんと同じように飛び降りてからテレポートを使うなんて芸当はやめておいた方がいいぞ」
新田さんがそんなことを言ってくる。
心配してくれなくても、頼まれてもやりたくないっての。
「テレポートは対象が能力使用の直前まで持っていた運動エネルギーをすべて保存したまま移動する。飛び降りてからテレポートまでに時間が空くと骨折しかねない。もちろんさらに遅れれば、地面に着く前にテレポートできても死ぬ」
そうだったの⁉
確かに言われてみれば、走りながら使うと、テレポート直後に前に倒れそうになるな。
うおー、恐ろしい。
全く一ノ瀬隊長はよくそんなことできるぜ。
俺はそんな真似はせずに安全に地面がある場所で、止まったままテレポートします。
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