Episode Ⅲ

第25話.嵐の後

「はぁー、眠い」


 俺は教室の自分の机に突っ伏しながら、ぼそりと呟く。


 あれから一夜が明け、現在時刻は12時20分。


 ちょうど4限目の授業が終わったところである。


 昨日は結局アジトに戻るなり、俺だけはさっさと学校の寮に強制的に帰らせられたから、星川があんな暴挙にでた理由は聞かせてもらえなかった。


 だからそれが気になって夜も眠れなかったから寝不足なのだ。


 朝学校に来た時、変わらず星川がしっかり学校に来ていたので、少し尋ねてみようかと考えたのだが、やはりどこか元気のないような表情だったのでやめた。


 まあ学校では話しかけづらいというのもある。


 それとその上、昨日はあれだけの事をやったから身体的にも疲労がめちゃくちゃ溜まっている。


 そのせいで昼休憩、腹は減っているのだがどうしても食欲が起きない。


 しかしそういう訳にもいかない。


 昨日の夜はあんまり食わなかったし、今日の朝食も今と同じ理由で抜いている。


 その上、昼まで抜いたら本当にぶっ倒れかねない。


 俺は動きたくない、と悲鳴を上げる体に鞭打って椅子から立ち上がる。


 寮生活だから、弁当などは当然ない。


 昼飯は寮にある食堂に行って食うことになる。


 全校生徒が一斉に向かうからさっさと行かないと昼飯を食う時間が無くなってしまう。


 そう思った俺は廊下が人で埋め尽くされる前に、足を早めて食堂に向かうのだった。




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 食堂はすでにもう沢山の先客でごったがえしていた。


 皆わいわい友達と話しながら食事を楽しんでる。


 そういえば俺は一緒に飯を食うような友達はいない。


 ということはボッチ飯か。


 中学までは基本的に近くの席の人と強制的に席をくっつけて食べさせられるが、高校からはそんなことはしないからな……。


 まぁ別にぼっちで食うのが寂しい、などということはない。


 そんなことはもう慣れっこさ。


 でもほとんどの人が友達と一緒に飯を食っている中、俺は1人席で誰と会話することもなく黙々と食事をしているってのが恥ずかしいんだよな。


 まぁそんなこと言って立ちすくんでいても次々人が来て席が無くなるだけだから、さっさと食い始めますか。


 そう思って、窓際の席にトレーを置こうとした時……。


「なぁ、君、同じクラスの能見君だろ?」


 突然後ろから肩を軽く叩かれて話しかけられる。


 あー……、なんか見たことがある気がするんだけど……。


 誰だっけ……?


 正直昨日の入学式の後、自己紹介をしたけど、クラスメイトの名前なんて全く覚えていない。


 というか覚える気がはなから無かった。


「えーっと……」


 そのため名前が思い出せず返答に困ってしまう。


 まさか「誰だっけ?」とは言えないからな。


「俺は戸塚柊とつかしゅう。1人なら一緒に飯食わないか?」


「あ、うん」


 俺は流されるまま頷いてしまう。


 まぁ別に一緒に飯を食うぐらい別にいいけど。


 俺は1人席に置いたトレーを後ろにある2人用の席に移し替える。


「あー……。できればもう少し端の方の席に座ろう」


「……? あぁ、まあ別にいいけど」


 一体何なんだ?


 まあとりあえず言われた通りにトレーを持って戸塚についていく。


 そして戸塚は本当に一番奥の席まで行くと、そこに自分のトレーを置いた。


 俺もその対面の席にトレーを置く。


 一体何なんだ……と俺は不審に思いながら食事を始めた。


「なぁ、君ってゾディアックの人間だろ?」


「!?」


 唐突に何気ない口調で話してくる戸塚。


 しかし、口にしたその内容は全然穏やかなものじゃない。


 なるほど、そういう話をするためににわざわざ端の方の人の少ない場所を選んだってことね。


 いや、それよりもなんでこいつがそんなことを知っている……?


「あぁ、いや、そんな警戒しないでくれ。別に他の組織の人間とかってわけじゃない。俺もゾディアックの構成員なんだよ」


「は……?」


 どういうことだ?


 今年ゾディアックに入ってきたのは俺と星川だけだって聞いてたのに……。


「あぁ、構成員とは言っても俺は超能力者ではないけどな」


 あーね、あの黒服たちみたいな立場ってことね。


 考えてみればこの学校は教師にまでゾディアックの関係者が混ざっている。


 生徒の中の関係者が超能力者だけだと考えるのはおかしいだろう。


「なる……ほど……」


 かろうじて納得のいく説明を自分の頭でつけられたことで、俺は若干の戸惑いを残しながらも頷く。


「てかだからなんだよ」


 この戸塚という男がゾディアックに関係している人間であるため、俺の素性をしっていることは分かった。


 しかし、こいつが言いたいのは「同じゾディアックの仲間なんだから仲良くやろうぜ」的な中身のないことなのだろうか。


 俺はもう少し重要な話をするために接触してきたのかと思ったが……。


「あー、昨日の事件について少し俺の親父に聞いてね。親父もゾディアックの構成員なんだよ。それでちょっと君が気になっていることがあるんじゃないかなーと思ってね」


 戸塚はさらりと気になることを垂れ流していく。


 正直話の途中に割り込みたい気持ちでいっぱいだ。


 しかし我慢して聞き続ける。


 その後一呼吸おいて、戸塚はそのまま張り付いたような笑みを浮かべながら、こう続けた。


「例えば、君の同期の超能力者の星川さんのこととかね」


 俺はその言葉に凍り付いた。

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