1. 選抜試験-1

◇第3クラス屋内訓練場




「お、我らが第3クラスの天才くんじゃん」

 同じ剣術志望なのだろうか。男子生徒がレイに話しかける。



 新緑の季節。魔法公学校では武技競戦、魔法競戦が一年毎入れ替わりで行われる。この校内戦で好成績を収めたものは秋に行われる魔法校戦に出場できる権利を得られる。


 今年は武技競戦で、魔法ではなく、体術(武器を用いないもの)、剣術(短刀〜槍まで。長さは自由)、弓術(主に的当て)、の全て個人戦である。

 武技競戦は魔法競戦よりクラスの差がでにくく、第3クラスでも魔法校戦に出場できる可能性は大いにある。(とは言っても殆どが第1クラス、Aクラス(第2クラスの最高クラス)で構成されるが)


 レイは剣術を志望した。志望と書いてあるのは第3クラス内だけでも選抜があり、校内戦(武技競戦)に出場するのにも一定の基準があるのだ。



「僕のことかい?」

「そうだよ。逆に他に誰がいるんだよ。……へー片刃使うのか。珍しいもん使ってるんだな。それも崇高な何かの戦略なのか?」


 レイの腰に差している剣を見て言う。


「いや、僕は魔法が使えないからってだけだよ」



 剣は諸刃を使うのが現代の主流である。魔法師は基礎応用付与魔法で刃に干渉して使うので諸刃の方が都合がいいのだ。しかし魔法操作が苦手なものや、魔力量が少ないものは片刃を使うこともある。


 ただ剣は鞘で諸刃か片刃かが判断されるので片刃の剣を持ち歩くことは「私は魔法が使えません」と言っていることと等しく、偏見もある為、大抵の魔法を不得意とする人は諸刃の形をした片刃を使うことが多い。

 逆に、主に世界東部で「私は剣の達人です」という意味もあったりもする。



「魔法使えないのか。天は二物を与えないってやつだな。まあ俺も使えないから諸刃に見してるだけだけどな。…あっ同じ組のやつきたから向こう行くわ、じゃあな」


 勿論ここでの”使えない”はレイの使った”使えない”と意味は異なる。



「あ、うん」



 学術首席という看板が大きすぎる所為なのだろうか、レイの周りには不思議な空間が出来ている。



「それでは第3クラス武技競戦剣術部門の選抜試験を行う。1組から順に行う。選抜では剣は訓練刀を、あと競技服セルソンを着用するように。故意の基礎付与魔法は感知されてしまうから気をつけるように」



 基礎付与魔法。基礎魔法に分類される魔法で主に身体強化が分類される。身体強化は文字通り、身体の身体機能を魔法によって引き上げるもので、例えば第1クラスの生徒など、保有魔力量の多い人は気づかずに行っていることが多い。

 魔力量が大きいと、血液などに魔子マースが溶け込んでいることがあるからだ。

 それが所以で武技競戦についても上位クラスのほうが有利と考えられているのだ。


 武技競戦ではこの身体強化さえも禁止されているのだ。競技服セルソンは基礎付与魔法妨害の魔法陣と魔法感知の魔法陣が織り込まれていている。しかし相当の魔法の使い手でないと、妨害の魔法陣を破るような身体強化はできないため、今までこれについての反則をもらった生徒はいない。

 ただ先述の通り、ナチュラルな身体強化は反則にはならない。




                ◇    ◇    ◇    ◇

 



「四組の志願者。訓練場に入れ」


 第3クラス四組からはレイ以外にも5、6人志願者がいた。


「これがセルソンってやつか。見た目以上に軽いなぁ」


 競技服セルソンは白色の道着で、丈夫で分厚い生地ではあるのだが、その質量は感じさせない。



「選抜方法は担当教師との試合で、教師が一定以上の実力があると判断したときのみに選抜通過となる。ちなみに一組から三組まで終わって合格者は1名のみである」



 諦念からの笑い声で騒つく。


 その笑い声に割って入る。


「合格っ!!」



「っと、ああ、合格者が出たね。2名になった」



 レイはその時競技服セルソンを着ていた。


「おお。さっきの天才くんじゃん!俺は通過したぜ!まあお前さんも頑張りなよ。まっ、その頭脳がありゃ余裕か!ははははは」


 その合格者というのはさっきレイに話しかけてきた男子生徒だった。

 頭脳はあまり関係ないのではないかな、と思うレイであった。


「ありがとう!」



 ふふと鼻で笑い、手をひらひらして、振り向かずに去っていく。



潤女うるめくん、多分馬鹿にされてるんだよ?」

 四組のレイの後ろに並んでいた生徒が話しかける。


「え?そうなのかい?」

「うん、この選抜試験って第3クラスはほぼ受からないんだ。

 彼は岌鬼ぎゅうき隆遠たかみち。岌鬼家の人間で第3クラスだけど剣術だけでも魔法師相手にも引けを取らない割と有名な士族なんだよ。魔法校戦に出場できる初めての第3クラスの生徒なのではないかって評判になってるよ。だからたぶん本当は向こうはただの庶民なんて眼中にないんだよ」

「そ、そうなのか。でもやってみないと判らないじゃん。僕は足掻くぞ!」

「そ、そうかい?」


 そのままその生徒は後退する。

 この微妙に取られる距離感はどうにかならないかなぁ、というのがいまのレイの悩み事である。


「次、四組。潤女玲!」



 「はい!」と返事をしてから、レイは担当教師の真正面、10mくらい離れた場所に立った。

 試験も片刃の訓練刀を使用することにした。

 いつもはローブの下に着ている、ズボンに刀の腰帯があるのだが、その上から競技服セルソンを着てしまったため、訓練刀を左手に持って戦うことにした。


「よし、準備はできてるな。ほぉ、君があの潤女くんか。こちらからは仕掛けない。君の好きなタイミングでかかってきてくれ!」


「解りました」

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