第34話.支部ヒーロー
「仕方ないな……本当に最終手段のつもりだったが……」
「あぁ、どうやらやるしかなさそうだ」
俺は戸塚とそんな言葉を交わす。
時計はすでに13:30を回っている。
つまり、集合時間まで1時間を切っている。
すでに狙うヒーローの目星はついていて、現在絶賛尾行中である。
できる限り、口が軽そうな若いヒーローをということでその条件に当てはまったのが今尾行しているヒーローだ。
見た目での判別になるので、実際のところはどうか分からないが、情報が全くないこの状況では仕方がないと言える。
「さて、じゃあ話しかけるか?」
俺はみんなに尋ねる。
正直、時間がもう僅かしか残っていないため焦ってしまう。
「でもなんて声かけるんだよ?」
「うーん、『何とかさんのファンです!』とか」
「いや、名前知らねぇのかよ」
そんなこと言われましても……。
ヒーローとか俺全く興味なかったしな。
有名なトップヒーローなら少しは分かるけど、こんな支部にいる若いヒーローなんて知らんがな。
「お前は知ってんのかよ?」
「いや、知らねぇ」
お前も知らねぇのかよ。
でもそうなるとどうすればいいんだ。
ファンを自称するのに名前も知らねぇとかありえないぞ。
「あの、多分あのヒーローの名前は
俺と戸塚がまたくだらない言い合いをしてる中、口をはさんで教えてくれたのは、星川の友達という日向さんだ。
いやぁ、知っている人がいて助かったな。
「ありがとう。でもよく知ってたね」
マイナーヒーローのことまで知っているなんて凄いな。
ヒーローの事が好きなのだろうか。
いや、それはあり得ないか。
ヒーローが好きなのになんでその敵であるゾディアックの構成員になるんだよって話だし。
「いや、普通ゾディアック構成員ならヒーローの名前と顔ぐらい覚えるでしょ」
え……。
ゾディアック構成員ってみんなそんなに勤勉なの?
俺は思わず戸塚と星川の顔を伺う。
すると、2人共から同じような反応が返ってきた。
『マジ?』
『いやないないない! 絶対ない!』
という会話が交わされた気がする。
よかった、俺が不真面目なだけじゃなくて。
「じゃあ台詞は『あの、ヒーローの島田雄太さんですよね? 実はファンなんです!』とかでどうだ?」
「あぁ、それでいいけど最低限その島田さんの実績とかを調べた方がいいんじゃないか?」
それもそうか。
戸塚に冷静な指摘をされて、俺は慌ててスマホを取り出す。
早速某検索エンジンを使ってヒーロー島田雄太を調べてみる。
うわ、実績あんまり無いなー。
まあでも地元の小さな事件とかはしっかり解決しているようだし、そこらへんについて感謝しておけば不自然じゃないだろう。
「よし、じゃあ早速行くぞ。話の方は俺に任せてくれ」
「おっけー」
戸塚が軽い返事をして、星川と日向さんは神妙な面落ちで頷く。
そして俺は尾行しているヒーローに早歩きで近づいていき……。
「あの、ヒーローの島田雄太さんですよね? 実はファンなんです!」
事前に決めておいた台詞を間違えることなく感情をこめて言う。
なんか不自然な感じになってないだろうか。
戸塚たちもしっかり後ろについてきている。
「え、俺の!?」
振り返り、俺の言葉に驚いたような反応を見せるヒーロー。
もちろん嘘だが、そんなことはおくびにも出さず、「はい!」と力強く頷く。
「んふふ……嬉しいなぁ」
ヒーロー島田は、俺の返答に満足げに頬を緩ませる。
その表情は正直言ってキモい。
まあでもこうなるのも無理はないのか。
超能力犯罪が起こるのは圧倒的に東京が多い。
それというのも、三大秘密結社のアジトがすべて東京にあるからだ。
そのため支部のヒーローと言うのはあまり活躍の機会がない。
そして優秀なヒーローはすぐに支部から東京の本部に引き抜かれてしまう。
だから支部にいるヒーローは、英雄扱いされている本部ヒーローと比べて日陰にいるのだ。
当然ファンも少ないだろう。
だからこうして学生たちにファンだと直接言われるのが嬉しかったんだな。
そう思うと、俺のこの言葉に微塵も本心が含まれていないことに罪悪感を感じてしまう。
いや、そんな甘いことを言っている場合じゃない。
心を鬼にして……。
「そういえば今度大規模な秘密結社の討伐を行うんですよね? 島田さんはどういう活躍をされるんですか?」
今回の任務の核心に迫ることを早速聞き出しにかかる。
悠長に話し込んでいる時間はないからな。
それにこのヒーローだってれっきとした見回りと言う仕事の最中だ。
そう長くファンサービスに時間は取れないだろう。
この調子ならちょろっと口を滑らせるくらいは出来そうだが……。
さぁ、どうなる?
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