2.選抜試験−2
自分の好きなタイミングで斬りかかっていいと言われたからにはレイは一度深呼吸をし、目を閉じ、深く構える。そして超集中状態へ達する。
構えてから5秒程経つが黙った石のように動かない。左手は鞘に、右手は柄にまだ触れてはいなかった。
――あいつ、なにをしてるんだ?
――怖じ気づいたんじゃね?
ギャラリーも若干ざわつき始める。このレイの緊張感は誰にも伝わっていないのだ。そして逆にギャラリーの声もレイには伝わっていなかった。
レイは一人、外から隔絶された(した)世界にいた。この異常な集中力と、その域に達する速さはレイの長所である。
そこに時間も無ければ、音もないのだ。
そしてレイの右手が訓練刀の柄を、その刹那。
ドンッッッッッ!!! パキンッッッ!!!
地面には激しい亀裂が走っている。生身の人間の脚力の仕業にしてはあまりに大きすぎる。
――何が起きたんだ?
――何をしたんだあいつは?
その場にいた者は油断していたのもあり、誰もレイの動きを捉えられなかった。
それは担当教師も例外ではなかった。
「な、なんだいまのは?身体強化を、、使ってないのか?君、それで素なのか?」
「はい、使ってません。そもそも僕魔法使えませんから」
レイは訓練刀を鞘にしまう。
「確かにセルソンは反応していないな。いやぁ、驚いた。文句ナシ!合格だ!」
「ありがとうございます!」
互いに一礼をし、レイは喜びと共に退場する。
退場間際、レイは一人の生徒に近づく。
「ほら、やってみないと判らないだろ?」
レイはニカっと笑む。
「う、うん、君はすごいね」
側から見ればただの煽り行為だ。
しかしレイはそんなつもりはなく、励ますつもりで声をかけたのだ。
まだ人と関わり始めて1ヶ月程度。気配りの方法をまだよく知らないのだ。
◇ ◇ ◇ ◇
「先生、大丈夫ですか?」
「いやぁ、驚かされた。瞬きしたら前にいねぇんだもん」
担当教師はその生徒から剣を預かる。
「第3クラスだからって油断していたな。教師としてあるまじき行為だったよ」
「あの子が今年の学術首席なんですか?」
「ああ、そうだな。史上最高得点を収めたらしい」
「すごいですね。勉強もできて剣術もできるなんて」
「そういう君だって同じじゃないか。去年の学術首席の岌鬼
「でも結局入学試験以来、首席取れてませんけどね」
隆伊は自虐の皮肉を言う。
「次、四組・・・」
(―へぇ、あいつが潤女玲か)
◇ ◇ ◇ ◇
訓練場を出ると、隆遠がいた。
「お、ずいぶんお早いお帰りだったな。弾き飛ばされたか?」
「いやいや、弾き飛ばしたのは僕の方だよ」
「は?お前何言ってんだ。逆転の発想ってやつか?さすが頭のいい奴が言うことはおもしろいな」
はははははと笑って隆遠は競技服を脱ぎ終え、その場を去る。
「信じてもらえてないなぁ」
レイも競技服を脱ぎ、訓練刀を嘆息とともに返却する。
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