第24話 見上げた夜空の果てに①


「 先生ー、安全運転でお願いしますよー 」

「 分かってるわ、渡辺。そんな事よりシートベルトを早く閉めろ 」

「 はーい 」


じめじめと鬱陶しかった梅雨は、七月に入ると夏にせかされるように今年も役目を出番を終えた。

定期考査も過ぎ、大学には夏休みがやってきた。


しかし夏休みであるというのに、僕は重たい荷物を携え大学にいる。


「 弘樹くん、暑いでしょ。早く乗りなって 」

「 あぁ、先に後ろに荷物を積むよ 」

まだ9時だというのに太陽はウオーミングアップを終えているようだ。

じりじりと照り付ける日差しが早くも僕のHPを減らし始める。


既に運転席には、いつもと違いラフな格好にサングラスをかけた森センが座り、助手席に座る渡辺さんから目的地の住所を聞いてナビを設定している。


僕は自分の荷物とハードケースに入れた天体望遠鏡を後ろに積むと、後部座席に座った。

「 先生、弘樹くん荷物積み終わりましたよ」

「 よし、行くとするか 」


前の席からは愛子さんの「 おー! 」という声が聞こえてくる。

隣を見ると杏香さんが控えめに手を挙げていた。


「 あ………… 」


ふと目が合うと彼女は恥ずかしそうに顔を逸らしてしまった。

バックミラー越しに愛子さんの冷ややかな目が移る


( え? これ俺が悪いの? )


「 冗談だよ 」

そう言って彼女はケラケラと笑った。

(君はエスパーか何かなのかな?)


俺が夏休みだというのに外に出ている理由。


それは今日から俺たちは二泊三日の夏合宿だからだ。

目的地の奥多摩まで森センが借りてきたレンタカーで向かう。


前の二人は既に曲に合わせて歌ったりしているが、後部座席の俺たちは少しだけ気まずい。



あの二人で出掛けた日から僕は杏香さんとの距離感を掴めずにいる。

学校がある日は毎日会っていたし、ついこの間も愛子さんと三人で合宿の買い物に行った。


しかし彼女はずっと俺を避けているような気がする。愛子さんもその態度には若干不思議そうな顔をしていた。


『 弘樹君、杏香になんかしたの? 』

『 いや、特には思いつかないんだけど 』

『 ほんとに? なんかちょっと変じゃない? 』

『 ほんとだって! でもちょっとおかしいかな 』


試験前に部室で愛子さんと会話した内容を思い出す。

まだ杏香さんが「提出物出してくると」一度席を外した時に彼女に聞かれた。


「 にしても先生、いい車借りましたね 」

「 ふふん、見直したか! 渡辺! 」

「 いいえ、調子に乗らないでください 」


どこからそんな低い声出るんだってくらいの声で答える。

そんなやり取りを後ろで笑って見る。


部室がそのまま移動しているみたいで、なんだか楽しい。


それにしても待ち合わせの大学の駐車場にこの車が入ってきた時は驚いた。

黒塗りの大型車。4人しかいないのに8人乗り。


まぁ後ろの席は荷物置きとして充分な働きをしているが…………


行くなら自費でとなっていたが、そこまでの出費とはならなかった。

実際キャンプ場の使用料と食費くらいで、一体どこからこの車代が出てきたのかは不明である。


「 ははは、聞いて驚くな。この車はレンタカーではないのだ! 」

「 どういうことですか? まさか盗んできたとか? 」

「 なぜそうなる! そんなことあるわけないだろ!」

「 え? 」

「 あ? 」


前列で、揉めている。いや、じゃれているのか?


先生と愛子さんは日常の会話からも感じることが出来るがかなり仲が良い。

森センが他の教授よりも若いこともあるだろうが、どこか夫婦漫才のような雰囲気がある。


「 車は友達に借りてきた。ただそれだけのことだ 」 

「 なーんだ。つまらないの 」


思ったよりも単純な理由に、愛子さんはつまらなそうに窓の外へ視線を移した。



大学から奥多摩のキャンプ場までは車で一時間ほどである。

そこまで長くない道のりであるが、その過程は僕にとって新鮮である。


二人は普段からこんな事をやっていたのだろうか?


そう思うと胸の奥が少し締め付けられるような気がした。


外の景色を見ていると、不意に服の袖を引っ張られる。


「 弘樹? どうかしたの?」

「 あ、いや。なんでもないよ 」

「 そっか…………、ごめん 」

「 こちらこそ、なんかごめん 」



先ほど日差しに当てられたからだろうか。顔が熱い。

杏香さんも顔を逸らしてしまったが、掴まれた袖はそのままだ。


「 先生、後ろでいちゃこらしてる奴らがいます 」

「 なーに? けしからんな 」


前列の二人が僕たちをからかい始める。


「「 いちゃついてない!! 」」


「 あ 」

「 あ 」


二人でハモってしまったことでさらに顔が熱くなる。


「 二人ともー行きぴったりー 」

「 ぴったりー 」


待て先生、そんなキャラではなかっただろう。


(あぁ、前途多難だ。果たして僕はちゃんと三日後には帰られるのだろうか)



そうして僕たちの夏合宿が始まる。









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